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第9話 助けるために

「……いや、弱気になったらダメだな」


やれることは全てやろう。

このまま作品たちが討伐されて終わりなんて、そんな悲しい話はない。


「メアリス、強制帰還までの時間はどれくらいか分かるか?」

「うーん……あと三時間くらいかしら。それを過ぎたら、魂を残してきた美術館に戻されちゃう」

「あと三時間か……」


考えろ、考えるんだ。

メアリスの歳から推測すると、作品たちはおよそ数百年間人間という存在を憎んでいる。

俺とアクス二人が謝っただけで解決するなんてことは到底考えられない。

しかし、俺たちには人をたくさん集めることはできない。

仮にギルドに作品たちが封印を壊そうとしているのでなんとかしてください、と依頼をしたらギルドは討伐という選択をするだろう。

当然だ。

人間の脅威を排除すること、それがギルドの存在意義なのだから。


……憎しみを取り除くことはできなくとも、ソロウが人間に対して危害を加えたくないと思っていたことを分かってくれれば暴れることはないかもしれないな。


「メアリス、ソロウが書いたものとかあるか? 絵とかじゃなくて……文書みたいなやつ」

「その手があったか」


ここでアクスは俺の言いたいことを察したようで手のひらを拳でぽんと叩いた。


「どうだろう……お父さんのアトリエになら、なにかあるかもしれないわ」

「ここからあとどれくらいかかる?」

「さっきの森の中だから……二十分くらい? ちなみに美術館もその近くにあるわよ」


今更だが、森にある美術館とはなんとも奇妙だな。

だが、ソロウは知る人ぞ知る系ではなく、一世を風靡するほどの芸術家だったと聞く。

わざわざ森に入って美術館に行く人がたくさん居たんだろうか?

こんな時だが、ソロウの作品に興味がでてきた。


「よし、そうとなれば早速準備をして出発だ」

「エル、準備はもう出来てるぞ。この袋に必要なものは入ってる」

「準備がいいな、流石アクス」

「冒険者は準備が命だ。死なないためにできることは全てやる、覚えとけ」

「分かった。ありがとう」


俺には冒険者になって広い世界を見るという夢がある。

アクスは俺が冒険者になるのを反対しているのだけど、こうして冒険者の心得を教えてくれる。

その道に行くことを心配しつつも、そっと背中を押してくれる。

お父さんって、こういう感じなのかな。

胸が暖かくなるのを感じる。


「えっと……アトリエに行ってなにするの?」

「それは行きながら説明する。案内頼めるか?」

「分かったわ。 それじゃ、行きましょう」



--------------------



メアリスを先頭に、俺たちは森に突入した。

アクスは淡い光を放つミスリルの鎧を身に着け、俺はスピード重視のためさっきと変わらない格好だ。

森を進むにつれて木々が鬱蒼とし、木目が恐ろしい化け物の顔に見える。

これ以上進むなと警告しているかのようだ。


「……と、いうことなんだが」

「なるほど、お父さんが直接書いたものがあれば……!」

「都合良くそんなものが置いてあるかは分からないけどな。ただ……」


ただ、なんとなくありそうな気がした。

本来、どれだけ愛を込めようと、力を込めようと。

無機物に命が、『心』が宿るなんてことは有り得ない。


メアリスの話だと、ソロウは作品たちが『心』を持ったことに気づかなかったということだが……


意図して無機物に魂を吹き込むことなんて、現代の魔法技術でも不可能だ。

大昔、さらに意図せずしてそのようなことができるわけがない。

しかし、実際にメアリスがここにいる以上、ソロウがそれを可能としたのは事実だ。

ただ……やはり意図せず命を作り出すという大それた禁忌を犯したとは考えにくい。


仮に、ソロウが超凄腕の魔術師などであれば、無機物に『心』を、『魂』を吹き込むことが可能かもしれない。


意図して行っていたのであれば、自分が作品たちを残して逝くことも予見していただろう。


無機物に魂を吹き込めるほどの魔術師ならば、なにかしらの対応策を残しているはず。


俺はそこに賭ける。

というか、それしかないのだ。


暫く歩いて、木々の隙間からボロボロの建物が見えてきた。

メアリスはその前で止まり、俺たちの方に振り返る。


「着いたよ。ここがお父さんのアトリエよ」

「うわぁ……」

「こりゃ……ひでぇな……」


当たり前だが、森に放置してある建物が新築同然のように綺麗なわけがない。

少し荒れているくらいは覚悟していたつもりなのだけど……

元々暗い色の木材で造られているのか、全体が黒ずんでいて……今にも崩れそうなほどだ。

一流の芸術家のアトリエとは到底思えない。


「なんかお父さんのアトリエ、お化け屋敷みたい」

「本当にそうだな……まぁ、ここで四の五の言っても変わらない。とりあえず中に入ろう」


俺は蔦が絡まったドアノブを開けようと、手をかけてみる。


「……開かない?」


少し力を入れたり、角度を変えたりして工夫してみたりするのだが……開かない。

よく目を凝らして見てみると……


「鍵が掛かっているのか……」


赤青黄、三色の鍵穴が一つある。

建物がここまで劣化しているというのに、この鍵穴は塗りたてかと勘違いするほどに鮮やかで綺麗だ。


にしても鍵か……強引に開けるか……?

いや、そんなことをしたら余計作品たちに恨まれてしまいそうだ。

今から鍵を探してもメアリスの制限時間に間に合うか……?


「ねぇ……私なら開けられるかもしれない。一回試してみてもいい?」

「いいけど……強引に開けるつもりじゃないよな……?」

「大丈夫よ、そんなことしない」


メアリスは苦笑しながらそう答える。


「えっと……これだ」


メアリスはポケットから青、赤、黄色の三色の玉を取りだした。

それらを捏ねるようにして合わせると……


「できた!」


なんと、三色の鍵が出来上がった。


「おいおい、一体どういう手品だよ?」


アクスが腰を低くしてまじまじと鍵を見つめる。

メアリスはそれを気にせずに鍵を鍵穴に通し、捻る。

すると……



──────ガチャリ



「開いた!」

「そんなあっさり……」

「時間もないし、早く入ろ?」

「そうだな……入ろう」


メアリスはドアノブを持つ手に力を入れ、扉を開けた。


すると──────


「な、なんだよこれ……!?」

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