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故郷を失った少年、最強絵画の少女とともに冒険者をする (打ち切り)  作者: いちかわ
魔法の街スペリラ~感情豊かな精霊さん?~
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第35話 ニ人目との契約

「こ、こうか……?」

「そう……いい感じ。」


俺はベルの用意した見本の魔法陣を見ながら手のひらにそれを描いていた。


「はぁっ……魔力が尽きそうだ……」

「メアリス。出番」

「はーい!」


メアリスが俺の手を掴み、魔力を流してくれる。

何度も失敗することを予見し、ベルが魔力譲渡の仕方をメアリスに教えていたのだ。


「ここからは自分でやらないといけない。アレンジ。」

「よしっ……」

「がんばれー! エルー!」


見本の魔法陣を描くだけならそれほど大変ではない。

なら、何故たくさんの失敗をしてきたのか。

それは種族、個体ごとに練り上げる魔力が違うからだ。

それに応じて魔法陣を変化させなければならない。

契約対象……ベルのことを思い浮かべて魔法陣を描く。



──────ピキーン!



「っ!」


最後のピースをパズルにはめたような感覚……これは……もしかして……!


「……エル?」

「……完成した。ベル、準備はいいか?」

「……! うん。」


頭に流れてくる言葉をそのまま紡いでいく。


「我が名はエル・シュライン。契りを交わすため、ここに(えにし)をつくる。無数の魔法を操りし精霊よ、我に力を貸したまえ。汝の豊かな感情で我に勇気を与えたまえ。……答えよ、汝の名は?」

「……ベル……」


俺の手のひらに刻まれた魔法陣はベルの手のひらに吸い込まれていき、刻まれた。

これで……


「成功……か?」

「……うん。成功。お疲れ様。」

「よかっ……た……」

「ん。」


エルは疲労で気絶してしまい、ベルに抱えられる。

そんなエルをベルは慈愛に満ちた瞳で見つめる。


「お疲れ様。ご主人様。」


エルをベッドに運び、優しく毛布をかける。

ベルは一度エルの頭を撫で、満足そうな表情……のようなものを浮かべ、メアリスの方に歩み寄る。


「メアリスも。お疲れ様。」

「ありがと。すごくかっこよかったね、エル」

「うん。すごく。なんだか……エルと繋がってるみたい。」


ベルは自らの手のひらに刻まれた魔法陣を眺める。


「えへへ、私とおそろい!」

「……メアリスのは薔薇。かわいい。」

「本当? 嬉しいなぁ」

「……やっぱり。メアリスのお父さんはすごい。せっかくだから今聞かせて。」

「いいよー。どこから話せばいいかなぁ……」



--------------------



「それでね、エルが『メアリスも、作品たちもみんな助ける。』ってねー! すっごくかっこよかったの!」


メアリスは楽しそうに足をバタバタさせながらそう話す。


「そんなイケメンなセリフ……かっこいい。」

「それで私たちは……」

「……待って。メアリス。」

「どうしたの?」

「それはエルの話。メアリスのお父さんどこ?」

「あ……うっかりしてた」

「……乙女?」

「乙女? どういうこと?」


ベルは身体をくねくねとさせて考える。

しばらくして、口を開くと……


「んー……ベルにも分からない。」

「くすっ、なにそれー」


まだ心の幼い二人は正体の分からぬ感情に興味を抱いていたが、悪い気もせずに浸っていたのだった。

二人がこの感情の正体に気づく日はいつになるやら……



--------------------



「……なんだ? この状況は……」


ふと目が覚めたら布団にメアリスとベルが入り込んでいた。

二人とも安らかな顔で気持ちよさそうに寝息をたてている。


「……契約は成功したのか?」


俺はベルを起こさないよう細心の注意を払いつつ、手のひらを見てみる。


「……この魔法陣は……俺が描いたものだ」


つまり……契約は成功した……?


「それは後で本人に聞いてみるか。」

「……んん……エル……?」

「あ、ごめん。起こしちゃったか」

「ん……問題ない。」

「それで……起きたばかりで申し訳ないんだが、契約は成功したのか?」

「うん。成功した。ほら。」


ベルが手のひらに刻まれた魔法陣を見せてくれる。

どこか嬉しそうな雰囲気だ。


「あの……ありがとう。」

「俺も、ありがとう。契約魔法を教えてくれて」

「使い魔として当然。……それで。契約して得た能力は?」

「うーん……なんだろぅ…………!?」

「エル……?」


突然頭に膨大な情報が流れてくる。

なんだ……これは…………頭が……痛い……

痛みを我慢してなにが流れてきたのか……確認しないと……


「大丈夫?」

「な、なんとか……」

「突然苦しみだした。どこか痛い? ベルが治す。」

「いや……ちょっと頭痛がしただけだから。大丈夫」

「……本当?」

「本当だよ」


ベルはこちらの目を射るような視線で見てくる。

すごく厳しい視線だ。


「…………嘘はついてない。なにがあった?」

「それが……なにか頭に流れ込んできて……」


なんだろう……これは……。

一気に流れてきた情報を整理してみると……


「……魔法式?」


知らない魔法の魔法式が大量に頭に浮かんできた。

あまりに大量で、頭の中が埋まってしまうほどだ。


「……もしかして。ベルの使える魔法が全部使える?」

「え?」

「そんな苦しむほどの頭痛。このタイミング。ベルとの契約によるものと考えるのが自然。たくさんの情報。それに……エルは魔法式。って言った。」

「もし本当にそうだとしたら……」

「うん。すごい。やばい。人間卒業。」

「卒業してないから」

「エルはとっくに人間卒業してるよね?」

「メアリスまで……って、起きたのか。ごめんな。うるさかったか?」


メアリスは表情筋ひとつ動かさずこちらを向き…………


「問題ない。」

「まねっこ。禁止。」


この会話を聞く限り、最初から起きていたようだ。

それにしても……この短時間で二人がすごく仲良くなっている気がする。

パーティメンバーの仲が良いのはいいことだ。


「ベルの使える魔法が全部使えるんでしょ? 試し撃ちしにいこうよー!」

「それに賛成。ベルも興味ある。」

「確かに使える魔法を試してみるのも今後大事になるな。それじゃあ……冒険者ギルドに行こうか!」

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。

毎日投稿してますので、是非また次の日に見に来てください!

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