第46話 精霊族の里
……交渉はうまくいっただろうか?
相手は人間を嫌う精霊族。
そんな彼らが人間のために動くなど、有り得るのだろうか?
…………いや、アナとベルなら……必ず交渉を成功させてくれるはず。
「……ふふっ」
「どうしたんです?」
「いえ、エルさんは優しい人なんだなぁ、と思いまして」
「それがエルだからねー」
「?」
どういうことですか?
と、聞こうとしたその時。
「ただいま。」
「キュキュイキュ~」
「ベル! お疲れ様。交渉は……」
「どうでしたかっ!?」
「…………。」
「そんな、まさか……」
ベルはただ俯き、こちらを見ようとしない。
まさか、失敗……
「交渉は成功した。」
「本当ですか!?」
「かもしれない。」
「なんで落としたり期待させたりするの!?」
思わずメアリスがつっこむ。
俺もそうつっこみたくなった。
「とにかく。ついてきて。」
「え? ついてきてって……」
「里に入る。」
「「「───えぇぇぇぇぇぇ!!!?」」」
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「こっち。」
「ここが……精霊族の里……」
鳥のさえずり、風の吹く音、風に撫でられる木々、滴る水の音……とても心地よい空間だ。
できることなら、ここで昼寝でもしたいな。
「……でも、ここまで敵視されてるとな……」
直接出てくることはないものの、あらゆる所から射るような視線を感じる。
もしも視線に力があれば、俺たちの身体は風穴だらけになっているだろう。
それほどに睨みつけられている。
「……これほどまでに憎まれているとは……少し甘く見ていました。昔の人がした行為はここまで大きな過ちだったのですね……」
「……住処を奪われて怒らないわけがないですからね……」
……それにしても、違和感がある。
確かに住処を奪われて怒るのは当然だが……この視線に込められているのは『憎しみ』などという生優しいものではない。
『殺意』だ。
住処が奪われただけ……と言うのは間違っているが、それにしてもここまで黒いものを向けられる程だろうか…………?
この感情の根源は、あるものに似ている。
俺のよく知っている……
「着いた。ここが長の部屋。」
「「長!?」」
「長って一番偉い人のことだよね?」
「うん。そう。」
「俺たち、殺されるんじゃ……?」
「長はそこまで馬鹿じゃない。行こう。」
ベルはドアノブに手をかけ、そのまま開ける。
「ベル……ノックをしろと何度言ったら分かるんだ……?」
「どうせ長は入る前に気づくから意味無い。」
「はぁ……まぁいい、入れ」
「ん。」
ベルはちょいちょいと手招きをし、いつも通りの歩き方で部屋に入っていく。
俺とクロイツさんは緊張しながら入っていくが、メアリスは目をキラキラと輝かせ、辺りを見回しながら入る。
「そこに座れ」
椅子などは無いので、地べたに座れということだろう。
俺とクロイツさんは正座、メアリスとベルは楽にしている。
アナに至ってはベルの頭の上でくるくるしていて、緊張感のかけらもない。
「……いきなりだが、貴様らに質問する。ここまで精霊族の里を歩いて、何を感じた?」
「……そうですね……私は眠っていても気づくような、きつい視線と憎しみを感じました」
「んー……私は警戒されてる、って感じかな」
「ほう、そうか。貴様はなにを感じた」
……はっきりと言った方がいいだろうか?
殺意を感じた、なんて言うのはかなりの勇気がいるな…………
……いや、ここで誤魔化すことはいけない気がする。
「────…………はっきり、一言で言いますが…………俺は、確かな殺意を感じました」
俺の言葉を聞いて、長は眉をピクリと動かして固まる。
流石に殺意を感じたと言うのはまずかったか……?
「─────はっはっは!! 随分とはっきりとものを言う! …………その通りだ、我ら精霊族は人間に対して確かな殺意を抱いている。────儂もな。」
「「……!!」」
突然空気が変わり、先程まで浴びていた殺意とは比べものにならないものが俺とクロイツさんに叩きつけられる。
気を抜けば気絶してしまいそうだが、目を逸らしてはいけない。
そんなことになれば、クロイツさんの母親は救えない。
「……ほう、中々骨があるじゃないか。名を聞いておこう」
「クロイツ・フェイクです」
「エル・シュラインです」
「メアリス・ローザだよ! よろしくね!」
「…………!」
……?
一瞬だが、長が驚いたような顔をした気がした。
本当に一瞬なので確かではないが……
「……エル・シュライン、と言ったな」
「は、はい」
「貴様の職業はなんだ?」
「冒険者です」
「冒険者……か」
「……? それだけですか?」
「……あぁ」
…………本当にそれだけなのだろうか……?
「二つ目の問いだ。なぜ精霊族が人間を憎んでいるのか知っているか?」
「大昔、人間が精霊族の忠告を無視して住処を奪ったから……ですよね?」
「それ以外には?」
「それ以外……?」
「……はぁ、なるほどな。人間はやはり愚かな種族よの」
な、なんでここでそうなるんだ?
なにか言ってはいけないことをいってしまっただろうか…………
俺のせいで交渉が失敗したら……
「小僧、これに関しては貴様が悪いわけではない、気にするな」
「え、あ、ありがとうございます……?」
そう言うと長はただ……と続ける。
「貴様らは精霊族と人間の正しい歴史を知らんようだな。いや、知ることができなかったというのが正しいか。……貴様らには、正しい精霊族と人間の歴史を知ってもらおう」
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