第29話 無罪のための戦い・1
「なっ……!?」
戦って無罪を証明する……確かに戦うことによって気持ちが分からなくとも、相手がその戦いの中でどのような信念を持っているかなどは大体分かる。
一番手っ取り早い方法ではあるのだけど……
「ベルはそもそも取り調べなんてめんどう。やりたくない。騎士のあなたたちなら戦えばベルの気持ちがわかるはず。」
「それはそうだが……」
騎士団は国によって作られた組織であるため、頭が堅い。
”戦って大丈夫そうなのでこの人たちは無罪でーす!”とは言いにくい。
「私は賛成。あなたたちはどうせ私たちの言葉なんて信用してくれないしね。実力行使っていうなら手っ取り早いね」
しかし、この状況はいわば異常事態。
ここには原初の種の精霊族とそれに匹敵する実力を持つメアリスがいる。
先のモンスター襲撃でメアリスの強さは騎士団長も目にしていただろうし、こうなるといくら騎士団といえど強く言うことは難しいのだろう。
「……いいだろう、その挑戦受けるとしよう」
「ほ、本気ですか!?」
「あぁ、本気だ。そもそも原初の種を相手に取り調べをしようとしている時点で意味が分からない。拘束も無駄だ。逃げられるよりはここで戦った方がいいだろう」
……この団長と呼ばれる男……実力もさながら頭も切れている。
騎士団を実力で排除され、逃げられれば大掛かりな討伐隊を組まねばならないだろう。
そんな危険な者を放置するわけにもいかないが、取り調べをも拒む。
俺の罪は魔法障壁を破壊したこと、それによって魔物の襲撃を許したこと。
結果的に被害はゼロ、魔法障壁も貼り直された。
これをしたのが全て人間であったならば、騎士団も罪人に然るべき罰を与えるだけで終わりだ。
しかし、それを原初の種と魔物襲撃の被害をゼロで済ませた正体不明の少女が取り調べを拒むとなれば話は別。
歴史上原初の種を裁くなんてことはないし、そんなことをすれば精霊族自体を敵に回すかもしれない。
そんなほぼ詰みような状況で、戦って相手の邪気を図るというベストな選択をとることができる者はそういないだろう。
本当は口で弁明したかったのだけど……もう俺には止められそうにない。
女の子の共有した記憶の中にそれがあることを祈ろう……。
「それじゃあ。外に行こう。」
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まずは俺と騎士団長の戦いらしい。
いや……俺は普通に取り調べでよかったんだけど……。
「俺は騎士団長をしているケイン・ストガーだ」
「俺は冒険者、エル・シュラインです」
これは一応ちゃんとした戦いなのでお互いに名乗りをあげる。
「では私が審判をさせていただきます。準備はよろしいですね? ……始めっ!!」
ここまで来たらやるしかないか。
騎士団では昔の取り調べで実際に戦い、無罪放免されたという記録もあるし……問題ないと割り切ろう。
「はあっ!」
ケインが俺に向かって剣を振る。
……遅いな。
メアリスとの契約のおかげか、鍛え抜かれた騎士団長の攻撃でさえスローに見える。
俺は余裕をもって回避し、一度距離をとる。
「アイスショット!」
俺は魔法を素早く詠唱し、氷柱を出現させる。
初級魔法とは思えぬ大きな氷柱がケインに向かって飛んでいく。
「なっ……!? ただの冒険者がこんな……!」
「見くびってると痛い目見ますよ」
「なっ!?」
俺は魔法を撃ちながらケインに接近して短剣を素早く振る。
ケインはギリギリで短剣を剣で受け止めるが、俺は肘に目掛けて蹴りを入れる。
蹴りを入れた後にちょうど魔法が来るよう計算していたので、また距離をとる。
「ぐっ」
鎧は動かすために関節部分がない、というのは有名な話だ。
騎士相手ならそこを狙えばいい。
アクスから習った通りだな。
ケインは肘を蹴られた痛みで動きが鈍り、魔法が腕を掠る。
「くそっ……中々やるな」
「ありがとうございます。まだやりますか?」
「まだだ……これほど強い者と戦える機会は珍しい。……いくぞっ!」
ケインは剣を薙ぐように振る……いや……
「フェイントだな」
俺の腹部あたりを狙った斬撃のように見えるが、狙っているのは……首。
騎士団のこの方法での取り調べでは普通に殺しにくるらしいので、それを警戒していたが……やっぱり来た。
俺はしゃがむことによって避け、次に来る振り下ろされる剣は短剣で受止める。
俺はカウンターで膝に蹴りを入れ、ケインをよろけさせる。
「がっ!」
「これで終わりですね」
俺は短剣をケインの首に突きつけてそう言った。
あちらはこちらを殺す気らしいが、俺はそんな気は微塵もない。
ただ、誠意を見せる戦いなので手は抜かなかった。
そしてこの騎士団長……アクスよりも全然弱い。
正直楽勝だ。
メアリスと契約する前でも負けてはなかっただろう。
「や、止めっ!」
女騎士は驚いていたが、しっかりと終わりの合図を叫ぶ。
そりゃあ、一般冒険者が騎士団長をボコボコにしていたら驚くだろう。
「……とどめは刺さないのか?」
「そんなことをしたら罪に罪を重ねるだけになるじゃないですか。……そもそも俺は普通に罰を受けるつもりだったんですよ」
「ならば、今からでも素直に受けるか?」
「ははっ……こうなってからだとちょっと勘弁ですね」
俺は短剣を降ろしてケインと握手をする。
「貴様が悪いやつでないことは理解した。今回は無罪放免としてやろう」
「……! ありがとうございます!」
俺は無罪放免の切符を手に入れ、この戦いは幕を閉じた。
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