第52話 掛橋
「ぐっ……貴様ら、よくもメディアスを…………!」
「私たちがこの子の洗脳を解いてあげたのに……それに、最後に言ってた言葉が聞こえなかったの? おおきに、って言ったんだよ? ありがとうってことだよ?」
「あれも貴様らの洗脳であろう! 演技に決まっている! 第一……人間がいる時点で信用できぬっ!!」
おそらく昆虫族も精霊族と同じように、人間に酷い目に遭わされたのだろう。
ザンティの目からは確かな殺意が感じ取れる。
どうしようかと悩んでいると、アナが鎧の腕部分を組んでザンティに話しかける。
「貴様、わがはいが何か分からないのだ?」
「……貴殿は…………よもや、神獣様!?」
「そうなのだ。この者たちは悪い奴らではないと、神獣であるわがはいが保証するのだ」
「神獣様が……? いや、なれど……人間など…………」
ここで俺たちの言葉を全く聞かなかったザンティが、アナの言葉を聞いて初めて考える仕草をとる。
「先程の光はわがはいの神力が込められたものなのだ。もうあの毒蜘蛛種が暴れることはないのだ」
「そ、それは真でごさるかっ!?」
「うむ。わがはいは嘘をつかないのだ。そして、その毒蜘蛛種を助けるために戦ったこの者たちも、同様に嘘をついていないのだ」
「………………ならば、貴殿らはなにをするべくここに参った?」
ここでザンティが初めて自分からこちらにコミュニケーションを求めてきた。
アナ……神獣がいるだけでここまで違うとは驚きだ。
原初の種は神が創造したと言われているし……その神に近しい存在である神獣には頭が上がらないのだろうか?
「私たちは……母を助けるために来たのです。母はなにか病気のようなものにかかっていて……それを治すために、毒蜘蛛種の力を借りたくて……」
「……貴殿らも自身の親を助けるべく協力しているとか?」
「いいや、俺たちはクロイツさんの母親を助けるために来たんだ」
「……? それは、何故に?」
「何故って……困っている人は放っておけないだろう?」
「…………」
「分かったのだ? 他人のために行動することができる……例え危険であろうと、助けるために行動する。貴様なら……いや、昆虫族なら分かるはずなのだ。『人間の本質』がどのようなものか」
「…………」
アナはそれに……と続ける。
「戦う前に精霊族の長の魔法陣を見たはずなのだ」
「……つまり…………!」
「うむ。こやつらは精霊族の長に信用された、ということなのだ」
アナは誰にも聞こえないように「まだ完全には信用されてはいないようだが……」と付け足した。
ザンティは俺たちを真剣な顔つきで見つめる。
「某は……貴殿らを信用してもよいのか……?」
「…………それはザンティ自身が決めることだろう。……だが少なくとも、その信用を裏切るような真似はしないと約束する」
「うんうん! 私たちはそんなことしないよ!」
「うん。精霊族を代表して……っていうのはおこがましい。けど。ベルたちは過去の人間たちと同じような過ちは犯さない。」
「……私は……母親を助けるため、という私利私欲で行動していました……ですが、私も信用を裏切るようなことは絶対にしません。そこは保証します」
その言葉を聞くと、ザンティは俯く。
腕を降ろし、鎌となっていた腕を元に戻した。
「……メディアスが倒れた時、貴殿らにおおきに、と申しておりきな。……その時の眼に浮みておりきのは…………確かな感謝でござった」
ザンティは前を向いて俺たちに歩み寄る。
「やつは昆虫族の中でも生粋の人間嫌いだ。薬屋であるやつにとりて……同胞を傷つける人間が許せなかったのであろう。そんなメディアスが……貴殿ら……人間に感謝の感情を見せた」
ザンティは俺の目の前に立つ。
「某は……それを信じることにする」
ザンティは俺に腕を差し出し、こちらをじっと見つめる。
「名前は?」
ザンティは俺たち全員に名乗るように促す。
「エル・シュラインだ」
「メアリス・ローザだよー!」
「ベル・フローレス。」
「クロイツ・フェイクです」
「……エル・シュライン、メアリス・ローザ、ベル・フローレス、クロイツ・フェイク。某の信用を裏切ったされば、その時こそは貴殿らの首を刎ねてやるわ」
「あぁ……そんなことにはならないけどな」
俺はザンティの手を握り、握手した。
その握手は、昆虫族から人間へ、人間から昆虫族への……一つの橋となった。
がっちりと握手している手を離し、俺はザンティに頭を下げる。
「その上で、お願いだ。クロイツさんの母親を助けるため……毒蜘蛛種……メディアスさんの力を貸してくれないか?」
「エルさん……私からも、お願いします!」
続けてクロイツさんも頭を下げる。
「それはメディアスが決めることじゃ。某は蟷螂種種の長であって、毒蜘蛛種の長ではごさらぬからな…………それで、メディアスは無事なんであろうな?」
「うーん……大丈夫だよね?」
「うん。ベルたちはメディアス本人には攻撃してない。強いて言うなら……ベルの花火で火傷したくらい。でももうそれも治した。」
「それに、中にある邪悪なものは全て浄化したはずなのだ。……ただ…………気がかりなことがひとつあるのだ」
「……なるほど」
気がかりなこと……聞くまでもないだろう。
それは……
「この昆虫族の里に、こやつを洗脳した何者かがいる、ということなのだ」
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