第60話 伸び代
「魔人に混ざっている血の正体…………それは……人間の血じゃ」
……人、という字が入っている時点でなんとなく想像はついていたが…………いざ聞くとやはり信じられない。
ここにいる全員が神妙な顔でその話を聞いている。
そもそもなぜ、人間と魔族の混血が存在しているのだろう?
「なぜ人間の血など混ざるのだろうか? そんな顔をしておるな」
ミレーユさんはそんなこちらの疑問を言い当てる。
「……しかし、聞かない方がいいであろうな。……聞いても気分の良い話ではないのじゃ」
…………深く考えないことにしよう。
「さて、これが魔人と魔族の違いじゃが……なにか質問はあるか?」
「「はい」」
ザックとベルが同時に手を挙げる。
二人は顔を見合わせる。
「……多分、ベルさんも僕と同じ疑問を抱いてるよね?」
「うん。多分。……ザックからいいよ。」
「あはは、ありがとう」
ザックはベルに軽くお礼をし、ミレーユさんににこにこ顔をむける。
「僕は多分……ベルさんを助ける時に魔族を名乗るやつと戦ったんだけど…………異常なほどに弱かったんだよね、あはは。今の話を聞いた僕の推測では、あいつは魔人なんだ。そこでなんだけど……もしあれが魔族だったら、僕は勝ててたのかなって思ったんだよ。……そこで質問なんだけど、今の僕で魔族に勝つことは可能なのかな?」
「無理じゃな」
「……あはは」
ミレーユさんは即答した。
ザックは笑顔を崩さない。
ザックでは魔族に勝てない…………
ザックの戦闘は二回だけ見た事があるけど……その二回とも圧倒的な実力で相手を蹂躙していた。
メアリスとベルと契約した今の俺でさえ勝てるか分からない相手であるザック。
相当な実力者のはずなのに…………
彼でも魔族には勝てない、そうミレーユさんは即答したのだ。
「エルのパーティメンバー全員で戦えば、勝てる可能性は高いじゃろうな。ちなみに、その時に戦った奴は魔人で間違いないのじゃ」
「……あはは。なるほどね、ありがとう」
この場に居る全員が驚いていた。
俺のパーティメンバー……ミレーユさんが言っているのは恐らく、俺、メアリス、ベル、アナ、メディアス、カレット、ザックのことを指しているはず。
原初の種が三人、神獣が一匹、Sランクに匹敵する実力を持っているメアリス、Aランク越えの実力を持っているザックとカレット。
この全員で戦えば勝てる可能性が高い?
確実に勝てる、という保証はないということだな……
魔族とはそこまでに強大なのか…………
「お主らは魔族を舐めていたようじゃな。今のお主らではタイマンになった時点で負けじゃよ」
「そんな……」
「でもさ、そう悲観することないんじゃない?」
カレットが立ち上がり、話を続ける。
「私たちっていわば……素人じゃない? まだまだ伸び代はあるはずだよ! いずれは一人で魔族を倒せるくらいにまで……いけるはず!」
カレットはみんなを元気づけるかのようにオーバーな身振り手振りをしながらそう言ってくれた。
「……そこの娘の言う通りじゃな。そう、お主らは素人。戦う技術も知らん小童じゃ」
「け、結構はっきり言うんやね……」
「当然じゃ。妾は嘘をつかんからな」
「……じと~……」
「ひゅ~らら~」
クロイツさんがじとっとした目で見るが、ミレーユさんは口笛を吹きながら必死に目を逸らす。
嘘をつくこともあるようだな。
……ただ、今言ったことは事実なのだろう。
どこかで戦闘技術を磨く機会を作った方がいいかもしれない。
「……戦闘技術を磨くのも大事。それ以外にも……仲間を増やすとか。」
ベルはメディアスの方を見る。
「もしここでエルとメディアスが契約したら。とんでもない能力が身につく可能性もある。それ以外にも……もっとたくさんの原初の種と契約すれば。エルは最強。」
「う、うちと契約……」
「ベル、メディアスは帰る予定があるんだぞ? それなのに契約するっていうのは……」
「……うん。今はそう。でもここでベルの直感タイム。メディアスはエルと契約してベルたちと旅を続ける。」
「そうなったら確かにすごく嬉しいな。でも、メディアスにも事情があるわけだし……最後は自分の意思で決めてもらわないとな」
俺は軽くメディアスに視線を向ける。
メディアスは顔を赤くして視線を逸らされてしまう。
お、俺はまたなにか気に触るようなことを言ってしまったか……?
「……そうなったら凄く嬉しいって…………そ、そんなはっきり言われたら……」
「メディアス?」
「ひゃう!?」
メディアスに謝ろうと声をかけると、コップがメディアスの足に当たってお酒が零れてしまった。
あぁ、俺はなんてことを……なにか気に触るようなことを言ってしまった挙句にメディアスのお酒を零してしまうなんて……
「二人は粗相さん。あとエルは気にしすぎ。」
「あうっ!?」
「いたっ!?」
ベルが指をパチンと鳴らすと頭上から銀色のタライが降ってきた。
「かっかっか! 随分面白い固有魔術じゃのう!」
「いてて……むしろベルが普通に魔法を使う方が珍しくないか? 騎士団と戦った時もそうだし……そんなにポンポン作れるもんじゃないだろう?」
「魔法は楽しい。だから余裕。」
ベルはいつも通りの無表情で胸を張る。
精霊族だから、というのもあるのだろうが……同じ精霊族であるサラは固有魔術を使ったところを見せなかったし…………
もしやベルは物凄い才能を持っているのでは?
「みんな……話がそれ過ぎじゃない? お酒の力かな?」
「あはは、楽しいからいいんじゃない?」
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