第73話 妾の力を見るがいい
「遠くの魔力の塊が魔物強化しているのは確か……だと思う。」
「ほぉ、よく見ておるな。では、お主らはそやつを叩きに行け」
「「「え?」」」
俺たちはミレーユさんのとんでも発言に思わず声を揃える。
「えーっと……お主らって、俺たち全員のことですか?」
「そう言ったつもりじゃが?」
「母さん、スペリラはどうするんですか? 私たちの最優先事項はスペリラの防衛ですよ?」
「そんなこと分かっておるわ! ……じゃから、妾が全て守り通すと言っておるのじゃ!」
…………?
「み、ミレーユさん……流石にそれは無謀なんじゃ……」
「む? 余裕じゃ余裕じゃ。妾にドンと任せるがよいのじゃ」
「ベルが言えることじゃないけど……魔物を撃ち漏らしてたのに。一人で守れる?」
「問題ないのじゃ。妾には奥の手があるからのう。さぁさぁ、こうしている間にも魔物共の勢いは増しておるぞ? 妾を信じて先に行くのじゃ」
ミレーユさんは至極まっとうなことを言っているように笑う。
「……分かりました。皆さん、いきましょう」
「クロイツ!? 本気……なのか?」
「えぇ、本気です。確かに母は嘘ばかり並べる上に誰に対しても偉そうですし楽観的でお気楽でおバカな母親です」
「ひ、ひどすぎではないか……?」
「ですが!」
クロイツは大きな声でそう言い、ミレーユさんの方を向く。
「……人の命が掛かっているこのような状況で、見栄を張るような母ではありません」
クロイツはその言葉に確かな意志を込め、言い放つ。
その言葉、その目には親に対する信頼があった。
クロイツは迷うことなく踵を返し……
「……スペリラをお願いしますよ、母さん」
「うむ! 任せられたのじゃ。クロイツも、そっちは頼んだのじゃ」
「えぇ。任せてください。フレス」
クロイツさんはふわりと浮き上がる。
「皆さん、行きましょう。ここは母さんを信じてください」
「……分かった、行こう。ミレーユさん、スペリラのこと……お願いします」
「分かった分かった、はよう行くのじゃ」
「……ありがとうございます」
俺もフレスを唱えふわりと飛び上がる。
「あ、メアリスは飛べないよな……よっと」
「ふぇ!?」
俺がメアリスをお姫様抱っこすると、今までに聞いた事がないほど高い声を上げた。
「メアリス?」
「だ、大丈夫……これはこれで……アリ……」
「たはぁー、二人とも、らっぶらぶやなぁ?」
「ら、らぶ?」
「あ、ちが、そんなつもりじゃ……」
「……むぅ。」
「……お二人とも、お楽しみ中悪いんですけど……それは後にしていただいてもよろしいですか?」
「……うん」
「な、なんかすまん……」
微妙な空気の中、俺たちは飛び立ち、ベルの言っていた魔力の塊の方へ向かう。
「……アナ?」
「……なんでもないのだ」
「……そう。」
遅れてベルも飛び立った。
「……全く、緊張感の欠片もないやつらじゃ…………じゃが、それがエルたちの強さなのじゃろうな。…………さて、これを使わせてもらうのじゃ。やはり妾は助けられてばかりじゃな。……のう、オリヴィア」
◇◇◇◇◇
「……ねぇ、メディアスはそれでいいの?」
「ん? なにがや?」
メアリスは上下に動くメディアスを見ながら言葉を紡ぐ。
「その……飛ぶんじゃなくて跳ぶんだなぁと思って」
「同音意義語っちゅーやつやな? 頭ええやっちゃなぁ、飴ちゃんいる?」
「それは貰うけど……大丈夫?」
「魔物は踏んづけとるし問題ないで?」
「…………もうなにも言わないことにするね」
……まぁ、これを見て動揺しない方が無理だな。
メディアスは大きく跳躍しながら俺たちに着いてきている。
飛べないならアナに持ってもらえばよかったのに……
蜘蛛と同列にするのは失礼かもしれないが、蜘蛛も高く跳ぶことができる。
原初の種であるメディアスならばさらに高い高度まで飛べるということか?
それを頭の片隅で考えながら俺は魔法で探知をする。
「……確かに、異常に大きな魔力の塊があるな」
「うん。ミレーユが気づかなかったの不思議。」
「母さんはおバカですからね……どうせ探知を怠けていたに違いありません」
◇◇◇◇◇
「っくしゅん! ……これから切り札を使うという時にくしゃみ……締まらんのう。こんな時に噂話なんてしておるやつはどこの誰じゃ全く…………」
ミレーユはため息をつきながら胸のペンダントに手を当てる。
「力を借りるのじゃ」
ミレーユが手を当てるとペンダントは光り輝く。
そこから発せられる光はミレーユに吸い込まれていき…………
「……はぁっ!」
ミレーユに力を与えた。
「ふむ……少しなまったかのう? まぁよい、この程度の軍勢、蹴散らすなど造作もないわ」
ミレーユは魔法を唱え始める。
一、二、三、四…………複数の魔法を同時に。
戦場全体に巨大な魔法陣が構築されていき、冒険者や騎士団たちはざわめく。
彼らは死に物狂いで戦っているため、エルたちが居なくなっていることに気づいていない。
士気が下がってしまうからだ。
彼らはこれをベルの魔法だと思うだろう。
……しかし、この魔法を使うのは……元人間だ。
「滅びよ」
その一言で、この戦場の姿は目まぐるしい速度で変化していく。
……おそらく、地図を書き換えることになるだろう。
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