第82話 ハイタッチ
「まったく……お主は自分の力を低く見すぎじゃ」
いつから居たのか、声のする方に振り返るとミレーユさんの姿があった。
「ミレーユさん……そんなことないと思いますよ?」
「……まぁ慢心するよりはよいわ。それで、どうじゃ? 今の気分気分は」
「今の気分……? えっと……困惑してますね」
「…………はぁ」
ミレーユさんはなぜか俺の言葉を聞いて呆れるようにため息をこぼす。
「……質問を変えるのじゃ。沢山の者に祝われて嬉しいか?」
「……そりゃまぁ、嬉しいですよ。こんなに多くの人から賞賛の声を浴びせられたことはないですから」
「うんうん、人間さんたちからこんな目で見られるとは思わなかったよね」
「クックック、それはなによりじゃ」
「……なるほど。」
ミレーユさんはなにやら変な笑い方をしていたずらっぽい笑みを浮かべる。
クロイツも横で同じような顔で笑っている。
ベルだけはどういうことか分かったようで納得顔になる。
「サプライズ、成功ですね」
「うむ。大方予想通りの反応じゃったがな」
サプライズ?
どういうことだ?
俺が考えているとクロイツが得意気な笑みを浮かべてこちらを見る。
「全員、私たちが集めたんですよ。なんとかスペリラを発つ前に捕まえられてよかったです」
「え……?」
「っちゅーことは……」
「骨折り損になるところだったのじゃ。英雄様が何も言わずに去ったら住民たちが泣くのじゃ」
「俺たちのために……サプライズを…………」
「ほれ、そんなことよりはやく昇格の手続きにいってくるのじゃ」
「ふふ、引き止めたのは私たちですけどね」
「…………ありがとうございます……!」
『フハハ! 感謝してやるのふぎゃん』
「ふざけた態度をとらない。」
『は、はいなのだ……』
あの二人はいつも通りだ。
漫才師でも出来るんじゃないか?
微妙な空気になってしまったが、俺たちはその足で受付嬢について行く。
色々な人に声をかけられ、受付に行くだけでも一苦労だ。
ただ、それよりも嬉しい気持ちが勝つな。
一人一人に声をかけられ、感謝され、賞賛され…………嬉しくないわけがない。
その後の受付でもギルド職員たちにベタ褒めされたり、冒険者たちが飲み始めてしまったりと……色々あった。
結論から言えば、俺は無事にCランクに昇格出来た。
しかし、あまりに収集がつかないのでミレーユさんの転移魔法で一度ギルドの外に出た。
これがなかったら今日中にスペリラから出ることは出来なかっただろう。
ミレーユさんに感謝だ。
そして、ついにスペリラを発つ時がやってきた。
「うっうっ……ついに英雄様がここを出てしまうのか……」
「いつでも戻ってきてくれよな!」
「私たちとこの街を守ってくれてありがとう!」
たくさんの人が暖かい言葉とともに見送りをしてくれる。
暖かい言葉を聞いて心も暖かくなってくる。
「ズギュゥゥン! お姉ちゃんたち発見!」
「わふっ……。む。あなたは……」
ベルの胸に少女が飛び込んできた。
少し前にベルが魔族から救出した少女だ。
飛び込んできた時の笑顔とは打って代わり、突然悲しい顔を見せる。
「本当に本当に……ここを出ちゃうの……?」
「うん。ベルはこのお兄さんたちと旅に出たいから。」
「……ばびゅーんって、戻ってきてくれる?」
「……いつか。きっと。」
「絶対絶対だよ!」
「うん。約束する。」
ベルが少女に小指を差し出す。
少女も同じように小指を近づけ、結んだ。
「……約束したからね! 小指バキ!」
「うん。した。小指は折らないで。」
「そうだ! お姉ちゃんにこれあげる! テレレテレレレン!」
少女は紫色に輝く綺麗な石をベルに手渡す。
「私の宝物なんだ! これ、お姉ちゃんが持ってて!」
「いいの? 宝物なのに?」
「うん! きっとその子もお姉ちゃんのところにいた方が嬉しいし! どかんだし!」
「……ありがとう。貰っておく。」
ベルはその石を大事そうに握りしめ、少女の頭を撫でる。
「危ないことは禁止。親の言うことをちゃんと聞く。分かった?」
「うん!」
「偉い。」
ベルはもう一度少女を撫でる。
少女は恍惚とした表情を浮かべ、満足したのか両親のもとへ走り去っていった。
「……ベルって親に内緒で里を出たんじゃなかったか?」
「親の言うことちゃんと聞いてないね」
「…………しゃらっぷ。」
「貴様の年齢ならば自分で判断して動いても良い気がするのじゃが……ふぎゃ!?」
「母さん、レディにそのようなことを言うなんて失礼ですよ」
クロイツの拳がミレーユさんに落ちる。
そミレーユさんの頭の上でクルクルと星が周り始めた。
多分、結構本気でやったな…………
まぁ、女性にとっては年齢とかはデリケートな問題だし…………
うん、これは仕方の無いことだな。
「しばらく会えなくなりますね~。寂しくなります」
「でも、また会えるよね?」
「冒険者を続けてたらまたいつか会えるさ」
「うむ、クロイツも時期にここを出るじゃろう」
「復活はやない!?」
「妾だからな、フハハ」
「……なんだかアナっぽい。むかつく。」
『どういう意味なのだ!? わがはいがむかつくという意味なのだ!?』
「うん。」
『せめてオブラートに包めなのだ!!?』
「妾もディスられたのじゃ……」
「ぷっ、はは」
やっぱり、みんなと居るだけで楽しいな。
思わず吹き出してしまう。
「名残惜しいけど……そろそろ出発だ」
「そうですね……これ以上は別れが惜しくなるだけです」
クロイツは寂しそうな表情を浮かべ、少し手を上げる。
俺もクロイツに促され、手を上げる。
「また会いましょう、エル」
「あぁ、お互いがんばろう、クロイツ」
そして、互いの上げた手のひらを叩いた。
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