第53話 ベストな選択
ここ昆虫族の里に……メディアスを洗脳したものがいる。
特定の者しか入れないこの場所に…………
「……そのことに関しては早急に全種の長で会議しよう。……なれど……」
ザンティはとても難しい顔をする。
「真っ先に疑わらるるのは貴殿ら……しかしてメディアスであろうな」
「ベルたちはさっさとバレる前に帰るから問題ない。メディアスに関しては……第一号だからしょうがない。」
「第一号?」
「操られてた第一号のこと。」
操られた者が容疑者として扱われるのは普通だろう。
もしかしたら自作自演かもしれない、と。
「…………それに……メディアスは昔少々面倒な事件を起こしていてな……此の儘ではメディアスに罪を被せらるてしまうかもしれん」
「そんな……」
戦っていて分かったが……メディアスさんは悪い人ではない。
人間を嫌っていると言っていたが、彼女はそんな俺たちを傷つけるのを拒んでいた。
操られていてもなおだ。
柔軟な思考を持っているのだろう。
きっと、人間だから……というわけではなく、きちんと悪い人間と良い人間の区別ができる、そんな人な気がする。
自分が良い人間と言うつもりはないけど……悪い人間であるつもりはない。
そんなメディアスさんが罪を被るなんて……なんとかできないだろうか?
「……あ! じゃあさ、私たちの仲間になってもらわない?」
「「「え?」」」
この場にいた全員が困惑の声を上げ、メアリスに視線を向ける。
メアリスはそれらを気にする様子はなく、そのまま続きを話し始める。
「だって、クロイツの母親を助けないといけないし……それに、昆虫族の里にいたら罪を被せられるかもしれないんでしょ? そうしたらメディアスはどこに寝泊まりするの?」
「そ、それは……」
「疑いが晴れるまで私たちの仲間として冒険する! これがいいと思うの!」
「……ははっ」
なんというか……笑ってしまう。
子どものように単純で……でも、理にかなっていないこともない。
しかしメアリスは仲間が増えたら楽しい、という純粋な気持ちで言っているのだろう。
そんな純粋な所が好きなんだけどな。
……それに、仲間が増えるのなら俺はすごく嬉しい。
「もし、ザンティとメディアスさんがよかったらだけど……俺は賛成するよ」
「……ベルも仲間が増えるのはやぶさかではない。それに。まだメディアスを操ったやつがここにいるかもしれない。そこに置いとくのは良くない気がする。」
俺とベルが賛成の意を示すと、メアリスはそれを見てニッと笑う。
「いいよね?」
「…………それがベストかもしれぬな。なれど、メディアスになにかあった時には……分かってをるな?」
「もっちろん! ね? ご主人様?」
「ご主人様はやめてくれ…………俺は仲間を命を賭して守る覚悟くらいは持ち合わせているつもりだ。必ず無事にメディアスを守りきると誓うよ」
「その言葉、忘れるなよ?」
「あぁ、もちろんだ」
俺は再びザンティと握手をする。
そして、ザンティは俺の方を見る。
「他の者に見つかると面倒じゃ。早ようメディアスを連れ、扉に入って元の場所に戻れ」
「分かった、ありがとう」
「……ちょ、ちょっと待ってや!」
「メディアス!?」
アナが抱えていたメディアスが突然目を覚まし、ぴょいと飛び降りる。
「メディアス!? 大丈夫なのか!? 今は安静に……」
「うちはもう大丈夫や。大体うちは攻撃すらされてへんしな」
「そ、そうか……それで、ちょっと待ってとはなんだ? やはり人間について行くのは嫌なのか?」
「いや……それはもういいんや」
メディアスは順に俺、メアリス、ベル、アナ、クロイツさんを見る。
「あんたら、うちを傷つけないために攻撃せんかったやろ? 死ぬ危険だってあったはずやのに…………」
「それは当然のことじゃないか? 俺たちは別に普通のことをしただけで……」
「そういうとこやで」
「?」
メディアスは俺に指を指して苦笑する。
本当に特別なことをしたつもりはないんだけど…………
もしかして、俺だけ?
そう思って皆に尋ねるような視線を向ける。
「そういうとこだよねー♪」
「そういうとこ。」
「そういうとこですよ」
「え、えぇ?」
全員にそういうとこだと言われてしまった…………
それにしては皆は優しい視線を向けてくれている。
メディアスはそんな俺たちを見てコホンと咳払いをし、話し始める。
「うちはあんたらについていくのは嫌やない。操られとったとはいえ、あんたらの優しさは伝わってきたからな。……ただ…………」
メディアスはギュッと拳を握りしめて涙を流す。
「うちのせいで傷ついた同胞を放って行くのは嫌なんや……」
「メディアス……」
「……それなら。ベルがなんとかする。」
「え? そんなん出来るん?」
「うん。ベルにかかればちょちょいのちょい之助。」
「おー! ベル、ナイス之助!」
「当然。」
「二人とも……それはやめてくれないか?」
「ほんで、なんとか出来る之助なんか?」
「め、メディアスさん……」
俺の制止をスルーし、之助フィーバー(?)が始まってしまった。
「なんとか出来る。ベルが長にお願いして回復魔法の使い手の精霊族に来てもらう。建物の復興も手伝ってもらう。」
「なるほどな……確かに、うちらとも仲良い精霊族なら手を貸してくれそうやな……せやけど、うちは責任をとらな……」
「メディアス、貴殿は悪くないのでござる。ただに、操らるておりきのみ。それを証明するために……ここは某に任せてくださらぬか?」
「ザンティ……」
メディアスはその言葉を聞いて嬉しそうな顔をし、次いで難しい顔で考える。
「……分かった。ザンティに任せるわ」
「……嗚呼、任せてくれ」
メディアスはザンティに頷き、俺を見る。
「そういうことで……お願いします! うちを連れて行ってください!」
メディアスは俺に向かって深々と頭を下げる。
対する俺の返答は……
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