第71話 空中戦
「ギャオォォォォォン!!」
嫌な雄叫びが戦場に響く。
どこだ!?
どこにいる!?
「……! エル、上!」
「上…………あ、あれは……!?」
メアリスの声を聞いて上を見てみると、そこには……
「ワイバーンが……三体…………!?」
大きな翼をはためかせる魔物、ワイバーンだ。
ワイバーンは攻撃力はそれほどでもないが、常に空を飛んでいるので攻撃が当てにくく、じわじわとやられていく。
それ故にBランクに位置づけられている。
だがそんな攻撃も決して生易しいものではなく、火球での範囲攻撃や毒のある爪攻撃にスピード。
普通の魔物と比べれば攻撃性能は並ではない。
それが三体もいるとなれば、こちらの被害はとんでもないことになるだろう。
一刻も早く処理しないと…………
「ここは……あれをやるしかないか」
俺は集中して魔力を練り上げ、魔法を唱える。
「フレス!」
魔法を唱えると、足が地面から離れて俺の身体が宙に浮く。
羽のようにふわりとした動きでワイバーンに近づき、また魔法を唱える。
「ブリザードバレット!」
顔大の氷の弾丸を複数作り出し、ワイバーンに向かって発射する。
ワイバーンたちはそれぞれ余裕を持って避け、反撃をしようと体勢を立て直している。
「方向転換が難しいな……」
空での戦いが初めてというのもあり、判断も鈍る。
どのような魔法ならワイバーンを堕とせるだろうか……
「「ギャオォォ!」」
二体のワイバーンが炎の息を吐く。
俺は空を蹴って加速し、ブレスを躱し続ける。
残りの一体は大きく羽ばたき、毒の爪を突き刺そうと超スピードで迫ってくる。
「業火の剣・残留!」
短剣に火属性を付与し、ブレスを避けながら迎え撃つ。
正直、ギリギリだ。
「ギャオォォン!」
「ぐっ!?」
短剣で逸らした爪が足に掠った……!
痛みに悶える身体に鞭を打ち、ブレスを避ける。
知能の高い魔物だな…………
油断しているとこっちが堕とされる。
ここは一気に決めたいな…………
一気に決めるためには…………
「……アレを試してみるか」
俺はワイバーンに手のひらを向ける。
「アイスショット!」
ブレスと爪攻撃を避けながら、先程よりも威力の小さい氷の弾丸を撃ちまくる。
二体のワイバーンはそのままブレスで迎撃、残りの一体は氷の弾丸を飛び回ることで避ける。
しかし、全てを避けることはできないようだ。
しばらく撃ち続け……ワイバーンが一箇所に集まる。
「設置魔法起動、パラライズロープ!」
「「「グギャ!? 」」」
俺がそう叫ぶと、隠れていた魔法陣が出現し、ワイバーンたちは雷のロープに縛られる。
アイスショットを唱えている間に設置魔法を使っておいた。
ベルの見よう見まねだったが、うまくいったな。
「さて……一撃で堕ちてもらうぞ」
俺は一つの口で二つの魔法を紡ぎ、合わせる。
それをワイバーンに向けて……一気に放つ!!
「オーシャンパニック・チェイン・チェインボルト!」
全てを包み、飲み込む海がワイバーンに降り注ぐ。
そこを紫電が伝っていき、ワイバーンの身体を焦がし尽くす!
「ふぅ……倒せたか」
黒焦げになったワイバーンはやがて塵となり、その身体は魔石と化した。
俺はワイバーンが魔石となったのを確認し、フレスの出力を弱めてふわりと着地する。
「うっ……」
フレスを長時間使ったことによる酔いとワイバーンの毒で身体がふらつく……
「エル! 大丈夫かいな!? はようこれ飲んでや!」
「あぁ……ありがとうメディアス」
俺はメディアスに手渡された瓶の中身を一気に飲み干す。
魔力と体力は徐々に回復していき、身体が楽になる。
「この薬は即効性がないんや、そろそろ第二チームに交代した方がええで。冒険者たちも疲れてるみたいやし……」
その言葉に俺は辺りを見回してみる。
いつの間にかザックとカレットが戦っており、負傷している冒険者と騎士団を守っている。
メアリスたちは戦いの経験がほぼ無いため、長時間の戦いで全員疲労困憊という感じだ。
メディアスも息を切らしており、疲れているのが分かる。
クロイツはまだまだ余裕そうだが、メアリスたちの様子を見るにそろそろ交代した方がいいだろう。
ゲートから攻撃している魔法使いたちの魔力も心配だ。
「そうだな……これは交代しないとまずい……」
『了解。』
いきなりベルの声が頭に響く。
驚く間もなく、大きな声が戦場に響いた。
「みなさん!! 交代です!! 第二チームと交代してくださいっ!! 軽傷者は動けない方を運んでください!!」
ギルド職員の拡声魔道具を通して指示が伝わる。
それを聞いた全員は速やかに動き出す。
「はぁ……はぁ……ザック、カレット! みんなが避難するから……合体攻撃準備!」
「「が……合点承知之助!」」
今はつっこんでいる場合ではない。
俺も全員逃げ切れるように魔物を食い止めないと……!
そう思い地面を蹴り出した瞬間……
「上位転送術」
視界が白に染まる。
なんだ?
敵の攻撃か?
いや、でもあの声は……
数瞬遅れて視界がクリアになる。
目の前に広がっていたのは、スペリラの街だ。
「……は?」
「全員、妾の転移魔法で退避させたのじゃ!! 次の交代に備え、休憩せよ! 救護班は怪我人の治療!」
この場にいる全員が動揺する中、ミレーユさんは冷静に指示を出した。
この場にいる全員を……転送させただって?
…………にわかには信じ難いが、実際に安全な場所に戻れているし、ミレーユさんの言っていることは本当なのだろう。
……こんなこと、ベルにもできないんじゃないか?
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