第78話 間違った決断
スペリラを襲うスタンピードを止めた住人と俺たちは、祝勝会? のようなもので盛り上がっている。
以前俺とメアリスを捕まえた騎士団長のケインに謝られたり、冒険者たちからなにやらキラキラとした視線を感じたり…………
こういう騒がしいのは大好きだ。
存分に楽しもう。
ということで楽しんでいる中、アナが俺に丁寧にとあることを説明してくれている。
「……ふむ……なるほど…………理解したぞ。人違いってことだな」
『何も理解できてないのだ!? わがはいたちはスペリラを守った英雄なのだぞ!?』
「はは、流石に冗談だ。自分で言うのは少し照れくさいが……俺たちがスペリラを守ったんだな」
『流石にそこまで鈍感だったら引くのだ…………あ! エルよ、そのチキンを取るのだ! 食べたいのだ!』
「はいはい、わかったよ」
俺は短い手をブンブン振るアナにチキンを手渡す。
『ありがとうなのだ!』
しっかりとお礼を言い、チキンにガブリと噛みつく。
アナはその瞬間に目をキラキラと輝かせ、しっぽをブンブン振りながら骨まで喰らう勢いで食べ進める。
本当に子どもみたいだな、かわいい。
いつも思うが、本当に神獣なのだろうか?
「……なぁ、アナ。そういえば前から聞きたいことがあったんだけど……」
『なんなのだ? わがはいは食べるので忙しいから返事を待たずに話してくれなのだ』
忙しいから聞かない、ではなくちゃんと聞いてくれるのか。
そんな些細なところからでも優しさが感じ取れる。
「最初のころはキュイって鳴くだけであまり俺たちとこう……念話で話すことはなかっただろう?」
アナは表情一つ変えずに首を少しだけ縦に振り、チキンを貪り続ける。
「最初は自由に喋れないのかと思ってたんだ。でも、今は普通に話してくれているだろう? それがどうしてなのか気になってな。せっかく二人だし、こういう話もいいだろう?」
俺はそう言ってみんなの様子を見る。
メアリスはお酒に弱いので、お酒は飲まずに美味しそうに食べ物を食べ続けている。
そして、冒険者たちと楽しげに話をしているな。
人間との溝も徐々に埋まりつつあるのだろうか?
ベルは魔法使いたちに魔法を教えている。
俺のようにキラキラとした視線をぶつけられて動じることはなく、むしろえっへんという感じである。
メディアスはお酒や花の蜜を混ぜてオリジナルのお酒を振舞っているようだ。
冒険者たちの愚痴や愉快な話を聞いているようで、楽しそうに笑っている。
メディアスは話上手なので、冒険者たちもメディアスと話すのは楽しいだろう。
俺は少し人の目線に疲れたので、ベルの魔法で姿を隠してもらっている。
アナは神獣ということもあり、易々と人間と話すことはあまりよろしくないらしい。
俺も人間なんだが…………
なぜか俺はいいらしい。
どうも気になって何度も尋ねると
『貴様は特別なのだ。色々な意味でな』
と答えた。
どういうことだろうと更に問いを投げかけようとしたのだけど、これ以上は答えてくれなかった。
なので、普通に雑談しようと別の質問をしてみたのだ。
『……正直に言うと、わがはいは頭が良くないのだ』
「うん、知ってる」
『失礼すぎるのだ!?』
「はは、冗談だよ。続けてくれ」
『全くなのだ…………それで、わがはいは頭が良くないのだ。だから本能で生きているのだ』
「ふむふむ、それで?」
『これで終わりなのだ』
「え?」
『だから、これで終わりなのだ』
「えっと……」
本能で生きている…………
本能的に俺たちと普通に会話してくれているということか?
つまり……
「……それだけ俺たちを信用してくれているってことか?」
『……そういうところは鋭いのだな。…………あ、いや、し、信用なんてしてないのだ! 神獣であるわがはいが一人の人間に心を許すなど……』
「それでも、ありがとうな。アナと話していると楽しいよ」
『わ、わがはいも……』
「ん?」
『な、なんでもないのだ! そ、それよりもわがはいも貴様に聞きたいことがあるのだ!』
「あ、あぁ、なんでも聞いてくれ」
俺はコップのお酒を飲み干し、話す体勢を取る。
『……大事な話、とはなんなのだ?』
「……そのことか」
『うむ。大事な話がある、と言った時の貴様の顔はひどいものだったのだ』
「…………」
『様々な感情が入り交じり……一番濃かったのは悲しみと優しさだったのだ。……一体なにについて話すつもりなのだ?』
……驚いた。
やはりベルといるだけあって、感情を読むのがうまいな。
「……そうだな、それじゃあアナには先に話すよ」
俺は一度飲み食いする手を止め、真剣にアナを見つめる。
「俺は……このパーティを解散しようと思っている」
『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。
毎日投稿してますので、是非また次の日に見に来てください!




