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悪夢の始まり

ぜひ最後まで読んでください。


「…え?」


 デス、ゲーム…?


 さっきからさっぱり意味が分からない。

 ゲーム世界の中というのは、この時代ならば技術的にできると思う。新作ゲームだろうか。

 だが、自分はそんなゲームを知らない。


 それに、ゲームということは夢ではないわけで、現実だということだ。


「あ、もしかして、ここがゲーム世界なら、現実で、篠崎は、無事?」


 蓮が泣いてるみたいな震える声でそう言った。一縷(いちる)の希望を込めてのことだった。


 だが、願いの糸は容易く断ち切られる。


『んーん、この世界での死は現実世界での死なんだよ。なんかね、ここでゲームオーバーするとぉ、現実で脳が焼き切れちゃうの』


 どうやって焼き切るのだろうか。

 現実での俺はなにかを装着しているのだろうか。そいつが俺たちの脳を焼き切って…。


『今みんなどうやってぇ、って思ったでしょ。特別に教えてあげちゃう! 別に何も装着してないよぉ! 君たちが日頃から使っていた物の影響で勝手に焼き切れるんだ』


 やはり意味が分からない。

 他の五人は、首を傾げる者もいれば、そもそも死体のことで頭がいっぱいで何も考えられそうにない者もいた。


 もう一度、教室の中央に眠る篠崎を見た。

 現実でのことは俺にはよく分からないが、ここがゲーム世界だとしても、彼を殺した敵がいるはずだ。


 もし、この声の主が嘘をついていれば、篠崎は…。


「おい、篠崎は現実でも死んだってのか」


 篠崎は、現実で生きているのか。


 誰も聞かなかったその問いを口にした者がいた。

 赤の髪を後ろに流してオールバックにしている鬼島龍(きしまりゅう)だ。彼もまた俺と同じように私服姿だ。黒のTシャツから出る腕は筋肉質で、ズボンは青系のジーンズ。


 彼の隣には、涙目になって吐き気を必死に抑えている翡翠要(ひすいかなめ)がいる。意外にも私服はお洒落な白いトップスと黒の短パンだ。特攻服は着ていない。鬼島の体格の良さが彼女の視界を狭め、遺体が目に入らないようにしている。

 いくら暴走族でも、遺体を見たことのある者は少ないわけだ。ましてや彼女は高校一年の少女。吐かないだけでもすごいと思う。


『篠崎大和くんはねぇ〜』


 声は、なんてことないように、友達を遊びに誘う時みたいに青年の名を口にした。語尾が伸びるのがやけに腹立つ。


 誰もがごくり、と唾を飲み、その先にくる言葉を待った。


『死んじゃったんだなぁ、残念』


 声がそう告げると同時に、深緑の前黒板にいくつもの画面が現れた。誰も授業で使うようなスクリーンはつけていないのだが、これもゲームだから、というやつだろうか。


 五つほどの画面は、そこにテレビがあって映っている、というのではなくて本当にスクリーンで映されるみたいに虚空にあった。


 一つの画面は、『篠崎大和さんが死亡』という見出しのテレビニュース。


 もう一つの画面は、『篠崎さんが死亡、脳が損傷したと思われる』との見出し。


 また別の画面は、『何者かによるデスゲーム宣言から二時間』と気になるフレーズが。


 翡翠要以外の全員が黒板に釘付けになって食い入るように見つめる。翡翠要だけはまだメンタルが戻らず、鬼島の腕に体をもたれさせている。


『気づいた? 気づいた? ここでジャジャジャーンっともんだぁーい! さてさて鬼島龍くん? この映像はなーんだっ!!』


 教師が生徒を当てるのを真似してみたんだろうが、今の状況では悪趣味極まりない。比較的冷静に精神を保っている鬼島を当てたところだけが優しさというところか。


「現実世界のニュース、か」


 疑問系ではなく確信しているように鬼島は答えた。

 よく見れば、冷静ではあるものの拳を固く握りしめている。多分、普段犯罪者への抑止力になっている彼は人が殺されるということに悔しさを感じるだろうし、自分が現実で何かに囚われている可能性があるという悔しさもあるのだろう。


