第7話 家族
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「……というわけなの」
メアリスはなんだかよく分からない顔をしていた。
今持つ全ての感情を煮詰めているかのような……言葉では形容しきれない想いが、メアリスの顔に浮かんでいた。
人間ではないかもしれないとアクスに言われていたため、覚悟はしていたつもりだったが、まさか絵画とは……
あまりにも予想外だ……
アクスもこれには動揺を隠せない。
ソロウという芸術家はどれほどの愛を持っていたのだろう。
ソロウがいくら家族のように接していたからといって作品に命が宿るなど、考えられるのだろうか。
心が不完全なまま生まれてしまった作品たち、彼らになにをしてあげるのが正解なのだろうか。
俺たちで、解決できる問題なのだろうか。
仮にこのまま魔物より強い、人間に怒りを持った作品たちが飛び出せばどうなるか。
甚大な被害が出るに違いない。
「本当はみんな優しいのに、怒りで我を忘れているだけなの! このままじゃ、お父さんが望んでいないことが起きちゃう。それだけじゃなくて、きっとみんな壊されちゃう、殺されちゃう……」
当たり前だが、人間に仇なす存在と分かれば冒険者ギルドに討伐依頼が届き、いずれ討伐されてしまうだろう。
人間側も多大な被害を受けることになるだろうが、この世は広い。
作品たちがどれだけ強かろうといつかは…………
メアリスにとっては作品たちは家族のような……いや、家族そのもの。
そんな作品たちが壊されることは、殺されることはメアリスにとって是が非でも避けたい運命なはずだ。
もし、そんな家族が危険に晒されるようなことになれば……きっと彼女は家族を守るために殺戮の限りを尽くす。
俺だって、彼女と同じ立場ならそうするだろう。
「お願い、作品を……私の大切な家族を助けて……!!」
本来憎む相手であるはずの人間に頭を下げ、心から搾り上げた慟哭。
そこに込められた思いは、考えるまでもなく分かる。
いや、分かるなんて言い方は烏滸がましいかもしれない。
それでも、伝わってくるんだ。
メアリスの気持ちが。
心が不完全なんて、そんなわけがない。
この数時間で、一体どれだけの表情を見たか。
魔物に怯えて涙目になったメアリス。
助けられてほっと溜息をつくメアリス。
それでも俺たちを信じきれなくて見上げるメアリス。
お腹が鳴って赤くなったメアリス。
キャンディをもらって笑顔になって、感極まって泣いてしまったメアリス。
令嬢のように芯のある表情でスカートをたくし上げるメアリス。
カスタードのパンを食べてまた笑顔になるメアリス。
俺たちに境遇を話すか話さないかという葛藤を抱えるメアリス。
どこが、俺たちと違うというのか。
……そんなメアリスに、ここまでされて……
「もちろんだ。メアリスも、作品たちもみんな助ける」
「…………!!」
彼女が助けを求めて伸ばした手を、取らないわけがない。
メアリスの顔がくしゃりと歪み、その頬には涙が滝のように伝う。
「俺も……嬢ちゃんたちを助けるぜ。困ってる人間は放っておけねぇ質でな」
アクスと俺は、メアリスたちを助けるという意志をはっきりと伝える。
それを感じ取ったメアリスは膝から崩れ落ち、小さな両手で顔を覆う。
「うぅ……ありがとう、エル、アクス……!」
「必ず助けるから」
俺はメアリスに手を差し出すと、メアリスはごしごしと目を擦ってから掴んでくれた。
「本当に……ありがとう……!!」
メアリスの頬は紅く染まり、涙で目が腫れている。
未だ頬を流れる涙は止まることなく、ぽたぽたと床を濡らし続けている。
それを見た俺とアクスは、必ずメアリスと作品たちを助けるという決意を更に強めた。
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