第38話 人間キュウ出大作戦!
俺たちは昼食でお腹を膨らました後、宿屋に戻ってくつろいでいた。
三人で雑談していると、メアリスがこんな話題を出した。
「私とベルってお互い知らないこと意外とあるよね」
「確かに。メアリスが何者なのかベルは見当もつかない。」
「まぁ話す機会がないからな。いいタイミングだし、ベルがなんで魔族に捕まってたか、どんな理由で家を出たかなんかも聞けたら嬉しいな」
「それなら次はメアリス。」
「じゃあ最後はエルだね」
「分かった。それじゃあ一番手のベル、話してくれ」
「なんで魔族に捕まってたか。ね。」
◆◆◆◆◆
「……どこにいる。」
ベルは母上がいないうちに精霊族の里から抜け出した。
そこでまず最初に来たのが。魔法の森。
なんで来たかというと──────
────……ベルにも分からない。
突然スペリラという街にいる人間が気になった。
直感。というものだと思う。
そこにいる人間が邪悪に襲われる。
直感にしては具体的。
でも。それ以外に説明できない。
直感でここに来た。
「こ、来ないで……!」
「……。」
人間の声……怖がってる。
行かないと。
「あらぁ、ガキのくせにこんな魔物だらけの森に入ってきたの? バカねー。仕方ないから私が殺してあげる」
「い……いや……」
「フレア。」
「……!? なによっ!?」
ベルは素早く撃てて敵にも察知されにくい、初級魔法を魔族に向けて放つ。
人間を助けることを優先したからだ。
しかし、ギリギリで気づいた魔族は人間を抱えてベルの魔法を避ける。
「その人間を離して。」
「なんでよ? ……って、その羽……もしかして精霊族? ……アハハッ!」
「なんで笑うの?」
「魔王様に仇なす原初の種をここで始末できるのよ? 笑う以外にどうしろって言うのよ! 魔族であるあたしにひれ伏しなさい!」
「ベルはあなたなんかに負けない。」
「あら? そんなこと言っていいのかしら」
「きゃあ!!」
魔族は少女の首に爪を突き立て、ベルに醜悪な笑みを向ける。
「さっきの攻撃を見る限り、この人間を助けようとした……あんたが魔法を発動させる素振りを見せたらすぐにこのガキを殺す」
「……。」
精霊族といえど、魔力の動きを完全に察知されることなく魔法を行使することはできない。
ならば肉弾戦は?
精霊族は魔法に突出している分、体力や身体能力が低い。
精霊族が魔族相手に肉弾戦を仕掛けるなど、自殺行為だろう。
この時点でベルは勝つことは出来ないと判断した。
『アナ……聞こえる?』
『どうしたのだ?』
『ピンチ。助けて。』
『……今すぐ向かうのだ、待っているのだ』
ベルはアナへの連絡を終え、魔族に向き直る。
アナとは契約魔法に近いもので繋がっているので、常に念話ができるよう繋がれているので察知される心配はない。
「精霊族って確か接近戦がざこいのよね。ほら、動いちゃだめよ?」
「うっ。」
「お姉ちゃん!」
魔族はベルに拳を打ち込んだ。
ベルは簡単に吹き飛ばされ、その場に倒れる。
「これが原初の種? ざこいわね!」
「…………。」
「もっと悶えなさいよ! つまんないわ!」
再び魔族はベルに拳を打ち込む。
それを見た少女は顔を抑え、涙を流す。
「お姉ちゃん……私のせいで……」
「……心配しないで。あなたはベルが絶対助ける。」
「お姉ちゃん……」
「ぷっ……くくく、アハハハハ!!」
そんな会話を聞いた魔族は口を吊り上げ、大きな笑い声をあげる。
ベルはそんな魔族を睨みつける。
「そんな状態のあんたが? 無理に決まってんじゃないの! ほら、もう一発……」
「キュウ!」
魔族の突き出した拳は、ベルを助けに来たアナに受け止められる。
「は?」
