第33話 ベルの想い
「…………。」
暗い夜の中。ベルはふかふかのお布団にくるまっていた。
「……暖かい。」
ベルは精霊族の里を無断で出た。
自分なら問題ないと。外を甘く見ていた。
……でもそれは間違い。
外は危険だ。野蛮な人間がたくさんいる。
そんな言葉をたくさん聞いてきたのに。
「…………。」
その結果。魔族に捕まって大変なことになった。
精霊族の里ではスペリラに魔族がいることに気づいてる人も居た。
ベルが産まれるそのずっと前。スペリラはベルたち精霊族にとって第二の家だった。らしい。
ベルはそこのことを知らなかった。けど。何故かすごく気になった。
そして同時に。人間のことが気になった。
人間は憎むべき相手。里ではそう習ってきた。
「……でも…………。」
何故か気になった。
頭の中に浮かんできたというより……心?
心がなにかを覚えている。
「……母上のせいかも。」
ベルの母上は優しい。すごく。
人間と精霊族が関係断った時も母上だけは人間を見捨てるのを拒んだ。……って聞いた。
でも。結果的に精霊族は里に帰ってきた。
一人の意見と里全体の意見。
どちらの方が優先されるかなんて。火を見るより明らか。
……そしてそんな母上は。
ベルに人間の話をたくさんしてくれた──────
◆◆◆◆◆
「─────ベルぅ……あぁ、なんて可愛いのぉぉ!!」
「むぎゅ……母上。……くるしい。」
「そんな表情も愛らしいわぁ!」
特徴的な木材で作られた家の中、一人娘を溺愛する母親が一人。
娘は母親に抱き上げられ、大きな胸を押し付けられていた。
「うふふ……ママも小さいころはこうやって抱っこされてたなぁ……」
「母上にもそんなじきがあったとは。おどろき。」
「最初は誰でも子どもなのよ~。ママも最初はベルみたいにちっちゃかったの。」
「おどろきをかくせない。」
「うふふ、本当に驚いてる顔ね。かわいいわぁ。」
娘の表情はほとんど、というか全く変わっていないというのに母親はそう表現した。
親子の絆、というやつだろうか。
「母上をだっこしていたのはだれ?」
「そうねぇ……人間、とか?」
「に。にんげん?」
「あらあら、そんなに驚いたベル、初めて見たわぁ。記録しとかないと~」
母親がそう言うと手のひらふわりと浮かぶ光球が出現した。
これで記録しているのだろう。
娘は本当に驚いているのか、後ずさりまでする。
「母上。にんげんにだっこされたの。ほんとう?」
「えぇ、本当よ~。ママは嘘をつかないもの!」
「母上はうそばっかり。」
「あらぁ、そんなこと言われたら悲しくなっちゃうわぁ。しくしく」
「は。母上……すこしいいすぎた。ごめんなさい。」
「うふふ、いいのよぉ。ベルは優しい子ね~」
母親は嘘泣きをしていたが、娘はそれを見抜けずに心配する。
いじわるな母親である。
「それで。にんげんにだっこされたのはほんとう?」
「さっき本当って言ったじゃないの~」
「にんげんはごくあく。あくのごんげ。」
「あらぁ、そんなことないわよ~? 人間さんはとっても優しいのよ~」
「しんじられない。にんげんはベルたちのすみかをうばった。」
「そうねぇ。でも、人間っていう生き物は~、とっても美しいものを持ってるのよ~」
「うつくしいもの?」
娘は首をコテンと傾けて母親を見つめる。
母親はそんな娘を見てころころと笑う。
「うふふ、そうなのよ~。人間っていうのは、すっごく美しいものをもってて、すっごく強いのよ~」
「にんげんがつよい? ありえない。にんげんはよわい。かんたんにしぬ。」
「そうかもしれないわね~。でも、人間はそれとは別の強さを持ってるのよ~」
「それはなに?」
「う~ん……本当は実際に会って体感してほしいんだけどぉ……それじゃあ、ヒントをあげるわね~」
「わくわく。」
「人間はね~、他の人のことが放っておけないの」
「どういうこと?」
「どう言えばいいのかしらね~…………ベルは目の前で転んだ子がいたらどうするかしらぁ?」
「いきなり?」
「まぁまぁ~、考えてみて~」
娘は悩む素振りすら見せずにすぐに口を開く。
「たすける。」
「とってもシンプルでいい答えだわぁ。流石、ママの子だわぁ!」
「むぎゅ。」
母親は再び愛しそうに娘を抱き上げ、娘はその圧迫に苦しむ。
しかし、同時に幸せそうな表情を浮かべていた。
「それで。ヒントは?」
「今のがヒントよ~。人間がなんで強いか、分かったかしらぁ?」
「いまのが……ヒント?」
「えぇ、そうよ~」
「うーーーーーーん…………」
娘は抱き上げられながらも、思考してみた。
出口のない迷路のように、答えのない問題を解いている時のように、何も分からない。
「ゆっくり考えていけばいいのよ~。今答えを出す必要はないわぁ」
「むぅ。でもきになる。ごきょうじゅねがう。」
「だめよ~」
「けち。」
◆◆◆◆◆
「……今ならわかる。気がする。」
人間の強さ。人間の美しさ。
母上の言っていたことがなんとなく理解できた。気がする。
「エル……」
……ベルはなぜ。エルの名前を呼んだ……?
…………分からない。
「でも……」
なんだか。心がぽかぽか。気持ちいい。
なぜかは分からないけど。この時間を大切にしたい。
そう思った。
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