『せいかぁ〜い! もー、鬼島くんたらあったまいいんだから!』


 めんどくさい彼女の口ぶりみたいな声でそう返ってくる。


『でもでもぉ、囚われてはないんだなぁ。みんな病院にいるよぉ』


 そういえば、現実で何者かに監禁などの方法で囚われていたら先ほどのニュースのように世間に死亡が分かるはずがない。


 それに、気になるのは…。


「何者かによるデスゲーム宣言って、なんだ」


 頭で考えるよりも先に、言葉に出してしまっていた。

 この状況では、一つ行動を間違えれば篠崎のように殺されるかもしれない。だから言動は慎重にするべきだったのに。


 だが、俺の質問に乗っかる者がいた。


「おれ様も気になるなぁ、ソレ!」


 この状況下で楽しそうな声を発したのは、隣のクラス、二年四組の生徒である伊賀千矢(いがせんや)だ。金髪に染めているのは高校デビューだろうか。眼は普通に黒色だが、奥の見えない謎めいた深さを持っている。身長は百七十二センチ程度で、細マッチョみたいな体型。足が速そうな印象を覚える。実際、去年の体育祭では陸上部ばかりの百メートル走で優勝していた気がする。


 今の彼は、制服ではなく普段使いの白シャツと短パンを着ていた。意外な私服姿だ。なんかもっとこう、チャラついた感じかと思っていた。


「いやぁ、ちょっと気になってよぉ、いくつか質問してぇんだがいいか? いいよな」


 勝手に話を進めていく。この状況でよくできるなと感心する。


「一つ、現実でおれ様たちの身体は保護されているのか」


 右手の人差し指を立て、次に中指も立てる。


「二つ、どうやって現実世界とそっくりなゲーム世界を作った? おれ様たちの部屋の中までそっくりじゃねぇか」


 薬指が立てられる。


「三つ、これが一番重要だ…どうして、篠崎は死んだ?」


 最後の言葉だけは、楽しげではなかった。探偵が犯人を問い詰める時みたいな低くて重みのある声音だ。


「何言ってる、篠崎は脳が焼き切れて……そういうことか」


 異を唱えようとした鬼島だったが、すぐにその質問の意図に気がついたようだ。俺には何も分からないが。


「ああ、そういうことだよ、総長サマ」


 伊賀はニヤリと笑って鬼島にそう言うと、また黒板を向いた。


「現実世界では脳が焼き切れた。でもそれは現実での話だ。この世界では一体なんで殺された? デスゲームだと言うが、まだなんのゲームもしてねぇ。篠崎が何らかの理由でこの声の主に嫌われたとしても、脳を焼き切るだけでいい。こんなふうにゲーム世界の身体を大量出血にする必要はないんだ」


 さっき俺が一瞬考えた、ゲーム世界だとしても篠崎を殺した敵がいるはず、というやつか。それでも、伊賀はもっと多くを考えているようだが。


 沈黙が降りる。

 現実と同じように黒板の中央の上に設置された時計の秒針がカタカタと音を立てて進んでいた。


 やがて、声が答えた。


『ブラボー! ファンタスティック! エクセレント! パーフェクト! ベリーベリーグッド! ナイス!』


 考えうる限りの褒め言葉を言い始めた。全部カタカナ言葉だが。


『まずは一つ目から答えてぇ、いこう!』


 一人騒いだ後、声はようやく本題へと入った。


『まずはぁ、現実でどうなってるか、だね? さっきのニュースにあったように、何者かによるデスゲーム宣言によって、警察署に届いた紙に写真が載っていた君たちは、保護されているよぅ。でもね、現実での君たちは目覚めないのぉ。眠ってるというよりは、強制的に仮想世界、ずはりこのゲーム空間にログインさせてるんだねぇ。で、この世界での死は現実での死だから、警察さんたちも無理矢理君たちを起こせないわけ。電気ショックでも与えれば現実に引き戻されるかもしれないけどぉ〜、ね?』


