第42話 堕とされた薬屋
「昆虫族っていうと……」
「原初の種の一種だな」
昆虫族。
精霊族と同じ、自然に住まう原初の種であり、精霊族とともに自然の秩序を保ってきたと言われている。
昆虫族にはたくさんの種類が存在しており、毒蜘蛛種はその中の一種だ。
「毒蜘蛛種って、なんだか魔物にも居そうな名前だね」
「確かに○○スパイダーみたいな魔物は居るな。でもそれらと昆虫族には、決定的な違いがあるんだ」
「どんな違いがあるの?」
「魔物は魔王の庇護を受けています。それに、魔物は殺されると最後は魔石になって消えてしまうでしょう?」
「うん、そうだね」
「なぜ消えてしまうのかというと、魔物は魔素の集合体だからです。力を失えば空気中に離散してしまいます。しかし、昆虫族は我々人間と同じような『肉体』を持っています。死んでしまっても空気中に消えるようなことはありません」
「なんとなくだけど……分かった! 説明してくれてありがと、クロイツ」
「ふふ、どういたしまして」
メアリスがクロイツさんと……人間と仲良さそうにしている。
人間だからと差別することなく、例え人間であろうときちんと内面を見る。
そんなことが出来ているメアリスは、俺なんかよりもずっと大人に見えた。
「それで、昆虫族にはどこに行けば会えるの?」
「キュキュー……」
「魔法の森にあることは確かなのだ。……詳細な場所までは知らないのだ。って言ってる。」
「そこまでノーヒントに近いとな……魔法の森ってかなり広いぞ?」
「マテリアルなんちゃらで探せないの?」
「キュイ、キュキュンキュン」
「特殊な術で隠されてるから普通の方法で見つけるのは不可能なのだ。だって。」
「……それって、行けないってことじゃない?」
「キュキュキュイ~」
「わがはいは神獣なのだ。神様に創られた原初の種ならば、わがはいが近くに来たらなにか行動を起こすはずなのだ。だって」
そういえば、アナは神獣だったな。
あまりに威厳がないもので、忘れていた。
「いたっ!?」
「キュウ~……」
「小僧、今失礼なことを考えたな? なのだ。だって。」
「うぅ……ごめん」
「こ……この子が……神獣様なんですか……?」
「キュ」
「その通りなのだ。頭を垂れてつくばうのだ。……おばか。」
「ギュッ!?」
アナはベルの拳をくらい、その場でひしゃげる。
一体どれほどの威力があるのだろうか…………
想像しただけで身体が震えてしまいそうだ。
「アナは神獣だけど少しも偉くない。その辺の動物と同じように扱って。」
「あはは……わ、分かりました……」
クロイツさんは苦笑し、次いで真剣な顔になる。
「昆虫族の里……ですね。ありがとうございます。ここまで教えていただいて非常に厚かましいのですが…………」
「もちろん手伝いますよ」
「ここまで聞いて放っておくわけにはいかないよねー」
「うん。ベルたちがなんとかする。」
「皆さん……ありがとうございます…………!」
クロイツさんが何度も頭を下げる。
クロイツさんのお母さんを助けるため、各々昆虫族の里に向かう準備を整える。
原初の種、昆虫族……果たして俺たちに協力してくれるだろうか?
◇◇◇◇◇
「ふむ、やはり彼らは昆虫族の里に向かうようですね。予測通りです」
そこはどこなのか、辺りが闇に包まれてその男だけが立っている。
音もなく、色もなく……そこにあるのはただ一つ、闇。
「ターゲットは……彼女にしましょうかね。クフフ、苦痛に歪む顔が楽しみです」
◇◇◇◇◇
「いつもありがとうねぇ。うちの子ったら体が弱くて……」
「そちらのお子さんはまだ幼体やからね……いつも通り、刺激の弱いお薬を出しといたで。ほんせやけど改善さられへんようなら、蜂蜜を少し飲ませてあげるといいはずや」
「あら! いいこと聞いちゃったわ! うちの子も、メディアスちゃんみたいに立派になってくれないと!」
「いや、そんな……うちなんて……」
「もう、いつもそうやって謙遜しちゃって! 私たちが安心して暮らせるのはメディアスちゃんのおかげでもあるのよ!」
「たはは、そんなん言われたらうちも嬉しいわ……んじゃ、おおきに!」
「おおきに!」
ふぅ……今日はこれで終わりかな……?
うちのおかげで安心して暮らせる……かぁ。
ええ響きやわぁ…………
うし! 明日もがんばろ!
「こんにちは」
「ひゃああああああああああああああ!!?」
やばいやばい、絶対今うち変な顔してたわ……ど、どないしよう……
と、とりあえず……笑顔で対応すれば大丈夫やな!(?)
「いらっしゃいませー! 何名様なんか?」
「はい?」
あかぁぁぁぁん!!?飲食店と間違えてもたぁぁぁ!!
いや、そもそもなんや飲食店と間違えるって!
うちは薬屋やぞ!?
掠ってすらないわ!!
アホ!
「えーっと……薬を買いに来たんですが……」
「へ、あ…………」
あかんあかん、普通に薬買いに来た客になんちゅーとこ見せてるんやうちは……
「え、えーと……とりま診察するからそこ座っといてや」
「はい、お願いします」
メディアスは座っている昆虫族の対面の切り株に座り、カルテを書く準備をする。
「どこが悪いん?」
「そうですね……なんと言えばいいんでしょうか……」
「なんや、言いにくいことか?」
「はい……あの、恥ずかしいので耳を寄せてもらっても……?」
「お?なんやなんや、うちは口固いから絶対他には言わんでー」
メディアスは昆虫族の口に耳を寄せる。
その瞬間……
「堕ちろ」
「!?」
な……なんやこれ……急に……眠く……
「堕ちろ。堕ちろ。堕ちろ」
その昆虫族の言葉に抵抗出来ず、メディアスは深い眠りに堕ちた。
「クフフフフフ、原初の種とは思えないほどちょろいですねぇ。それでは……」
昆虫族だったそれは姿を変え、注射器のようなものでメディアスになにかを注入した。
「これで、一度様子を見るとしましょう。クフフフ…………クフフフフフフフフフフフフフ!」
男は邪悪な笑い声を響かせ、闇に姿を消した。
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