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第61話 本当はしちゃいけない

結局、お酒のせいもあって話は全く進まなかった。

俺も含め、せっかくの祝い酒なのだから楽しく飲みたい!

という思いが強かったからな。


メアリスは寝ていたが、混ぜてあげないと拗ねそうとザックとカレットが言ったので起こした。


メアリスが酔っ払って大暴れするのを防ぐため、ベルの固有魔術(オリジナル)で酔いを消して代わりにジュースをあげた。

ベルは一体いくつの魔法を作っているのだろうか?

全く底が見えない。


その後俺たちは飲んで疲れ果て、そのまま床で眠りに落ちてしまった。



◇◇◇◇◇



「ちっ……厄介なことになりましたね…………ここはやはりなんとしても阻止すべきでしたか……」


瞼すら重く感じるほどにずっしりとした黒い黒い闇の中、男がギリギリと歯ぎしりをしていた。


「まさかあの毒蜘蛛種(ポイズンスパイダー)があっさりと人間につくとは…………」


人間に恨みを持つ昆虫族ならば、人間に協力する事はありえないだろう。

そんな鷹を括った結果がこれだ。

反省せねばなるまい。


男はエルたちを写している水晶に魔力を込める。

すると、写っているエルたちの様子から、徐々になにかの映像に切り替わっていく。


「次に彼らが向かう先は…………なるほど……大方、アレが目当てなのでしょうね」


男はその写された場所に向かうため、闇に溶け込むように消えた。



◇◇◇◇◇



「……うっ……頭が痛い……」


目覚めてまず最初に感じたのは頭痛。

重たい頭を持ち上げて一度起き上がる。


「あ、エル。起きたんか?」


声のする方に顔を向けると、ベッドに腰掛けているメディアスが居た。

メディアスは心配そうにこちらを覗き込む。


「大丈夫か? ごっつだるそうやけど」

「あぁ……ちょっと頭が痛くてな」

「……ちょい待っててや」

「? あぁ、分かった」


メディアスはどこからが木の器を取り出す。

そこに背中の六本の足から液体を垂らし、服からしまっていた薬草を取り出し、木の器ですり潰す。


混ぜたものの一部を糸で作った器に入れ、俺に差し出してくれた。


「……ほい。これで頭痛がひくはずやで」

「ありがとう」


俺はその速さと業に驚きつつも、薬を受け取って喉に流し込む。

口の中にさわやかな感じが広がり、しばらくして頭がリフレッシュされた。


「す、すごい……もう頭が痛くないし、むしろお酒を飲む前より体調が良いな! ありがとう、メディアス」

「…………」

「メディアス?」

「あ、すまん。あまりにも真っ直ぐにお礼を言うもんやから…………エルって、ホンマに人間なん?」


一瞬冗談かとも思ったが、その顔は本気だ。

俺は苦笑してその質問に答える。


「俺は人間だよ。人間であろうと、何であろうと、なにかをしてもらったらありがとうを言う。当たり前だろう?」


メディアスはそれを聞いて目を丸くし、パチパチと瞬きをする。


「……たははっ」


数秒後、耐えきれないという感じで吹き出す。


メディアスはとても優しい笑みで俺を見つめる。


「……みんな、エルみたいな人やったらいいのにな」

「メディアス……」


その言葉にははっきりとした憂いを帯びていた。


「うちは直接人間の所業を見たわけやない……でも、同胞の命を無惨に奪った人間を許せなかった」

「……」

「人間という人間を恨んで……憎んで……恨んで…………殺したいって思ってたわ」


そう言うメディアスは黒い感情を少しだけ露わにする。

俺はそれに向き合い、真剣に話に耳を傾ける。


「せやけど……今はそんなに殺したかった人間と楽しくお酒を飲んで……薬まで渡して…………うちって、なんか……身勝手? やよね」

「それは違うんじゃないか?」


俺は思ったままに言葉を頭で紡ぐ。


「なんていうか……メディアスは頭が良いというか……凝り固まってないというか…………人間に酷いことをされて……すごく酷いことをされて……大事な同胞がそんな目に遭って、本当に憎かったと思う。言葉では言い表せないくらい、恨んでいたと思う」

「……」

「俺も……仲間が誰かに殺されたりしたら、理性を保てる自信がない。ずっと引きずり続けると思う。でも、メディアスは引きずってないだろう? それは悪いことじゃなくて、すごく良いことだと思うんだ」

「エル……」

「人間を『塊』で見ないで、『個』として人間を見る。そういうことが出来るメディアスは、本当にすごいと思うよ」


俺は頭が良くないので、余計な言葉があったかもしれないが……それでも、思っていたことは全て伝えた。

メディアスに、俺の気持ちが伝わっているだろうか?


「……うちが……すごい……?」

「あぁ、すごいと思う。過去のことで人間を恨むのは当然だ。だが、現代の人間と過去の人間は別物。頭では分かっていても、心では拒絶するのが普通だ。なのに、メディアスにはそれがない。そういう考えが出来るからこそ、薬屋っていう多くの他人と関わる仕事が出来たんだろうな」

「……おおきに。そう言ってくれるのは嬉しいけど……でもうちは……うちは……本当は薬屋なんてやるべきやないんや……」

「それは……どういうことだ?」


メディアスは悲しそうな顔で自分の胸をぎゅうっと掴む。


「昔な、今回みたく暴走したことがあるんや。……自分の毒でな」

「それは……」

「人間が同胞を傷つけたー、なんて本当は言っちゃいけないんや……うちも、患者さんを傷つけてしもたんやよ……」

「……」

「そん時は薬屋としてもまだまだ未熟でな、自分の毒すら操れへんかった。薬を調合している時に毒の分量間違えたり、逆流したり……色んなことが重なって暴走という結果になってしもた。だからうちは本当は薬屋なんてしちゃいけないんや……」

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。

毎日投稿してますので、是非また次の日に見に来てください!

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