第30話 無罪のための戦い・2
「次はそこの黄色の女、来い」
「え? 私も?」
「当たり前だろう、来い」
「えぇー……大丈夫? あなたじゃあ弱すぎて相手にならないよ?」
「なんだと……?」
ケインがこめかみをピクつかせてメアリスを睨む。
なんとかフォローを入れたいが……メアリスの言っていることが正しいので難しい。
メアリスならば騎士団長など瞬殺だろうしな。
「あ! 騎士団全員でってのはどう? それでも余裕だけど」
「世迷言を……」
「いや……正直、ケインさんではメアリスに勝ち目ひとつないかと。俺でもメアリスに勝つことは不可能に近いです」
このままではケインが死んでしまいかねないので、はっきりと言う。
それに今は俺との戦いで消耗している。
だが、たとえ万全な状態だとしても勝ち目は万にひとつもないだろう。
「む……しかし、剣を交えねば心の内が分からない」
「なら、これで戦うよ」
メアリスはおもむろにスプーンを取り出した。
「私が使うのはこれだけ。これなら死ぬ心配はないしね。エルが心配してるのはそこでしょ?」
「まぁ……それなら」
「それならちゃっちゃとやろ!」
ケインは不満そうにしていたが、メアリスが無理やり戦いを始める方向に持っていった。
女騎士もすごく不服そうな顔をしている。
「スプーンなどで……」
「それでは……始めっ!」
女騎士はそんな顔をしつつも、合図をする。
「悪いけど、すぐケリつけるよ。」
「は、速いっ!?」
メアリスが地面を蹴った瞬間、ケインの目の前にたどり着く。
メアリスはそのままスプーンを振りかぶる。
……?
急に動きを緩めたように見えたな。
その隙にケインは剣を振り、スプーンを防ごうとする。
「あーあ、おばかさんだね」
「!?」
スプーンに激突した剣は弾き飛ばされ、後方の壁に突き刺さる。
メアリスは動揺したケインの腹部に向けてスプーンを思い切り振る。
「メアリス、まっ……」
「おりゃあっ!!」
「かはっ」
ケインは声にならない声をあげ、紙のように吹き飛ばされる。
鎧は凹んで壁に激突し、ヒビがはいってしまった。
「……え? これでお終いなの? 流石によわ……」
「メアリス、ストップだ」
流石にこんなに幼そうな少女に弱いなんて言われたら、ケインが立ち直れなくなってしまう。
「は……あ……?」
女騎士は何が起こったか分からない様子で棒立ちだ。
騎士団長がかわいらしい少女に吹き飛ばされ、気絶していればそうなるだろう。
「あの……大丈夫ですか?」
普通にケインが心配なので駆け寄るが、起きる気配がない。
まさか……ころ……いや、そんなことになったら……
「ヒール。」
精霊族の女の子がケインに手をかざして回復魔法を唱える。
すると、ケインははっとしたようにガバッと起き上がる。
「はっ!? ……何が起こった……?」
「あの子があなたをぶっ飛ばした。」
女の子がはっきりと言うとメアリスはビクンと震えた。
流石にまずいと思ったのか、俺の服にしがみつき、後ろからちょびっと顔を出していた。
「あの……大丈夫? ここまでやるつもりはなかったんだけど……あなたが思ったよりもよわんぐっ」
俺はメアリスから出る爆弾発言を防ぐために手で口を塞ぐ。
弱い、なんて言われたらこの人は騎士を辞めてしまいそうだ……ただでさえ圧倒的な力の差を見せつけられたのに。
「次。ベルの番?」
「そ、そうだが……この体力では厳しいな……」
「それならば、私がやりましょう。」
「えっ……!?」
この惨状を見て自ら立候補を……?
Mなのだろうか……?
「ん。誰でもいい。すぐに終わる。」
「あなたといい、あの少女といい、騎士を舐めたその態度……副団長、ミレーの名にかけてあなたを断罪します」
「……ベルはなにもしてないけど……いいよ。」
「そこの冒険者、審判をやってください」
「あ、はい」
精霊族の戦いは見たことはないが……一体どうなるのだろうか。
精霊族は確かに原初の種の一種であるが……精霊族はとにかく魔法に特化した種族であり、近接戦闘は極端に弱いという特徴があるらしい。
近接戦闘の得意な騎士相手で大丈夫だろうか……
「それでは……始めっ!」
「いきますよ!」
合図をした瞬間、ミレーがまっすぐ精霊族の女の子に向かって走り出す。
女の子はただただ棒立ちしている。
「せっかくの戦いだから楽しむ。」
「戯言を……くらいなさい!」
ミレーが流れるような動きで素早い斬撃を繰り出す。
女の子は以前棒立ちのまま……
「当たってないね。ぷぷ。」
「な、なぁ!?」
ミレーは剣を振り続けるが、剣は女の子をすり抜けているように手応えがないようだ。
いや、実際に当たっていない。
「今度はこっちの番。」
女の子がその場で足をダンッと地面を踏み鳴らす。
「きゃああああ!?」
「フレス。」
すると地面が盛り上がり、ミレーは空に打ち上げられた。
打ち上げられたミレーを追うように女の子は飛行魔法を使う。
「たまやー。」
「……ひっ!?」
女の子がそう紡ぐと、どこからか大量の花火が打ち上げられる。
花火はミレーの身体を焼いて、鼓膜を破り……結構恐ろしい攻撃だ。
しかも今は空に打ち上げられており、無抵抗な状態だ。
ミレーは花火に焼かれながら地面に落下していき、そのまま激突して終了……と思いきや
「危ない。」
「ひゃあっ!?」
地面に白いなにかが出現し、それに着地したミレーはそれに沈み込む。
それによって着地の衝撃は吸収されたようだ。
「閉じ込めて。」
「!? や、やめっ」
白いなにかは形を変えてミレーを包み込んでいき……やがて、飲み込んでしまった。
女の子はそれの上にふわりと着地した。
「降参しないとその中でずっと花火を炸裂させ続ける。どうする?」
「こ、この私が降参などするわけないでしょう……!」
「3、2、1……」
「ひゃあぁぁぁ!! すいません! すいません! やめてください!」
「あなたの負け?」
「は……はい……」
「ん。なら解放する。」
女の子が指をパチンと鳴らすと白いなにかは地面に溶けるように消えていき、ミレーが出てきた。
「これでベルも無罪。わーい。」
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