魔族は何が起きたか理解できずに棒立ちのまま固まる。
アナはその隙に素早く茂みに潜んだ。
「……ありがと。」
『当然なのだ。遅くなってごめんなのだ。……それで、あの人間はどうするのだ?』
「無傷で助ける。最優先事項。」
『それは……』
「ベルよりも優先。返事。」
『……心得たのだ』
……アナは来たけど……。あの人間はまだあいつが持ってる。
下手に動いたら人間が殺される。
ベルのせいで誰かが死ぬなんて。だめ。
「原初の種、今もしかして魔法を使った? ガキが死んでもいいのかしら?」
「……ベルは魔法なんて使ってない。」
(……確かにあの原初の種の魔力に動きはなかった。なら、今のは何? ……まぁいいわ。私がやられるなんて有り得ないし。)
そこまで頭が良くないとはいえ、この魔族がなぜそんな軽率な考えに至ったか。
それは最高にいい気分だからである。
自分と同格、あるいは格上の者をいたぶる愉悦。
無抵抗の原初の種をいたぶる愉悦。
(さいっこうだわぁ……。もっといたぶって……いたぶって……ハハ……アハハ!)
魔族がそんな事を考えている間も、ベルは頭をフル回転させて少女を助ける方法を考えていた。
「…………。」
……ベルもアナも。あの程度の魔族は単独で撃破可能。
でもベルは魔法を使ったらアウト。
アナは気づかれてない。
アナをうまく動かすべき?
アナに人間を解放してもらう?
どうやって?
『アナ。うまく人間を助ける方法は? 百パーセント助けられるやつ。』
『……まだ気づかれていないわがはいが奴を抑える。それがベストなのだ』
『あれは一応魔族。あれが少し手を動かしただけで人間は死ぬ。それまでにアナはあれを殺せる?』
『……この状態では無理なのだ。守護者形態になれば余裕なのだ』
『なってる間に死。いい? 人間を助ける。これが最優先事項。ベルは二の次。それを加味して。』
それを聞いたアナはベルの覚悟を感じ取り、人間をどのように助けるか。
それを一番に作戦を組み立てる。
『……わがはいが思うに、奴はベル……原初の種をいたぶって快感を得ているのだ』
『それで?』
『人間の解放を条件に、自らを拘束させる。そう交渉するのだ』
『うん。』
『ぶっちゃけあの魔族は、人間のことなんてどうでもいいと思っているのだ。それと引き換えにベルが抵抗して逃げられる、あるいは殺されるという最悪のパターンが潰されるとなれば当然乗ってくるはずなのだ』
『魔族が解放しなかった場合。どうする?』
『拘束している途中ならばそちらに意識が向くのだ。その間にわがはいが人間を奪取し、逃げる。近くにオリヴィア殿の魔法の気配があるのだ。そこに逃げれば魔族はおって来れないはずなのだ』
『母上の魔法……? なら大丈夫。母上はいないの?』
『いないのだ。魔法だけなのだ』
『……いい作戦。採用。』
ベルは作戦を実行するため、魔族に向き直る。
『……ベル……死んじゃだめなのだ……お願いなのだ。約束するのだ』
『ん。当然。死ぬつもりはない。』
『絶対助けにくるのだ』
『……いや、だめ。』
『なんでなのだ!?』
『……はぁ。さっきまで頭良かったのに。今のアナは脳みそスライム』
『ひどいのだ!?』
『アナ一匹で来たら拘束されたベルが死んじゃう。強い人の助けを呼んできて。勘づかれないよう力を封印して』
『……魔族を倒せる奴なんて、そんな簡単に見つからないのだ』
『ベルはいつまでも待つ。何度も言うけど。最優先事項は人間を助けること。ベルの安全は二の次。理解した?』
『……心得たのだ』
『それじゃあ。作戦開始。』
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