第25話 笑う絵画
「3、2、1……ゴー!」
俺はそのまま正面から女の子に向かっていく。
誰も邪魔しなければそれでいい。
……と思ったのだけど
『あら、本当にここまで来たのね。悪いけどここからは通行止めよ』
どこからか声が聞こえ、俺は足を止める。
魔法を使っているのか、どこから声が聞こえているのか分からない。
『そういういらない偽善が破滅を招くのよ、死になさい』
「っと」
後ろから殺気を感じたので横に飛ぶ。
先程まで俺がいた場所は黒い腕が貫いていた。
攻撃に気づかずそこで待機していたらやられていただろう。
「まずはこそこそと隠れるのをやめてもらおうか! アイシクルストーム!」
上級魔法、アイシクルストーム。
メアリスとの契約前は魔力不足で使えなかったが、魔力が増えている今なら使える!
広範囲を攻撃できる魔法なので、隠れている敵にはぴったりだ。
メアリスとの契約で強力になった吹き荒れる吹雪が辺りを駆け回っていく。
「ちっ! うざったいわね!」
そう声が響くと、透明な布が剥がれたようにその姿が顕になる。
それによってそいつから隠されていた魔力が放出される。
「まさか……魔族!?」
「あら、バレちゃったわね」
「なんでここに魔族がいるんだ!?」
「そんなの、素直に答えるわけ無いじゃないの! ダークストライク!」
こちらの質問に答えるわけもなく、攻撃を仕掛けてきた。
闇の魔力で覆われた弾丸が超高速で放たれる。
「吹雪の剣・残留!」
俺は氷の魔力をダガーに付与し、避けられるものは避け、できないものは切る。
以前ならば相殺することはできなかっただろうが、今はメアリスと契約した力がある。
「めんどうな人間ね! こうなったら人質を……」
「できると思う? この私がいるのに」
「なっ!?」
魔族が見る先には木の上で女の子を抱えるメアリスが居た。
「エル、私はこの子を安全な場所に避難させるからそいつ抑えておいて!」
「了解だ!」
「あんた、行かせるわけないでしょ! 待ちなさい!!」
「待つのはお前だっ! ブリザードバレット!」
メアリスとの契約によって強化された大量の氷柱の弾丸は凄まじい速度で魔族に向かっていく。
「そんな攻撃、私には当たらないわよ!」
魔族は器用にメアリスを追いながら魔法を避けている。
俺は全力で魔族に向かって疾走し、ダガーを突き立てる。
「ぐっ、それは……!?」
魔法の付与されたダガーを見て魔族は回避行動に専念する。
残っている氷柱を迎撃しながらダガーを身体を反らしたりすることによって躱す。
「邪魔っ!!」
「ぐっ!」
魔族は俺に向かって蹴りを繰り出す。
俺はそれをダガーを盾にして受け止めたが、流石魔族。
防いでもかなりの衝撃がこちらにくる。
「もう、死になさいよ!! 人間風情が! ブラックスネイク!」
魔族の魔法が蛇のように変則的な動きで俺に襲いかかってくる。
魔族はそれで俺を足止めし、メアリスを追いに行く。
「させるかっ! っぐ……」
魔族を追おうとしたが、俺はこの魔法を捌くので精一杯だ。
メアリスは俺より何倍も強いが……女の子を抱えているハンデ付きだ。
なんとか追いかけないと……!
「あはは、そんなに急いでどこに行くんだい?」
「っ!?」
魔族はその声に足を止め、辺りを見回す。
「どこ見てるのさ、僕はここだよ。っと」
男の子が木の上から飛び降り、魔族の前に立ち塞がる。
その男の子は……ザックだ。
「はっ、何かと思えばただのガキじゃないの! どきなさいよ! ダークストライク!」
魔族が先程俺にやったのと同じように闇の弾丸を飛ばす。
「あはは、君、弱いね」
「は?」
ザックは槍の穗を細長くしたようなものをひとつ出現させる。
「千刃鴉」
ザックが力ある言葉を紡ぐと、槍の穗のようなものが弾に向かっていき弾を迎撃していく。
穗が弾を破壊する度に穗の数は際限なく増える。
その全てが弾を破壊していき、どんどん数を増やしていく。
「あはは、これで死んじゃうんじゃない?」
「なっ……!?」
「こ、こんなの反則じゃないか……」
全て迎撃し終えると、魔族の弾丸など比べ物にならないレベルの速度でザックの生み出した穗は魔族に向かっていく。
今の魔族にそれを避けることは叶わず、穗が無慈悲に魔族の身体を貫通していく。
何度も、何度も。
えげつない攻撃だ。
それでいて強力無比。
ザックを見ていて俺は己の無力さを痛感した。
いつか、俺もあんな風に強くなれるのだろうか。
「がっ……あかっ……!」
「ばいばい、弱いひと。あははは!」
「ふざっ……け……」
そう言い残した魔族は灰のように崩れ去り、風で飛ばされていった。
それを見たザックは何事も無かったかのようにため息を一つ吐く。
「ふぅ、僕の仕事は終わりだね」
「ザック! 助かったよ、ありがとう。それにしても……ザック、とんでもない強さだな……」
「あはは、あれくらいは一人で倒せるようにならないとだめだよ?」
「ご、ごめん……」
「いいんだよ、君は人間だ。これから成長していくと思うよ。ははっ」
ニコニコと笑うザックの顔からは想像できないが、とんでもない力を持っている……あの魔族を、たった一つの技を使っただけで倒してしまった。
「ところで、あれは魔族って言ってたけど本当なのかい? 随分弱かったよ。少し苦労することを想定していたんだけどね、あはは」
「どうなんだろう……否定はしていなかったけど、魔族じゃない可能性もあるかもしれない」
「あはは、それはおいおい確認していこうか。とりあえずメアリスのところに向かおう」
「私ならここに居るよ」
木の上から声が聞こえる。
メアリスはいつの間にか木の上にいたのだ。
メアリスはよっと掛け声をあげて先程のザックのように木の上から飛び降りてきた。
「メアリス! 無事でよかった。女の子はどこに?」
「ブローチに入ってもらったの。もっとも、まだ気絶してるけどね」
メアリスがブローチから女の子を出した。
よく見るとあちこち傷だらけで随分衰弱している。
放っておくとまずいかもしれない。
「……これは早く治療しないと……。メアリス、回復魔法を使える作品はいるか?」
「うーん……いないかな……」
「参ったな……こうなったらスペリラに向かうしかない。そこでこの子を治療してもらおう。急がないと危ない。」
「とりあえず僕は戻ってもいいかい?」
「うん、大丈夫。お疲れ様ザック」
「あはは、ありがとう。それじゃあね、エル君」
ザックはブローチに吸い込まれていき、戻っていった。
「さて……ここからどうやってスペリラに向かおうか」
「地図はないの?」
「街道を通ってくるつもりだったから魔法の森の地図はないな。誰か道案内でもいればいいんだが……」
「キュキュ!」
後ろから甲高い声が響く。
その声に驚いて振り返ると、そこにはあのメルヘンなリス(?)が居た。
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