第69話 ベルが約束する。
「ごめん、遅くなった」
「問題ない。魔物の到着まではまだ時間がある。タイムリミットは……三十分くらい。」
「三十分か……」
長いように思えて、意外と少ない。
それまでに防衛策を整えたいところだが…………
「明らかに人数が足りないな」
冒険者はならず者の集まりとも言われているからな。
お金を稼いだり、戦うのが目的の人も多いだろう。
戦うのが目的なら、こういう時こそ発揮してほしいんだけど……
まぁ、命を投げ出す覚悟なんて中々できないか。
「今からベルは結界を更に強化する。エルも出来るはずだから手伝って。」
「了解だ」
「妾もしよう」
とりあえず俺は俺に出来ることをしよう。
メアリスは作品たちへの注意喚起。
ベル、俺、ミレーユさんは結界の強化。
メディアスとクロイツは薬作り。
とにかく被害を抑えるために、出来ることは全てしよう。
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「なんとかほとんどの冒険者が集まったか……」
「別に私たちだけで充分だったけどねー」
「油断、したらためだぞ?」
「それは分かってるつもりだよ。もちろん、全力で魔物を殺戮するよ!」
「それももちろん大事だが……今回の戦いで一番重要なのはそこじゃないな」
「え? どういうこと?」
「……他の人間を守りつつ。スペリラに侵入しようとする魔物を優先的に倒す。」
「ベルの言う通りだ。この戦いでもっとも重要なのは魔物を最速で殲滅することじゃなくて、被害を出さないために周りを見ることだ」
必ずしも最速で討伐することイコール被害が一番少ないというわけではない。
当然、やられる前にやる、これができれば被害はゼロになるだろう。
しかし、今回の敵は魔物の大群……スタンピード。
数百もの魔物を何もさせずに倒すというのは、原初の種であろうと不可能だ。
なので、今回は籠城戦という防衛寄りの作戦をとったのだろう。
「なるほどなぁ、勉強になるわ」
「相変わらずFランク冒険者とは思えませんね……よく勉強されています」
「勉強はそれなりにしてきたからな。……薬作り、お疲れ様。量はどれくらいあるんだ?」
「せやね……回復薬と魔力回復薬がそれぞれここにいる全員が二本ずつ……といったところやね。ちょっと心もとないんやけど……」
「この時間でそこまで出来たのか……!? 二人とも、本当にありがとう! 今はゆっくり休んでくれ」
「……そうしたいのはやまやまですが、それは難しいかと」
どういうことだ?
……まさか
「今、魔法で音を聞いているのですが……もうすでに、スペリラから数十キロのところまで迫っていると思われます」
「……あと三分くらいで見えてくる。戦闘準備をしないと。」
そう言うと、ベルは空に向かって人差し指指を立ててそこから花火を撃ち上げる。
パァンという鼓膜を破るほどの轟音がスペリラに鳴り響き、ベルに注目が集まる。
そして、そこにいる誰もが驚きに顔を歪めた。
「あの羽ってもしかして…………」
「せ、精霊族……!?」
ベルが光の羽を顕現させたのだ。
「……約束する。ベルが。ここにいる誰も。死なせない。」
「その代わり……」
メディアスもベルの魔法を解除し、背中の六つの足を見えるようにする。
冒険者たちは再び驚きに顔を歪めた。
それを見てメディアスは茶目っ気のある笑顔を浮かべて人差し指を口元に立てる。
「うちらが原初の種ってことはナイショやで?」
「こ、今度は昆虫族……!?」
「原初の種が二人も居れば勝てるかもしれない!」
「スペリラを守りきれる!」
「俺たちの街、守ってやろうぜ!!」
「「「おー!!!」」」
最初はベルがいきなり羽を出して驚いたが、その裏には士気を上げるという考えがあったのか。
メディアスもうまくその流れに乗り、冒険者たちの士気を更に高めることに成功した。
二人とも相変わらず頭が良いな……
冒険者たちの士気が上がり、ある程度の戦闘準備も出来ている。
あとはなるようになるだけだな。
「……来たよ!」
メアリスがいち早く魔物の大群を発見する。
俺も目を細めることでギリギリ見えた。
「さて……やってやろうじゃないか」
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