第36話 精霊族の魔法
「おー、結構おっきいねー」
「ここが冒険者ギルド?」
「そう、ここが冒険者ギルドだ。……あ、そうだ。入る前に言っておくことがある」
「「なに?」」
「他人から喧嘩を売られても買わないこと」
「あー……そうだね。気をつけるよ」
「? どういうこと?」
「実はだな……」
俺は冒険者登録をしようとした時に絡まれた冒険者のことについて話す。
そして、実力を周りに見せるのは控えた方がいいということも話した。
「理解した。気をつける。」
「ありがとう。それじゃあ……行こうか」
俺は冒険者ギルドの大きな扉を開け、掲示板に向かう。
掲示板に着くなり、メアリスが一つの依頼に目をつけた。
「エル! この伝説の剣を抜く依頼にしようよ!」
「却下だ。それに、俺のランクではまだそれは受けられない」
「ちぇ~」
「エル。これは?」
「どれどれ……スペルルキノコの討伐か。これなら俺のランクでも受けられるし、魔法を試すのにちょうどいいな。採用!」
「よし。」
「むむ……ベル、やるね」
メアリスがなにやらライバル心のようなものを燃やしていたが、とりあえずそれは置いておいて受付に向かう。
「……ねぇ、あの女の子って魔物襲撃の時の……」
「……あぁ、怪我人を一人も出さなかったっていうやつだろ……?」
「……そこで一緒に戦ってた青年もかなりの手練だったって話よね……」
冒険者たちが一気にざわつく。
「……もしかして、手遅れ?」
「ま、まぁあれは仕方ないところもあったから……」
冒険者の視線を振り切り、受付嬢の人に声をかける。
「すいません、この依頼を受けたいんですが……」
「スペルルキノコの討伐ですね。では冒険者カードの提示をお願いします」
「はい、これで大丈夫ですかね?」
メアリスが事前にブローチから取り出しておいてくれた冒険者カードを受付嬢の人に渡す。
冒険者カードは失くすとかなり面倒らしいので、絶対に失くすことのないメアリスのブローチに収納している。
「はい……はい……確認できました。Fランクとなるとギリギリのラインですね。死亡する危険もありますが、このまま依頼を受けますか?」
「はい、お願いします」
「承りました。では少々お待ちください」
受付嬢はペン差しに入れてあったペンで冒険者カードと依頼の紙になにかを書き始める。
消えることのないペンで、魔道具の一種らしい。
「はい、これで受付は完了しました。ご武運を祈ります」
「ありがとうございます」
俺たちは冒険者ギルドを後にし、魔法の森へ向かう。
--------------------
「ねぇエル! 早く魔法を使おうよ!」
「何も無いところで撃ってもしょうがないだろう? まずはスペルルキノコを探さないと」
「それもそうだね、残念。この辺りの魔物は大体一撃だけど、油断しないようにしないと」
「うん。油断大敵。足をすくわれないように気をつける。」
「二人とも偉いな、油断しないことが一番大事だから気をつけていこう」
「それで……どうやってそのズズズズキノコを見つけるの?」
「全然違う。スペリリキノコ。」
「どっちも違うぞ。スペルルキノコだ」
メアリスとベルは顔を見合わせる。
「ベルの方が近かった。」
「いいや、私だね」
「「むむむ。」」
「はいはい、そこまで。ここは一応魔物が出るんだから喧嘩はだめだ」
「……早速油断してた。」
「……面目ないね」
少ししょんぼりしている二人をなんとかするために……一度依頼の方に話を戻そう。
協力して作戦を考えれば、そんなことすぐに忘れられる……はず。
一度手を叩いて二人の注意を引く。
「気を取り直して、依頼の話に戻すぞ。この森は魔物の種類が多いから、これまでの探知方法だと特定の魔物だけを見つけることはできない。なにか案はあるか?」
「はい。エルの魔法の使い時。だと思う。」
「なんの魔法を使うんだ?」
「マテリアルサーチ。集中すれば特定の魔物を見つけることも可能。」
「いい案だけど……俺はスペルルキノコの魔力がどんなものか知らないぞ?」
「ん……ベルが覚えてるから渡す。メモリーズシェア。」
取り調べの時にも使っていた、記憶を共有する魔法だ。
ベルの持つ魔物に関する情報が流れてくる。
スペルルキノコに関するものは……これだ。
「よし、覚えた。今から探知をするから、魔物が来たら守ってくれ」
「アイアイサー。」
「合点承知之助だよー」
「……それ。すごくいい。次からベルも使う。」
やめてくれ。
……っと、今はこっちに集中しないと。
「マテリアルサーチ」
最初に記憶が流れてきた時は驚いたが、使いたい魔法を思い浮かべれば、その魔法式が浮かんでくる。
やっと情報の整理が終わった、ということだろうか?
俺は集中して覚えた魔力を探してみる。
どこだー…………!
「見つけたっ!」
「どこどこー?」
「東だ。群れみたいだから気をつけて行くぞ」
反応のある方へゆっくり、慎重に歩いていく。
結構近かったのですぐに見つかると思っていたのだが……
「……いない。」
「うーん……確かに反応はここなんだけどなぁ……」
「失敗したんじゃない?」
「いや、魔法は正確に発動したはずだ」
「……エル。もうそこにいる。」
「えっ!?」
ベルの言葉に警戒を強める。
──────が、待っても一向にスペルルキノコが来る気配はない。
「……どこにいるんだ?」
「ん。」
ベルが指さす方向を見てみると……
キノコが生えている。
俺が探しているのは魔物であって、キノコではな……いや、まさか。
「もしかして、埋まってるのか?」
「うん。正解。魔法を撃つチャンス。ごー。ごー。」
確かにこれなら魔法が撃ちやすいな……どんな魔法を使おうか…………
「よしっ。決めた」
俺は頭の中にある大量の魔法から一つをセレクトし、魔法式を構築する。
「イグニートフレア!」
俺の手から炎が放たれ、スペルルキノコに向かっていく。
放たれた炎は全てを喰らう龍となり、魔物を焼き尽くす。
「キギィアァ!」
「ギギィ!」
スペルルキノコは魔法に高い耐性を持つが、メアリスとの契約により出力が向上した上級炎魔法。
耐えられるわけが無い。
一瞬で灰になり、反応も消えた。
そこに残るのは、魔石のみだ。
「や、やばい火力の火…………」
「すごい威力。流石ベルのご主人様。」
「これは……使いこなせばとんでもない武器になるな」
ベルとの契約で手に入れた魔法の情報。
これがあれば有利になる、という展開が多く増えるだろう。
この力……使いこなしてみせる。
『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。
毎日投稿してますので、是非また次の日に見に来てください!




