第84話 油断大敵ですわ♪
「そんなことないだろう」
俺は自分が情けないと言うメアリスの言葉を即座に否定した。
「苦手なものを克服出来る道具を持ったところで、すぐに恐怖心が消せるわけがない。それに、メアリスのそれは苦手なものなんてレベルじゃない。少しでも触れたら死ぬんだぞ? そんなものに対して恐怖心を抱くなという方が無理だ」
「エルの言う通り。それに。弱点を補う合うためにこの話をしている。恥じることは無い。ベルに接近戦を克服しろと言っているようなもの。」
『うむ、貴様は強いとはいえなんでもできる訳ではないのだ。しかし、わがはいたちが力を合わせればあるいは……そういうレベルなのだ』
「せやせや、それにメアリスは克服しようとしとる姿勢ができてるやん。みんながなんとかしてくれるから~やなくて、ちゃんと自分でもなんとかしようとしとるの、ごっつすごいと思うねんけどなぁ」
「みんな……」
「やっぱりここは暖かいね!」
「黒焦げになりそうなくらいだね、あはは」
メアリスは目にいっぱいの涙を溜め、うるうるとした表情でみんなを順番に見つめる。
「うぅ……みんな……なんでそんなに優しいの…………」
「アナがメアリス泣かせた。さいてー。」
『わがはい!?』
「アナ……こんな小さな女の子を泣かせるなんて……」
『いや、そもそもこれは多分良い方の涙……』
「言い訳までしとるわ。有り得へんなぁ」
『え、ちが……』
「こんなにかわいい女の子を泣かせるなんて……」
『自分で言うななのだ!? まぁかわいいけどなのだ……』
「家族を泣かせるやつは……」
「誰であろうと殺してあげるよ、あはは」
『ちが、違うのだぁぁぁぁぁ!!!?』
──────ガサガサ
「────ガルウゥゥ!」
突然茂みから狼型の魔物が飛び出してきた。
迎撃……いや、この距離だと間に合わない……!
なら…………
俺はその狼型の魔物の前に出て狙いをこちらに変えさせようとする。
「あら、気をつけなきゃだめですわよ?」
突然そんな声が響いたかと思えば、漆黒の火柱が出現し、狼型の魔物を跡形もなく焼き尽くした。
俺がいきなりのことに呆気にとられていると……
「ごきげんよう」
「あ、待って!」
その声が届くことはなく、バサバサッと飛び立つ音とともに俺たちを助けたなにかは去っていった。
木の隙間から見えたのは……傘…………か?
そんな出来事を前に唖然としていると、メアリスが俺に駆け寄る。
「大丈夫!? 怪我とかないよね!? 念の為にメディアスの薬とベルの魔法で……」
「いや、俺は今の攻撃のおかげで無傷だから……大丈夫だ」
メアリスは俺の目をじっと見つめる。
「…………うん、嘘はついてないみたいだね。それはそうと……今、エルは何をしようとしたのかな?」
「えっと……?」
な、なんだか少しメアリスが怖い気がする。
メアリスだけじゃなくて……他のみんなも。
そんな様子に戸惑いながらも先程自分がなにをしようとしたのかを説明する。
「……迎撃が間に合わなそうだから俺が盾になろうとしたんだが…………なにかまずかったか?」
「『なにかまずかったか?』じゃないよ! それでエルが怪我したら……」
「……メアリス。確かにそれは正しい。でも。こうなったのはベルたちが油断してたからでもある。ここからは全員気を引き締める。それで終わりにしよう。」
…………みんなは心配して怒ってくれていた、ということか。
それで俺が怪我したら……そんなことを言われても……仲間のためとなると身体が勝手に動いてしまうのだ。
とりあえず今はみんなの俺を心配してくれているという気持ちを心に刻んでおこう。
「さっき助けてきてくれたやつが襲ってこんとも限らんからな。確かにここで揉めとる場合ちゃうな」
「そうだな……油断大敵、初心を忘れていた。そんなつもりはなかったが、俺たちはどこかで慢心していたのかもしれないな」
『慢心? わがはいは最初から至高にしてさいきょぎゃふん』
「そういうところ。」
アナの頭にベルの拳が落ちる。
「……警戒しながらさっきの続き。次はメディアスかエル。」
「ほんなら次うちやろかな。エル、ええか?」
「あぁ、大丈夫だ」
「おおきに! んじゃいくわ!」
『わ、わがはいが殴られたことはスルーなのだ…………?』
「くすくす、いつも通りかわいそう!」
『笑い事では無いのだあぁぁぁぁぁ!!』
「アナ。イエローカード。」
『はい。静かに聞かせていただきますのだ』
アナの変わり身の速さに思わず笑ってしまう。
漫才師が向いているのではないだろうか?
「ほいほい、注目や。かわいいメディアスちゃんの話が始まるでー」
「そうだな、かわいいメディアスの話をちゃんと聞こう」
「……それって、冗談やよね?」
「……? なんで冗談になるんだ? メディアスはかわいいだろう」
「~~!! ………………せや、エルはこういう人やったわ」
?
俺はメディアスの言っていることの意味が理解できないまま、とりあえず話を聞く体勢をとる。
「せやねー……うちの弱点…………単純に戦闘経験が圧倒的にないことかもしれへんな? ベルみたいに色んなことができるわけでも、メアリスみたいに奇抜な戦術があるわけでもあらへん。うちの武器は糸、そして毒だけや」
ふむ、なるほど。
確かにメディアスがそれ以外の攻撃をしたところを見た事がない。
しかし、メディアスの使う糸と毒はこのパーティでは唯一無二だろう。
俺もメディアスと契約したことで、糸を操る力を得た。
しかし今の俺にはメディアスのように辺りに糸を張り巡らせてバリケードにすることも、毒の量を調節することもできない。
かなり繊細な操作が必要なのだ。
メディアスの薬屋という仕事で培った技術のおかげでこれらを使いこなすことができるのだろう。
「あと……うちが得意なことか。せやねー……うちは色んな薬を作るのが得意や。魔法を阻害する魔毒もそれに近いもんがあるかな。薬だけやなくて……香料とか?」
「香料……ラフレシャーラの時の。後はどんな活用方法がある?」
「気持ちを落ち着かせたり……眠らせたり……他にも色々あるで」
「かなり幅広いじゃないか。それがあれば必ず戦闘に役立つはずだ」
「ホンマか!?」
「ベルの睡眠魔法は魔法抵抗のあるものだと防がれる。メディアスの香料ならば関係ないはず。いつか使う機会は必ず来る。」
「たはは、それなら嬉しいわ。おおきに!」
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