第31話 感情豊か
半ば強引に無罪放免の権利を得た俺たちは騎士団長の許しを得てスペリラを散策する。
ケインとミレーには必死に謝ったが、この世界は実力至上主義。
あっさりと許された。
剣を交えて……いや、あの精霊族の少女に関しては交えてすらいないが…………とにかく、善人だということが分かったので許されたのだ。
ようやくのんびりスペリラを回れるな……
「……ところで……なんで着いてきてるんだ?」
「……ん? ベルのこと?」
「そうだ。森に帰らなくてもいいのか?」
「ベルはまだあなたたちに恩を返してない。」
「恩って、私たちがあなたを助けたことの?」
「そう。あと。ベルはあなたじゃなくてベル。名乗るのが遅れた。ごめん。」
「いや、それはいいんだけど……ベルはこれからどうするんだ?」
「んー……。」
ベルは一度立ち止まり、身体をくねくねさせる。
一体なにをしているのだろうか……?
しばらくしてこちらを向いて口を開く。
「……あなたとあなたは契約してる?」
「あなたとあなたって……あ、私はメアリス。そういえば私たちも名乗ってなかったね」
「俺はエルだ。確かに俺たちは契約してるな」
「なるほど。……なら、ベルとも契約して。」
「いや……でも俺は契約魔法は使えないぞ?」
「ベルが教えるから問題ない。」
「……家とかはないのか?」
「あるけどベルはもう独り立ちした。」
「メアリスと同じくらいなのにもう……!?」
「人間とは違う種族だから常識が違うのは当たり前。」
「でも、魔族に捕まってたよね」
「痛いところをつかれた。」
全くそんなことを思っていないようにベルは無表情だ。
しかし……精霊族であるベルと契約できればものすごく心強いけど……そもそも人間である俺が精霊族と契約なんてできるのか……?
「でもベルはエルたちについて行くと決めた。」
「……そんな簡単に人間を信用してもいいのか?」
なぜ俺がこんなことを聞くのか。
実は大昔、精霊族は人間と交流があったのだ。
しかし、人間は精霊族の住処である森や自然を破壊してしまった。
精霊族も開拓のためと理解していたが、人間は必要以上に自然を破壊し、精霊族の忠告も無視した。
精霊族はそんな人間を見限り、どこかへ去っていったのだ。
「うん。だって。エルたちは優しい。」
「なんでそんなことが言えるんだ?」
「……もしかして。ベルと契約するのいや?」
「あ、いや、そうじゃなくて……」
ここまで常に無表情を保っていたベルだが、少しだけ目を潤ませてこちらを見つめる。
「あー! エルがベル泣かしたー! いけないんだー!」
「ちょ、メアリス、そんなつもりじゃ……」
「う……うぅ……」
「べ、ベル、ごめんな。契約するのが嫌とかじゃなくて……ベルが心配だから言っているんだ」
「心配?」
ベルは無表情で頭をコテンと傾けてこちらを見る。
「そんな簡単に人を信用したら危険な目に合うかもしれない、ということを言いたかったんだ。勘違いさせてごめんな」
「……ベルはエルたちをずっと見ていた。」
「え?」
「アナを通じて。エルたちの行動は筒抜け。」
「キュウ!」
「り、リス(?)!?」
ベルの方を振り返ると手のひらの上であのメルヘンなリス(?)が胸を張っていた。
「ベルが魔族に捕まっている間。アナを通じてずーーーーーーーーーっと見ていた。近道と言って森に入った時から。」
「確かに最初にあったのは初日の夜だったな……」
「最初は気づかれて焦った。けど。エルはアナを捕まえるようなことはせずに優しく撫でて逃がした。」
「まぁ……そうだな」
「ベルが知っている人間なら。アナほど珍しい獣を見逃したりはしない。」
「もちろん、エルは特別だからね!」
「なんでメアリスが誇るんだ……?」
メアリスはとても機嫌が良さそうに鼻歌まで歌って歩いていく。
なぜメアリスがそんなに誇っているのかは分からないが……ベルがなぜ俺たちを信用しているのかは分かった。
確かにラフレシャーラや他の魔物に襲われた時には俺たちはまずリス(?)の安全を第一に考えた。
冒険者になったのは力を持たない人を守るためでもあるしな。
……人ではないが。
「作戦会議の時も。まずベルの身の安全を一番に考えてた。そもそも魔族が関わっているような事件に自分から突っ込んでくる時点で。エルたちは普通じゃない。いい意味で。」
「だよねー、エルは普通じゃないよねー」
「メアリスも含まれてたぞ」
「あ……確かに……」
そんなメアリスのはっとした顔が面白くて、つい笑ってしまう。
メアリスもそんな俺を見て笑う。
ベルはそんな俺たちを無表情で眺める。
「やっぱり。エルたちは面白い。」
「とてもそう思ってるようには見えないんだけど……?」
「ベルはエルたちについていきたい。だめ?」
「もちろんだ! ……と言いたいが、その前にひとつ聞かないといけないことがある」
「なに?」
「まず、俺たちは冒険者なんだ。冒険者っていうのは死と隣り合わせの危険なもので、あっけないことであっさりと死んでしまうかもしれない」
「危険?」
「あぁ、危険だ。それでもベルは俺たちの仲間になってくれるか?」
「なる。」
ベルは考える素振りも見せずにしっかりと頷く。
無表情のままだが、その目には確固たる決意が宿っていた。
「魔族に捕まったまま助けられなかったらベルは死んでいたかも。でもそれをエルたちに救われた。それだけでついていく理由になる。」
「……ありがとう、ベル」
「? ありがとうはベルが言うべき言葉。なのになんで?」
「ベルが仲間になってくれて嬉しいからだよ」
「……。」
ベルは表情ひとつ変えずにこちらを見つめる。
……でも、よく見たら嬉しそうな感じが……するような?
「やったー! 新しい仲間だー!」
「わっ。」
メアリスがベルに飛びつき、ニコニコした顔でベルの手を引っ張る。
「せっかく街に来たんだし、たくさん遊ぼー! エル、早くー!!」
「分かった分かった、たくさん遊ぼう!」
「……楽しい。」
色々大変なことがあったが、ようやく一息つけた。
新しい仲間、ベルと共にする冒険者……すごく楽しみだ!
俺は走るメアリスについていき、引っ張られているベルの口角は上がる。
さぁ……思い切り遊ぶぞー!!!
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