第32話 楽しい時間
「そこっ!」
「甘い。そっちががら空き。」
「あっ、しまっ」
──────テレレテッテレー
「キュキュキュキュッキュキュー!」
「くっそぉ……負けたー!」
「ベルに勝とうなんて一億万年早い。」
「ベル! 次は私! 私とやろ!」
「いいよ。ベルの実力を見せてあげる。」
自由になった俺たちはメアリスが気になったという遊戯施設で心ゆくまで遊んでいた。
魔力で作られた『パック』というものを相手のゴールに弾く遊びだ。
『ホッケー』というらしい。
「奥義。ミラクルウルトラハイパーサディスティックショット。」
「なっ!? そ、そんな技が!?」
なんだかよく分からないことを言っているが、楽しそうなので良しとする。
というか、ベルは精霊族なので運動は苦手だと思っていたのだけど……俺たちの中で『ホッケー』のうまさは一番かもしれない。
「くうぅぅ!! もう一回!」
「もちろん。ベルはいつでも挑戦を受け付ける。」
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「あー! 楽しかったぁ!」
「楽しかった。また行きたい。」
「ここから出る前にまた来ような。」
「「うん!(うん。)」」
遊んでテンションMAXな俺たちが次に向かったのは……
「エル。ベルはあれが気になる。」
「ん?」
ベルの指の先にあるのは……紅蜜飴の屋台だ。
※紅蜜は日本で言うリンゴ
「紅蜜飴か……ちょうどお腹も空いたし買ってみるか!」
「流石エル。センス良い。」
「くんくん……甘い匂いがする! エル! 早く行こー!!」
「おっと、そんなに急がなくても紅蜜飴は逃げないぞ」
キラキラした顔のメアリスに引っ張られ、紅蜜飴の屋台のおっちゃんと目が合う。
「お、兄妹かな? うちの甘~い紅蜜飴、食べていくかい?」
「食べる!」
「ベルも早く食べたい。」
「それじゃあ三つ……いや、四つお願いします」
「はいよ! 落とさないよう気をつけな」
おっちゃんから紅蜜飴を受け取り、それぞれに渡す。
「これはアナの分だ」
「キュ!」
アナは俺の差し出した紅蜜飴の串を手に持ち、ベルの頭でガジガジとかじっていた。
「小さい身体の割に力があるんだな」
「うん。アナは神獣だから」
「……へ?」
「アナはベルが幼い頃から一緒にいた神獣。ねー。」
「キュー」
こんなに愛くるしい見た目なのに……神獣!?
なんだかあっさりととんでもないことを聞いてしまったような……!?
「キュー」
「小僧。今失礼なこと考えたな。だって。」
「そんな短い鳴き声にそこまでの意味が!?」
「というか、アナが本当に神獣なら私たちが守る必要なかったんじゃない? 私の読んだ絵本の神獣さんはとっても強かったよ?」
「キュ……」
「あの時は魔族に追跡されないために力を封印してた。だから守ってくれてありがとう。」
「キュン!」
「話は変わるが、魔族といえば、まだなんで魔族に捕まったのか聞いてなかったな」
「エルとメアリスになら後で教える。今はエンジョイ。」
「それに賛成! ほらほら、このおっきなキャンディ、すっごく甘くて美味しいよ!」
「どれどれ…………!! これはいけるな!」
「美味。」
俺たちはその後もスペリラの探索を楽しんだ。
俺とメアリスにとっては珍しいものばかりで、見る度に興奮した。
最高の一日だった。
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「あー楽しかった! 疲れたし、ベッドにだーいぶ!」
「ふわぁ……。ベルも少し疲れた。」
「明日もあるし、夜ごはんを食べたらすぐに寝ような」
観光を満喫し疲れ果てた俺たちは、スペリラの宿をとって休憩していた。
流石にはしゃぎすぎたな……
「……!」
「……エル。」
「ん? どうした?」
「誰かが見てた。」
「誰かが見てた……? どういうことだ?」
「多分騎士団の差し金。ベルたちは危険人物だから監視がついてるかも。」
「危険人物……」
俺はケイン、ミレーとの決闘を振り返る。
メアリスはスプーン一つでケインを一撃。
鎧、壁にも損傷あり。
ベルは見たことの無い魔法を駆使してミレーになにもさせずに倒した。
騎士としてのプライドはズタズタだろう。
…………確かに危険人物だ。
だが、騎士はプライドが高いと同時に気高い精神を持っている。
一度決闘で正式に釈放された俺たちを騎士たちが監視するだろうか?
二人の化け物じみた強さを見たら無理はない…………のかな?
「なんか全部私たちのせいにしてそうな顔だけど、エルも大概だよ?」
「え?」
「一般人が騎士団長を圧倒している時点でおかしい。外に出るのが少ないベルでも分かる。」
「うっ……言われてみれば……」
「監視されてても悪いことしなければいいんじゃない? 私が殺してもいいんだけど……」
「それは絶対にダメだからな?」
メアリスはちょくちょく物騒な発想に至るのでやめてほしい。
俺が許可すればメアリスは本当にそいつを殺してしまいそうだ。
「メアリス。脳筋?」
「のっ、脳筋っ……!?」
ベルの言葉にショックを受けたのか、メアリスはベッドの上で崩れ落ちる。
「殺すのはだめ。だよね?」
「あぁ、ベルの言う通りだ。メアリスはすぐに殺すとかそういう発想に至るのはやめてくれ」
「うぅ……分かったよ……」
「偉い。偉い。」
ベルがそう言いながらメアリスの頭をぽんぽんと叩く。
メアリスは悪い気分ではないらしくされるがままにしている。
「今は監視については放っておこう。なにか仕掛けてくるようならその時はその時だ」
「私たちに喧嘩を売るような馬鹿はころ……ボコボコにしてやるんだから!」
「原初の種だからと威張るつもりはない。でも。降りかかる火の粉は払うだけ。」
◇◇◇◇◇
雲で隠れた月の下……黒より黒い何者かがエルたちの様子を監視いた。
「いやぁ、困りましたねぇ。まさか気づかれるとは……」
遠くの方から双眼鏡で覗いていたはずなのに……あの二人の少女はこちらに気づいたように見えました。
魔法でなければ警戒されないと思っていましたが……まだ詰めが甘かったようですね。
「一人は原初の種なので納得ですが……あの少女は何者なのでしょうか?」
……今は情報が少ない。
考えても仕方ありませんね。
「今は報告に向かうとしましょう」
何者かは夜の闇に溶けていくようにどろりとその姿を消した。
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