第87話 たまごや……かつために
「さぁさ、こちらの席にどうぞですわ!」
俺たちはその少女に流されるようにカウンター席に案内される。
全員がそこに座ったのを確認すると、少女はタッタッタッと走り出し、裏からカウンターの方へ回った。
カウンターから顔を出そうとしているが、身長が足りないようで、先程から目だけが見え隠れしている。
メアリスより少し身長が高いくらいだろうか?
「お嬢様、こちらの箱をお使いください」
そんなシャーロットを見かねたのか、バトラーはフルーツの描かれた箱をシャーロットの足元に置いた。
「あ、ありがとうですわ! バトラー、お客様方にお料理を用意して!」
「かしこまりました」
バトラーと呼ばれた女性は先に少女が入った裏へ入っていった。
「……こほん、改めましていらっしゃいませ。わたくしの
名前はシャーロット、シャーロット・ピオニーですわ」
シャーロットは箱の上でスカートをつまみ、優雅にお辞儀する。
「あぁ、よろしく。俺はエル・シュラインだ」
「私はメアリス! メアリス・ローザ!」
「ベルはベル・フローレス。」
「キュイ!」
「うちはメディアス、メディアス・アデニウムやでー」
アナは神獣であることを隠すため、シャーロットとバトラーを覗いて念話で会話する。
俺たちの名前を聞くと、シャーロットは目を丸くする。
「どうかしたか?」
「ふふふ、いえ、素敵な名前だな、と思いまして! きっと、皆さんご両親にとても愛されているのでしょう?」
そんなシャーロットの言葉を聞き、メアリスは上機嫌に足を揺らす。
「もっちろん! 私はお父さんが大好きだし、きっとお父さんも私のことが大好きなはず!」
「あらあら、それはとてもよいことですわね! ぜひお話してほしいですわ!」
「うーん、それもいいんだけど……せっかくだから、私はエルの親の話が聞きたいなぁ」
「え? なんでいきなり俺なんだ?」
今のは完全に、メアリスが話す流れだと思ったのだが…………
確かにメアリスの父……ソロウさんのことを正直に話されても困るわけだが…………
「確かに。ベルたちはエルの詳しい話を聞いたことない。」
『うむ! わがはいも興味があるのだ!』
「うちもごっつ気になるんやけど!?」
「ほらほら、みんなもこう言ってるし! 私も聞きたいなぁ」
なぜか皆が俺の両親の話に興味を持つ。
「うーん、楽しい話ではないぞ?」
「部外者ですが、わたくしもぜひ聞きたいですわ。わたくし、お客様とお話するの、とても好きですの」
「……うーん、それならまぁ……ちょっとだけ」
俺はみんなに促され、俺の両親について話すことにした。
あまり乗り気ではないんだけど……
どこから話したらいいだろうか?
◆◆◆◆◆
何の変哲もない、平和な村。
「やあっ! たあっ!」
「ほらほら、そんなんじゃ父さんには当たらないぞー?」
「むぅ、おとうさんずるい! とまっててよ!」
そんな平和な村で少年はがむしゃらに短剣を振るう。
その父親は笑いながらその剣を軽々と避ける。
「はははっ、それじゃあ訓練にはならないだろう。ほら、もう少しで母さんの卵焼きができるから、それまでがんばれ! もし父さんに一撃入れられたら……父さんの分の卵焼きもやるぞ~? さらに、父さんは片手でやろう」
「ホント!? よーし、ぜったいあてる!」
少年の剣撃は太刀筋が甘いものの、スピードは一級品だ。
子どもの腕力では大きな剣は持てない。
故に短剣なのだ。
少年は短剣を振るうごとにスピードを増していく。
もう一方の父親は涼しい顔をして片手で少年の短剣を受け流し、足を前に出す。
「おわぁ!?」
「武器は剣だけじゃないぞ? 覚えておきなさい」
父親は少年の剣の隙間を見極め、足をかけた。
結果、少年は綺麗にすっ転んでしまった。
「うー……もういっかい!」
「おっと」
しかし、少年は諦めない。
もっと強くなるため……いや、愛する母の卵焼きのためだろうか?
やはり少年の斬撃は荒い。
しかし、切る度にどんどんスピードが上がっていく。
短剣が普通の剣に唯一勝っている所……身軽さを利用して父親の懐に潜り込もうとする。
「卵焼きでここまで変わるか、エル。……まぁ、そんな単純なところがお前の魅力ではあるが」
「うぅぅ…………」
(だめだ、ここままじゃたまごやきが……いや、おとうさんにかてない…………アレをつかうしか……)
少年は父親から一度距離をとり、呼吸を整える。
「……まさか、アレを使う気なのか……? アレの成功率はたったの……」
「すぅぅぅぅ…………はぁぁぁぁぁ…………」
父親は集中する息子を前に口を止め、ただただ自分の子を見つめる。
「氷の剣!」
少年がそう呟けば、短剣から水色の輝きが放たれる。
刃からは魔力が溢れ出ており、蒸気が吹き出している。
「おとうさんっ! いくよ!!」
「はっはっは! 本当に成功させるとはな! いいだろう、父さんもエルの全力を受け止めてやろう! かかってきなさい!」
刹那、少年が地面を蹴る。
その踏み込みは今日一番の速さだ。
(ただちかづくだけじゃあたらない、おとうさんがいってたことだ。おとうさんはたしか……)
「こうだ!」
「うお!?」
父親は少年が自分に接近してすぐに切りかかる、そう思っていた。
しかし、少年は切りかかる直前でステップ……フェイントを仕掛けたのだ。
「はあぁぁぁぁぁあ!!」
(天才的な戦闘センス、流石…………なだけあるな。だが……)
「父さんはまだお前には負けてやれないな」
父親は少年の太刀筋に合わせて刃を置く。
──────ガキィンッ
剣と剣がぶつかり、大きな金属音が鳴り響く。
普通の剣と魔法の付与された剣、どちらが勝つかは明白…………そのはずだった。
「う、うそ……」
「ふぅ……父さんも流石に焦ったぞ。強くなったな、エル」
なんと父親は片手で少年の剣を受け止めたのだ。
魔法を付与した剣の威力は通常の剣に比べて数段以上上のはずなのに…………だ。
「まだやるか?」
「…………うん! おれはまだあきらめない!」
その圧倒的な力の差を見ても、少年は迷わずに父親に向かっていく。
父親はやれやれとため息をつきながらも、どこか楽しそうな表情で少年の剣を受け止める。
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