当主リテルシア・チェーロ【前編】
【前編】
ブレアが来てから2年程たち、リテルシアは17になった。領主としての仕事が忙しく、誕生日会なんて開く暇も無くなっていた。帝国では17を成人の為前線が落ち着き次第、にと考えられていた。
レヴィとノアはそれぞれ情報収集のため、帝都へと出向いており数ヶ月屋敷から離れていた。
そんな時、国境を攻めていた隣国は帝国を落とすために国にある全勢力あげて攻めてきた。力に特化した種族の奴隷や盗賊も共に。
主力部隊だけでなく、屋敷が所有する戦闘部隊のうち2割屋敷の護衛に残して前線に投入した。
主力部隊もバラけて応戦するが、圧倒的な戦力差でおされていった。
当主スコルドら主力部隊隊長のアシルにリテルシアを連れて帰るように命じた。「チェーロの血を絶やすな!屋敷へと戻り次第、チェーロ辺境伯当主は我が娘、リテルシア・チェーロに引き継ぐ!生きている者はリテルシアの帰還に尽力せよ!殿はわたしが引き受ける。」と声を張った。
その命令に反応したのはリテルシアだった。
「父様、リティも残ります。チェーロを残すのであれば父様と共に、リティも戦えます。」と傍による。
スコルドはリテルシアの頭を撫でて「リティ、わたしはお前を愛している」と微笑んだ。初めて見た父の笑顔に驚いた。瞬間、浮遊感に襲われた。スコルドがリテルシアを投げたのだ。
「アシル!必ず連れ帰れ!」と命じた。アシルは飛んできたリテルシアを抱えて走り出した。
それにゆづきが横を走りサポートする。
リテルシアを追いに行こうとする敵兵をなぎ飛ばしながら「ここから先へは誰も通しはしない!戦鬼スコルド・チェーロの首、取れるもんなら取ってみろ!」と叫び一気に殲滅していく。
「離してください、アシル。父様を、父様を助けに行かないと」と暴れるリテルシアを抱えながらアシルは「俺はチェーロ家当主に仕える主力部隊です。屋敷に戻るまではスコルド様の命令が絶対。いくらおじょー様でも聞けません!」と涙ぐんだ声で言った。
いくら命令でも、自分の恩人である主人を見捨てて逃げるだなんてしたくなかったのだ。
屋敷へと急ぎ戻ったが、そこにあったのは燃え上がる屋敷。人の焼けるにおい。
敵も味方も関係なく落ちている骸の山だった。
中にはまだ…と助けに入ろうとした時、木陰から出てきたのはアスタリシアだ。
「おかえりなさい姫様。申し訳ありません、屋敷を守ることが出来ず。出てくる時にフェリオを見つけ保護しております。怪我は酷いですが、命に別状はありません。残念ながら別の者には会えてません」と報告した。
裏口の方に人の気配がするといい、アシルとゆづきが武器を構える。出てきたのはシャルロッテとブレアとネアルだった。
彼女らの話を聞くと、たまたま出入口付近で合流出来たのだとか。
ブレアは武器庫の奥にある裏道へ、ネアルは地下室から裏道へ入ったそうだ。
シャルロッテは屋敷内に入ってきた敵兵を殺しながら出口へと向かって来たそうだ。3人が合流してからはシャルロッテが守っててくれたのだ。そして全滅しかけた敵兵は最後の足掻きで火を放った。
報告している時、大きな爆発音がした。先程まで戦っていたところだった。チェーロ領最大の森の3割以上を燃やす山火事へと変わっていった。
それから一時してからノアとレヴィが帝国軍を連れて合流した。帝国を出るのに手間取ってしまったのだという。
帝国軍は山火事の消化とこれを機に隣国に攻めに行くことにしたそうだ。
屋敷の生き残りは、アスタリシア、シャルロッテ、ブレア、フェリオ、ネアルの5人だけだった。