第70話 スタンピードの脅威
「設置魔法起動。タイタンアッパー。」
ベルが素早く魔法を唱える。
その言葉に反応し、魔物たちの足元に隠れていた魔法陣が出現した。
スタンピードの前に設置しておいた魔法だ。
任意のタイミングで発動できる設置魔法、その魔法陣から巨人の腕の如く魔法が突き出る。
それによりかなりの量の魔物が打ち上げられ、魔石に姿を変える。
「うちもいくで!」
次にメディアスが結界から飛び出し、六本の足と二本の腕で素早く糸を射出する。
メディアスの糸は木や岩などに巻き付けられて固定される。
そこを通ると魔物はズタズタに切り裂かれ、数秒経つと毒で絶命した。
毒の糸のバリケードだ。
「二人ともすごいなぁ、すごいなぁ。私も負けてられないよ!」
メアリスは大量のパレットナイフを生み出す。
「死んじゃえ!」
そして次々に投擲していく。
絶え間なく投げ続けられるパレットナイフは着弾した瞬間に爆発し、紫の魔力波が魔物たちを飲み込んでいく。
「お人形さんが綿を散らすみたいに弾けちゃえ!」
相変わらず、この三人の実力はずば抜けている。
冒険者たちは唖然としてその光景を眺めている。
「……何度見ても慣れませんね、この光景は……」
「ふむ、中々できるではないか。これは妾も負けてられんのぉ! ファイアストーム・チェイン・サーロテンペスト!」
ミレーユさんが能力二重詠唱を使って魔法を行使する。
炎の竜巻は風魔法によって大幅に範囲を拡大する。
全てを飲み込み、焼き尽くすその竜巻は目に見える範囲の魔物を一掃した。
……おかしいな、魔法の威力もそうだが……二重詠唱なんて精霊族か、その精霊族と契約している者にしか使えないと思うんだが…………
俺も含めて全員が驚きに固まる。
クロイツでさえも。
そんな俺たちの様子を見てミレーユさんは怒鳴る。
「何を呆けておる! スタンピードは魔法一発で終わるほど甘くないのじゃ!!」
ミレーユさんの言葉にハッとする。
そうだ、スタンピードはこんなに甘く……
『逃げろ!! 後で……必ず追いつく!』
「…………」
「……エル?」
「…………」
「エル。大丈夫?」
「…………」
「…………」
ベルがぱちんと指を鳴らす。
「いたっ!?」
すると、頭になにか硬いものが降ってくる。
痛みに頭をさすっていると、ベルが俺の顔を覗き込み、首を傾ける。
「エル。大丈夫?」
「いや、大丈夫だけど……ちょっと頭が痛いかな」
「……後で話は聞く。今は集中。できる?」
「……あぁ、大丈夫だ。心配させてごめんな」
「問題ない。主を支えるのが使い魔の役目。」
……本当に、いい仲間に出会えてよかったな。
今は集中だ、集中しないと。
スタンピードはこんなに甘くない。
徐々に魔物の数が増えていき、勢いも強まってくるのだ。
つまり、今はまだ序盤。
メアリスたちといえど、長時間戦い続けていたら疲労がたまってしまう。
そうなれば、いずれ隙間から魔物が入り込んでしまう。
現時点で主力となりうる戦力は……
メアリス、ベル、アナ、メディアス、クロイツ、ミレーユさんといったところか?
主戦力のみんなに交代制で戦ってもらって……
『エルよ、良い作戦なのだ。あと、その主戦力の中には貴様も入っているのだ』
「……ありがとう、アナ」
『うむ! 人間にしては中々やるようなのだからな! ……あと、わがはいの守護者モードはベルの傍でないと使えないのだ。守護者モード中に離れることもできないのだ』
「なるほど、じゃあそこはセットで……」
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一部の冒険者や騎士団を集めて改めて作戦会議をした結果、主戦力であるメアリスたちを交代制にすることになった。
第一チームはメアリス、クロイツ、俺、メディアス。
第二チームはベル、アナ、ミレーユさんだ。
おそらく俺のパーティでもっとも強いのはアナとベルのコンビだ。
そして、先程の魔法を見る限りミレーユさんもベルと同等、もしくはそれ以上の実力を持っていると見ていいだろう。
接近戦の強い俺とメアリスのどちらかがミレーユさんとベルを守りながら戦うことを提案したのだけど、ミレーユさんは接近戦もできるので問題ないと。
ベルはアナが居れば誰も近づけないから問題ないと。
……二人は魔法をメインに戦うので、主戦力組の中ではもっとも殲滅力が高い。
そんな二人ならばたとえスタンピードであろうと、やられる前にやる戦法も可能だろう。
メディアス印の魔力回復薬もあるため、魔力が枯渇する心配もない。
このチームになったのは、第一チームと第二チームで原初の種を分けた方が良いという意見も出たから、という理由もある。
第一チームにはメアリスもいるし、ブローチからザックやカレットなどの準主戦力に出てもらうこともできる。
今は第一チームの俺たちと冒険者たち、そして騎士団が戦っている。
見た感じ魔物のランクはCランク程度なので、俺たちならば余裕をもって捌けるが…………
「バウッ!」
「うわぁぁぁ!? 来るなぁ!」
「吹雪の剣・連打!」
俺はダガーに氷属性を付与し、冒険者を襲おうとしていた狼のような魔物に向かって氷の斬撃を飛ばす。
魔物の身体は真っ二つになり、魔石と化した。
普通の冒険者からすれば、Cランクの魔物は強敵だ。
「助かった、ありがとう」
「立てるか?」
「大丈夫だ、まだ戦える」
今のように守れればいいのだけど……正直、数が多すぎて守り切れるか怪しいものだ。
しかも、まだスタンピードは始まったばかり。
この調子でいけば死者が出るだろう。
魔物を切り捨てながらどうするべきか考えていると……
「────ギャオォォォォォン!!」
嫌な雄叫びが戦場に響いた。
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