 なるほど、この世界での死は現実での死に直結するのだから、現実から無理やり起こしてこの世界から強制ログアウトをすれば…。

 ゲームでよくあるだろう。何らかのバグとかで、電源が落ちるなりしてデータ吹っ飛んでスタート画面に戻ったりするのが。

 それが起こると言うわけだ。

 現実がスタート画面だとすると、何らかのバグが電気ショックなどに当たる。バグで強制ログアウト、つまりデータが吹っ飛ぶことはゲーム空間での死だ。そして、ゲーム空間での死は現実での死。


 警察などが一か八かでやるには、俺たちが死ぬリスクが高い。強制ログアウトをさせて死んだら警察が責任を負うのだから、多分世間は強制ログアウトをさせない方針だろう。


 こうなると、現実からの救助は諦めるべきか。


『もちろん、ゲーム空間から意識が離れるのがすごく速ければ、現実でも大丈夫だよ。脳が焼き切れる前に現実まで意識を戻せれば、ね。そんな猛者いないと思うけど』


 そういう理由により、保護はされているし、点滴による栄養補給もされているけれども、起こしてはくれない、と。


『二つめぇ〜! どうやって現実と一緒にしたかぁ〜! これはねぇ、いろんな監視カメラとか、スマホの写真とかを盗み見てぇ、データとして取り入れて組み合わせたんだぁ。あ! そうだそうだぁ。先に言っとかないとぉ〜。えっとねぇ、流石に外国とか他県とか行かれるとデスゲームの幅が広すぎるからねぇ、この街だけだよぉ。あとは必要に応じて隣町とかが現れるけどねぇ』


 行動範囲が狭い。というか、ここにいる全員がこの街に住んでいるのか? 高校だから遠くから来る者もいると思うが。


『みんなこの街だよぉ〜。そういう子を選んだからねぇ』


 さっきからちょくちょく思考回路を覗かれているような気がするのは何故だろう。


『そんだけ君たちの思考が単純なんだよぉ〜。さてさて、三つ目いこぉ!』


 ……悲しい。姿の見えない人物にここまで愚弄されるとは。


『篠崎くんのことだねぇ〜。これは最初のデスゲームに関与します!』


 ついに、デスゲームが本格的に始まるのか!?


 やばい、俺、そういう知識少ないのに。

 もっとデスゲーム系のゲームやっときゃよかった、と今更ながら後悔する。マキシの配信で少し見たくらいしか経験がないのだ。


 それに、篠崎の死と関わるのが気になる。


『ぶっちゃけ、篠崎くんが死んだのはこの教室に最初に来たからなんだよなぁ』


「そんな簡単に人を殺すな!」


 叫んだのは蓮だった。そういえば、蓮と篠崎は中学が同じだったか。


『……ごめんね?』


 妙な間があったのが気になったが、声は謝った。


『彼を殺したのは通称クロさんっていう暗殺者。はじめてのゲームでは、このクロさんを捕まえてもらうよぉ〜! あ、もちろん捕まえなくても殺してもいいからねっ!?』


 ワクワクが止まらない様子の声。

 それに反比例するように、俺たちの空気は重くなった。


「捕まえるって…無理があるね」


 部屋の隅に立つ女がそう呟いた。


 黒いセーラー服の上に重そうな黒いローブを着ているのは、二年生の間じゃ有名な不登校の生徒。名前は未空雪音(みそらゆきね)。イジメとかではなく、純粋に彼女があまり学校に来ないらしい。体が弱いのだろうか?


「わたしなら…無理」


 か弱い声でぶつぶつと無理無理呟き続ける様子は異様だが、まあ、あんな細くて肌の白い、百六十センチもなさそうな体格で運動苦手そうな少女じゃあ戦闘は無理だろう。気持ちは分かる。男の俺でも怖いのだ。


「多分、殺しちゃう…」


 ボソリ、と吐き出されたその言葉は狂気を孕んでいた。


 ──え、あの子ってヤバい子?


 そんな俺の思考を声は読まなかった。

 話が進められる。


『そんなわけでぇ! レッツゴー! クロさん捕獲大作戦!』


 名前、ださ。


□■□■□


 こうして始まるデスゲーム第一回。


 友人の死に引きずられながらも、己の未来を守るべく。


 まだ使命感とか友の仇とか、そんなことは考えられない。


 頭の中がパンクしそうな情報量と、あまり話したことのない仲間たち。


 ──自分の未来など、何も見えなかった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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