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友情+独占欲=愛情?  作者: ろーすとびーふ
第一章「新学期」
3/5

 オリエンテーションの日の放課後、彩と連絡先を交換した玲香は、メッセージでのやり取りの末、駅前に新しくできた商業施設に行くことになった。そこには様々なテナントが入っており、一日中楽しむことも可能である。玲香は初めて行く場所に、期待を膨らませていた。


 約束の日の朝、玲香はいつも通り、朝のルーティンを済ませ、制服ではなく私服に着替える。この日の私服は、グレーのフレアスカートに白のニットセーター、その上に黒のブルゾンを羽織った、春らしいコーデである。

 朝の十時に待ち合わせをしている玲香は、家の近くの鎌ヶ崎駅まで徒歩で赴く。

 目的地である紫苑しおん駅には、電車でも数十分ほどかかる。その間も、電車に揺られながら彩と連絡を取っていた玲香だが、気が付くといつの間にか目的の駅に到着していた。


 改札を抜けた玲香は、駅前のロータリーで彩を待つ。

「お、玲香! お待たせ~!」

 後ろから唐突に声をかけられ、驚いた玲香だったが、声の主が彩であることに気づいて安堵する。彩は、クリーム色のブラウスに、ブラウンのジャンパースカートという格好であった。いつものツインテールは変わらないものの、その容姿に新鮮さを覚えた玲香は、瑞々しい声音で彩に驚きを告げる。

「彩、バスで来たんだね」

 てっきり、電車で来るものだと思っていた玲香に、彩はニコニコしながらこう言った。

「うん! 家、ここから近いから!」

「へぇ……毎朝大変そうだね……」

 玲香は真っ先に学校との距離を気にしてしまう。高校がある鎌ヶ崎とは、数十キロ程度離れているため、毎日の通学のことを考えると尊敬するしかない玲香であった。

「ううん、電車使ったら一瞬だよ!」

 徒歩通学である玲香には、彩の言葉が信じられなかった。


 駅に隣接する商業施設に入った二人は、周囲を見回す。

「玲香、どこ行く?」

 目を輝かせて尋ねてくる彩を見ていると、玲香の感情も高ぶってくる。

「とりあえず、ここの雑貨屋とかどう?」

 玲香はスマホに表示させたフロアマップを指さしながら答えた。その声音には、多量の興奮が混ざっていた。

「おっけ~!」

 彩の快諾をもらった玲香は、二人で雑貨屋へと歩き始めた。


「見て、玲香! これ、めっちゃかわいくない?」

「うわ、かわいいね!」

 店舗内に入るや否や、彩はデフォルメされた猫のかわいらしいキーホルダーを指さしていた。そして、その指をそのままキーホルダーに近づけ、二匹の猫を手に取る。

「これ、お揃いで買わない?」

 そう言いながら、玲香を見つめる彩。『お揃い』というものをあまり経験したことのない玲香だったが、彩との親睦の証にはピッタリであろう。そう考え、頷きながら答えた。

「いいね、それ!」


 レジに向かい、二つのお揃いキーホルダーを購入した玲香と彩は、その足で階上のゲームセンターに向かっていた。

 ゲームセンターの入り口付近にあった、半球状の小型クレーンゲームを見つけた玲香は、彩に声をかける。

「ねぇ彩、このひよこのやつやらない?」

「うわ! 数えきれないほどひよこがいる……」

 まるで黄色い海のように、ガラス球の中には大量のひよこの小物が入っていた。お金の投入口には、百円で十回プレイできると書いてある。

「ひよこ、取り放題じゃん!」

「わたし、やってみるね」

 この価格設定に興奮を抑えきれない彩を横目に、取り敢えず百円を投入し、クレーンを操った玲香は、十回のプレイで五羽のひよこを手に入れた。

「案外取れないものなんだね……」

 もっと簡単に掬い上げられると思っていた玲香は、少し残念そうにつぶやいた。

「よ~し! 次はあやの番だね!」

 気合の入った声に玲香は苦笑いしたものの、その腕前には驚愕せざるを得なかった。

「す、すごい……」

 玲香と同じ回数しかクレーンを操作していないはずなのに、玲香の五倍以上ものひよこを掬い上げたのだ。

「えへへ、さすがに取り過ぎちゃったから玲香に半分あげるよ!」

 正直言って五羽でも十分であった玲香に、その倍ほどのひよこが手渡されたのだから、苦笑を禁じ得ない。

「ありがとう、彩……」

 受け取らないわけにもいかなかった玲香は、弱弱しい感謝を述べつつ、ゲームセンターを後にした。


 続いて二人が向かったのは、同じ階にある落ち着いた雰囲気のカフェであった。テーブル席に着き、玲香はカフェラテ、彩はカプチーノを注文する。

「いや、さっきのはすごかったね」

 ゲームセンターでの出来事を振り返り、思わず彩に声をかけた玲香。それに対し、少し苦笑いしながら彩は答えた。

「実はあや、ああいうのが得意で、いつも取り過ぎちゃうんだよ……」

「へぇ……それは逆に大変だね……」

 クレーンゲームにおいて、取り過ぎてしまうという悩みを初めて聞いた玲香は、彩と同じような表情になった。

 その後、二人の注文した飲み物が来ると、玲香はカフェラテを口にしながらとある疑問を投げかけた。

「そう言えば、月曜日のオリエンテーションの時に、わたしにあんなに熱心に声をかけてくれたのって、なんでなの?」

 その問いを聞いた瞬間、彩のかんばせに若干の恥ずかしさが浮かんだ。カプチーノを飲む手を止める。

「えへへ、実は入学式の時の自己紹介で、『ああ、玲香とは仲良くなれそうだなぁ』って思ったからだよ」

(あの日の自己紹介のおかげだったんだ……)

 玲香の疑問も晴れたところで、二人はこれからの予定を話し合い始めた。


 日が傾き始めるまで遊んだ二人は、電車の時刻に別れを強いられていた。商業施設を後にした二人。満足が飽和している彩の黒茶色の瞳に対して、玲香もまた同様の声音で告げた。

「本当に今日は楽しかった! また一緒に遊ぼうね、彩!」

「うんっ!」

 笑顔で大きく手を振る彩。それに負けじと、玲香も手を振る。駅の改札でちらりと振り返ってもなお、彩は手を振り続けていた。


 一人で電車に乗り込んだ玲香。先ほどまでの楽しさは、その余韻を残すだけだった。鎌ヶ崎駅に着くまで、玲香は今日一日を振り返っていた。

(彩と一緒にいると退屈しないな……これからも友達として仲良くしていきたいな……)

玲香の中では、彩は友達としてかけがえのない存在になっていた。

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