第27話 一番大切な絆
「何事だっ!?」
「団長、どうやら魔物が襲撃してきた模様です!!」
「襲撃……!? 貴様らの仕業かっ!?」
団長と呼ばれた男が剣の切っ先を首に突き立ててこちらを睨む。
「ち、違います! 魔法障壁を破ったのは俺ですが、魔物を呼び寄せてはいません!!」
「本当か? 嘘ならばその首、今すぐ刎ねる」
「嘘はついていません!」
男は俺の目を覗き込むようにじっと凝視する。
ここで目を逸らすことはいけない気がして、俺も男を見つめ返す。
メアリスが怒りのあまりとんでもない圧を発しているので早くなんとかしてほしい。
「……ふむ、嘘はついていないようだな。今は貴様を信じてやろう。総員、住民の保護を最優先に魔物を殲滅せよ!」
「は、はっ!!」
メアリスの圧に脅えていたものたちも男の指示で吹き飛ばされたのか、騎士団たちは治療院を走り去って魔物との戦いに向かっていった。
ここに残っていた魔法使いと治癒術師も治療院の外に出ていく。
「貴様らは冒険者ギルドに騎士団支部に連行する、大人しくしていろ」
「あなた、ふざけないでよっ!!」
メアリスが怒りに声を荒らげ、拘束を無理やり引きちぎった。
「もう我慢できない! エル、この街のみんなを助けに行こう!」
「……そうだな、それに賛成だ」
メアリスは俺のロープを無理やり引きちぎり、身体を自由にした。
「この状況で仕事を増やしおって……逃がさんぞ」
「あなた、本当にばかだね!! 住民の保護が最優先なんでしょ!? なら、早く助けにいかなきゃ!!」
「その間に逃げるつもりだろう、先程貴様を信用したのは間違いだったな」
男は鞘から剣を抜き、構える。
「悪いけど、あなたの相手をしている暇はないの。エル、掴まって!」
「わかった!」
俺がメアリスの手を掴むとメアリスは女の子をブローチに収納し、俺の手をしっかりと掴み返した。
騎士団は突然女の子が消えたことに動揺していたが、すぐにその表情を消して構える。
だが、メアリスの言う通り騎士の相手をしている暇はない。
早くスペリラの住民たちを助けないと……!
俺が焦っている間に、メアリスは薔薇の魔法陣を地面に生成した。
「せぇ……のおっ!!」
メアリスが薔薇の描かれた魔法陣を踏み台にして、蹴る。
まるで砲弾のように駆けるメアリスは男の横を素通りしていき、スペリラに出る。
辺りを見回すと、街が魔物で溢れているのが分かる。
「早く助けにいこう!」
「そうだな、急がないと!」
「みんな、出てきてっ!!」
メアリスがブローチから作品たち全員を出し、素早く指示を飛ばす。
「事情は後で話すけど、人間が魔物に襲われてるの! 助けてあげて! 危険になったらすぐにブローチに戻ること!」
「「「合点承知之助!!」」」
合点承知之助……作品たちの中で流行っているのか…………?
いや、今はそんなこと考えている場合ではない!
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「あはは、弱いね君たち。」
「ザック、口より手を動かして!」
「硝子よ、貫け!」
「人間だって良い奴はいるんだ、許さねぇぞ魔物ども!」
「オイ……シイ…………」
作品たちが獅子奮迅の活躍を見せ、魔物たちはどんどん数を減らしていく。
力を見られたらまずいとか、そんなことを考えていたら死人が出る。
ザックやカレット、アンドリューなどの強い作品は魔物をちぎっては投げ、ちぎっては投げ、凄いスピードで魔物を魔石に変えていく。
なんだか恐ろしいことをしている作品もいるが……まぁ、相手は人間を襲おうとしている魔物だ。
問題ないだろう。
「ドロウ・インテリア!」
メアリスは固有魔術で作りだした家具を相手に投げつけることによって、魔物を倒していく。
パレットナイフやフォークでは範囲が広すぎて人間や味方を巻き込んでしまうからだ。
「ブリザードバレット!」
俺も氷の魔法で魔物の身体を貫いて絶命させていく。
だが、魔物はまだ残っている。
このペースでも、じきに犠牲者が出るかもしれない。
「ファイアーボール!」
「ウォーターガン!」
スペリラの魔法使いたちも魔物を迎撃しているが、それでも間に合わない……どうすれば……
「ザック、カレット、あれやるよ!」
「分かった!」
「あはは、いいよ。やろうか」
メアリス、カレット、ザックはそれぞれ黄、赤、青のバラが刻まれた大きな魔法陣を作り出した。
「「「我らの芸術、我らの大切な存在を守るために、我が魂を糧にせよ。故に開花しろ! 題『世界で一番大切な薔薇園』!!」」」
三人がそう力ある言葉を紡げば、魔法陣から大量の魔力の粒子浮かび出していく。
やがてそれは魔物たちに集まっていき、美しく巨大な薔薇が次々と顕現する。
顕現した薔薇は魔物たちだけを吸い込んでいき、散華した。
「人間のことは気に入らないけど……エルみたいな人間だっているし、守らないとね!」
跋扈していた魔物は全て薔薇に吸い込まれ、魔石と化す。
それを目にした人たちは驚きのあまり気絶している者もいた。
俺も気絶するほど驚いた。
この状況で敵味方を認識して敵だけに広範囲の魔法を当てる。
それだけでも凄いのに、三人が使ったのは長い詠唱を必要とする大魔法。
更にその大魔法で敵を全滅させたのだ。
「凄いなんてもんじゃない……」
「どうどう? 私たち凄いでしょ?」
「あぁ……凄すぎて言葉が出ないよ」
「あはは、ありがとう」
「私たちならこの程度余裕だよ!」
魔物を殲滅し、作品たちを集めていると……
「げ、さっきの騎士だよエル……どうする?」
「勝手に逃げたし、罪が重くなったかもしれない……でも、俺のやったことはいけないことなんだ。きちんと罰は受けるよ。メアリスたちも巻き込んでしまってごめん……メアリスたちは早くここから離れて……」
「そんなことできるわけないでしょ。私はエルを見捨てるようなことはしない」
「メアリス、でも……」
「私を家族を見捨てる愚か者に堕とす気?」
「っ」
メアリスの気持ちもとても嬉しい……でも、それ以上に家族と呼ばれたことが嬉しい……そんなことを言ってくれた人、アクス以外に初めてだ……いや、人ではないのか?
「私はまだエルに恩を返せてないからエルについていく。エルが罰を受けるなら私も受ける。簡単でしょ?」
「……ありがとう、メアリス……」
「……もう、エルは泣き虫だね」
メアリスが俺の背中に手を回し、背中をぽんぽんと叩く。
メアリスの気持ちが伝わってくるようで、暖かい……でも、それは長くは続かない。
「やっと見つけたぞ……貴様ら」
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