第28話 救いの手
騎士団長がこちらに走り寄り、剣の切っ先を向ける。
「本当にすいません、俺が魔法障壁を壊したせいで魔物の襲撃を許してしまって……謝って済む話では無いですよね……」
「その通りだ。貴様らの尽力で怪我人一人出なかったとはいえ、この罪は重いぞ。ついてこい」
俺たちは騎士に連れられて冒険者ギルドに向かう。
「待って。」
俺が拘束しようとしている騎士に自ら手を差し出そうという時にその声は響いた。
「その人たちはベルを助けようとしてくれた人。罪ならベルが被るから離して。」
声のする方を見ると、魔族から助けた女の子が……ある程度の魔力がなければブローチから自力で出ることはできないと聞いていたんだけど……
突然現れた女の子に騎士たちとは動揺するが、騎士団長は動揺を出さずに女の子に鋭い視線を向ける。
「そのようなことがまかり通ると思っているのか? 貴様も仲間だな、拘束しろ」
「魔法障壁ならベルが貼り直す。」
「……なに?」
突然女の子が光に包まれ、その姿が隠される。
光が晴れると、女の子の背中には光の羽が出現していた。
「その羽……まさか、精霊族!?」
「せ、精霊族だと……!?」
「こんな少女が本当に……!?」
今回は騎士団長ですら動揺を隠せない。
それも無理はない。
精霊族は原初の種と呼ばれる古代から存在する特別な種の内一種であり、人前に現れることなど滅多にないのだ。
「事情はベルが全て説明する。その前に魔法障壁を貼り直させて。」
「……承知した」
流石に原初の種にそんなことを言われれば騎士も剣を降ろさざるを得ない。
それ程に原初の種という存在は特別なのだ。
「我が敵、我が身を隔てるがいい。ディスペルウォール・チェイン・フィズィクスウォール。」
女の子が詠唱すると、精霊族の固有能力、連鎖魔法を用いた強力な魔法障壁が街全体を包んでいく。
ほんの数十秒で街全体が完全に魔法障壁に包まれた。
「これで終わ……り……」
「だ、大丈夫か!?」
精霊族の女の子は魔力を使い果たしたのか、力が抜けたように倒れてしまった。
俺は慌てて倒れる女の子を支える。
「うぅ……疲れた……。」
「魔力不足が原因か……? 早く治癒院に連れていかないと……!」
「精霊族の少女を治癒院に連れて行け。 迅速に!」
「「はっ!」」
団長が騎士に指示を素早く指示を出し、騎士が動き出す。
「その少女を渡せ」
「……手荒く扱わないでくれよ」
俺は騎士の命令に従って女の子を騎士に預ける。
二人の騎士は女の子を抱えて治癒院に走っていった。
「……さて、あの精霊族が起きるまで貴様らは拘束させてもらう。いいな?」
「……はい」
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俺たちは団長とやらに連れられて、拘置所のようなところに入れられた。
あの精霊族の彼女のおかげで助かった……。
本来なら、即刻打首。
それほどスペリラの魔法障壁は重要だったのだ。
スペリラの魔法障壁は、大昔に精霊族とたくさんの魔法使いが協力して作ったらしい。
それ故その結界はここ数百年破壊されることはなかった。
なので、それ以外の防衛策はほとんど無いのだ。
「……あの精霊族? の女の子私たちを助けてくれたのかな」
「多分、そうだと思う」
「でも、なんで気絶して、しかも魔族に捕まっていたのに自分の状況が理解できていたんだろう」
「……精霊族なら、それができる魔法が扱えてもおかしくはない」
精霊族は原初の種の中で最も高い魔力を保有している魔法のエキスパートだ。
精霊族にしか使えない魔法もあると言われている。
……ただ、気がかりなのは……
「……俺とザックが余裕で倒せる程度の魔族に、なんで原初の種である彼女が捕まっていたんだろう」
「そうだよね。エルもザックも強いけど、きっとあの子はもっと強いよね。私と同じくらいかも」
「そう考えるとあんな魔族に捕まるのはおかしいな。なにか特別な理由があったのか…………」
「……なんにせよ、今のままじゃ何も分からないね。やっぱり、直接あの子から聞かないと」
「そうだな。今は待つしかない」
彼女が起きるまではメアリスと楽しく雑談したり、仮眠をとったりした。
そして一日後──────
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──────ドンドンドン!
「おい! 起きろ!」
硬いドアをドンドンと叩く音と騎士の怒声が耳に響き、朝を迎えた。
イレニアにいた時と違い、穏やかな朝ではない。
「んん……はい……」
「十分後にあの精霊族との取り調べを行う。その時に迎えにくるから準備をしておけ」
それだけ伝えると、騎士が俺たちの部屋から離れていく足音が聞こえた。
「メアリス……起きてくれ」
「んぅ……? もうあさ?」
「あぁ、朝だ。十分後にあの女の子と取り調べをするらしいから頭を整理しておいてほしい」
「うん……分かった」
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──────ガチャン!
「さぁ、行くぞ。ついてこい」
「はい、分かりました」
しばらく歩いていると……精霊族の女の子を連れた騎士と鉢合わせた。
「入れ」
俺たちは半ば強引に部屋に入れられ、椅子に座らされた。
部屋の中には騎士団長に、それに引けをとらない実力を持っているであろう女騎士がいた。
「早速だが、取り調べを開始する」
その一言で一気に部屋の空気がピリつき、少し怖くなってしまった。
なにしろこのようなことは初めてなのだ。
騎士に迫られれば誰でも怖いものだろう。
「それをする必要はない。」
精霊族の女の子が立ち上がり、魔法を唱える。
「おい、勝手に……」
「メモリーズシェア。」
騎士団長の動きは素早かったが、女の子が魔法を唱える方が早かった。
魔法を唱えたのが人間であったならば、魔法を発動させる素振りを見せただけでアウトだ。
しかし、精霊族の詠唱速度は人間とは比較にならない。
「うっ……」
頭に電流が走り、自分のものとは異なる記憶が脳に流れてくる。
「い、今のは……」
「一部の記憶を共有する魔法。これで取り調べはいらない。」
「ふむ……なるほど……。にわかには信じ難いが、精霊族ならば可能なのだろう」
「実際に容疑者たちの記憶が流れてきましたね」
団長たちは頭を抱える。
それにしても、状況把握が早いな…………
普通、いきなり他人の記憶が頭の中に流れてきたら混乱してまともに話せないだろう。
というか、普通そんなことは起こらない。
そのはずなのに騎士たちは至極冷静で…………相当訓練されているのだろう。
俺もこれほどの冷静さを身につけたいものだ。
「しかし……どう報告すればよいでしょうか……魔族が出没したと民衆の耳に入れば……」
「……待て。貴様がなぜ魔族に捕まっていたのか、それに関する記憶がないぞ。どういうことだ」
「それは内緒。ベルはなんでも話すお人形じゃない。」
「しかし、このままでは貴様らを解放することは出来ない」
女の子は無表情のまま、その姿勢のまま硬直する。
「……あなたたちは騎士?」
「なにを……当たり前だろう」
「それなら。ベルはあなたたちと戦って無罪を証明する。」
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