第48話 人間の本質
「「「はい(うん)(当然。)(キュ)」」」
全員が即答した。
それを見た長は表情を変えずに問う。
「……それは、何故?」
「……私たち人間のしたことは、恐らく一生をかけても償いきれない……いや、何生あっても償い切れないでしょう。ですが、私の母を助けるためならば……どんなことでもします」
「覚悟は?」
「私の全てを賭けられます」
クロイツさんは再び即答。
長はその言葉に込められた覚悟を感じ取ったのか、驚いた表情を浮かべた。
「……俺たちも同じ気持ちです。クロイツさんはベルの命の恩人ですからね、何でもしてみせます」
「当然。命を助けて貰ってはい終わり。なんて有り得ない。ベルはなにがあってもクロイツの母上を助ける。」
『わがはいはベルに従うのだ』
「私は外に出て、人間にも色々いることを知った。良い人間、悪い人間……人間という種族そのものを悪く見てはいけない、そう思ったから……だから、『良い人間』のクロイツは助けてあげたい!」
「皆さん…………」
俺は、それに……と続ける。
「困っている人を放っておくことはできません。たとえそれが茨の道になろうと、突き進みます」
「自分とは関係ない他人でも?」
「そんなの……関係ないじゃないですか。手の届く範囲のことは全部助けたい、守りたいって思うんです。甘い理想論かもしれませんが……俺はそれを実現させるためならら、なんでもします」
「……自分と……関係の無い者を助ける……そうだ、それこそが本当の…………」
長はなにかを呟くと、一つ咳払いをする。
そして、俺らの方を見つめる。
「…………いいだろう」
長は立ち上がり、大きな声で宣言する。
「貴様らを、信用に値すると判断した」
「ということは……」
「昆虫族の里に連れて行ってやろう」
「「「…………!!」」
全員が顔を見合わせ、笑顔を浮かべる。
「「「ありがとうございます!!」」」
「ただし、一つ条件がある」
「なんでしょうか?」
「昆虫族の里のこと、精霊族の里ののことについて口外しないことを約束しろ」
「もちろんです」
「はい、分かりました」
「了解。」
「分かったよー」
「契約」
長がくるりと指を回すと、俺たちの目の前に魔法陣が出現した。
……ベルと契約した時のものと似ているな。
複雑さでいえば契約した時のものの方が何倍も複雑だったが。
「その魔法陣に魔力を込めながら触れろ。これも条件の一つだ」
俺たちは戸惑いながらも、長の言う通りにする。
魔法陣に魔力を込めると、魔法陣が頭に吸い込まれていった。
「これは……?」
「言葉の通り、契約だ。貴様らが精霊族の里について口外しないようにな。それと、目立たないよう髪に隠れるように魔法陣を頭に乗せた」
「乗せる……? 長。それだと効果が出ない。」
「精霊族の長を舐めるでない。密着さえしていれば効果は出る」
「……流石。そこだけは尊敬。」
「相変わらず一言余計じゃな」
長とベルは意外と仲がいいようで、冗談交じり? に会話していた。
長は話しながらこちらに手招きをした。
昆虫族の里に繋がる扉に案内してくれているのだろうか?
「……その契約を解いてほしくなったらまた来い」
「え? 解いたら俺たちが口外する可能性があるのに……ですか?」
「なんだ? 口外する気なのか?」
「い、いえ、そんなことしません」
「かっかっか、冗談だ。……なんとなくだが、小僧はまた仲間を増やすだろう。小僧がその仲間に、精霊族の里について話す時が来るかもしれない、そう思ったのだよ」
「新しい……仲間……」
そんなにぽんぽんと増えるものだろうか?
確かにここ最近はメアリスにベルと……臨時とはいえ、クロイツさんも仲間になっている。
新しい仲間が増えるのも近いかもしれないな。
そんなことを考えていると、長は一つの扉の前で止まる。
「ここが昆虫族の里に通ずる扉だ。言っておくが、昆虫族も人間を憎んでいる。ともに魔王と戦ったからのう…………あとは言わなくても分かるな?」
「は、はい!」
その戦争に参加した、そして精霊族とともに住処が追われた。
…………ということは……精霊族と同じ……
…………殺し合いのようなことにならないといいな。
「その魔法陣は魔力を込めれば浮き上がるようになっている。特定の昆虫族が見れば、儂のものと分かるだろう。そうなれば、話を聞くくらいはしてくれるはずじゃ」
「分かりました、本当にありがとうございます……!」
「ここまでしていただいて……いつか、必ず恩を返します」
「そうかそうか、それは楽しみじゃな」
長は笑いながら扉に触れた。
すると、扉は歪み……空間に穴を開けたようなものが出現する。
しばらくするとそれは緑に変化し、魔力が発せられる。
「ここを抜ければ、昆虫族の里だ。いきなり襲ってくる者もいるだろうが、できるだけ傷つけないようにな」
「分かりました、肝に銘じます」
「それでは……行きましょうか」
メアリス、ベル、クロイツさんは順番に入っていき、最後に俺が入ろうとすると……
「……エル・シュライン」
「なんですか?」
「……もし、自分の在り方が分からなくなったら、儂に会いに来い」
……抽象的でよく分からないが、精霊族の長の言葉だ。
なにか意味があるのだろう。
俺はその言葉をしっかりと頭に刻み、力強く頷いた。
「では、気をつけるのだぞ」
「ありがとうございます、いってきます」
俺は開かれたゲートに入り、目を瞑った。
昆虫族の里…………一体どのようなところなのだろうか?
力を貸してくれるだろうか?
襲われないだろうか?
……殺されないだろうか?
たくさんの不安が俺を襲う。
でも、不思議と怖くなかった。
仲間が、いるから。
…………かもしれないな。
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