第22話 カレットの想い
メアリスががんばって火をつけてくれた後、バックパックに入れてあった携帯食料を食べた。
しばらく焚き火の前で話し、メアリスが眠そうな顔をしていたのでテントを出して寝かせた。
なので今は俺一人で見張りをしてるという状況だ。
「ふぁ~……流石に眠いな」
ほぼ休みなしで魔物を警戒しながら歩いてきたので、とても疲労が溜まっている。
「でも……」
寝ているメアリスを易々と魔物に襲わせるわけにはいかない。
俺は頬を両手でパチンと叩き目を覚ました。
ちゃんと警戒を怠らないようにしないと……
「……魔物か?」
近くからガサゴソという音が聞こえた気がした。
俺は鞘からダガーを抜き、視線を走らせる。
────しばらく警戒していたが、動きはない。
ここは……
「メアリスの真似をしてみるか」
メアリスとの契約で魔力量が増えたので、辺りに魔力を飛ばす余裕ができた。
正直、魔力には限りがあるのにただ辺りに飛ばすだけというのは非常にもったいないのだが……これが一番手っ取り早いし、まだ魔力はたくさん残っている。
いつ襲ってくるか分からない以上、早めに処理した方がいいという判断だ。
ただ、これからもっと効率の良い索敵方法を探した方がいいかもしれない。
気配を察知するだけでは正直限界がある。
「──……そこだな。」
俺は近くの木の裏に違和感を感じた。
魔物ではない可能性もあるのでいきなり攻撃を仕掛けたりはしない。
俺は足音を鳴らさないよう慎重に木の裏に回る。
覗き込んでみるとそこには……
「……リス? いや、それにしては随分メルヘンな感じだな……」
木の裏に居たのはリスのような動物。
しかし、普通のリスとは決定的に違う部分があった。
全身ピンク色でお腹に青色のハートマークがある。
それに……羽が生えている。
魔物特有の邪悪ななにかを感じないのでこいつは魔物ではない。
「こんな普通の森にこれほど特殊な生物が居るはずないんだけど……」
「キュイ!」
「おわっ」
リス(?)は俺の腕に飛び込んできた。
正直……かわいい。
このまま冒険のお供として連れていきたいくらいだ。
「でも……俺たちの旅は危険だからな。ついてきちゃダメだぞ。お前のことは気になるけど……家に帰った方がいいぞ」
「キュ?」
俺はリス(?)を優しく地面に置き、テントの方へ戻る。
「じゃあな、またどこかで会えたらいいな」
見張りに戻るためリス(?)に軽く手を振ってその場を去った。
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「……ん? メアリス、起きたのか?」
俺がリス(?)と別れた後にテントに戻ると、切り株に座ったメアリスがいた。
「うん、今度は私が見張りをやるよ。ところで、エルは何処に行ってたの?」
「なにかの気配を感じたから、それを確かめにいったんだ。正体は変なリスだったよ」
「変な? まぁそれは明日聞かせて! エルは人間なんだからちゃんと寝ないとダメだよ」
「それじゃあ、それに甘えて寝させてもらおうかな。……ふぁ~……」
俺は欠伸をしながらテントに入り、布団にくるまった。
寝袋でもよかったのだけど、布団の方が気持ちいいのでメアリスに持ってきてもらった。
「……そういえば、一人じゃ寝ることもできなかったのか」
もしメアリスなしで冒険者を始めていたら見張りがいない、つまり寝られないということだ。
一人だったら他にも不便な事がいっぱいあるだろう。
アクスが冒険者になるのを反対していた理由はこれなのかもしれない。
「とりあえず……寝よう」
今は明日のために休むのが一番大事だ。
かなりの近道だから……明日には着くかもしれないな。
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「んん……」
あれ……どれくらい寝てたんだ?
メアリスと見張りを交代しないと……
「……ん?」
横にはすぅすぅと寝息をたてているメアリスがいた。
「俺が起きなかったせいだな、流石に見張りなしは危ない」
メアリスが気持ちよさそうに寝ていたので今はまだ寝かせてあげようと思い、テントの外に出た。
「もう朝か。かなり明る……?」
ふと辺りを見回すと、見慣れた人影が……
「……あれ? エルさん?」
「カレット?」
なんと、テントの外にはカレットが立っていた。
「おはよう、よく眠れたかな?」
「うん、おかげさまで。代わりに見張りをしてくれてたんだよな? ありがとう」
「これくらいお易い御用だよー! メアリスも疲れてはないけどちゃんと休まないといけないし!」
「疲れてない……絵画には疲労がないのか?」
「いいや、そういうわけじゃないよ? ただ私たちは人間に比べれば頑丈だね!」
「確かにいつも元気な笑顔をしてたな……カレットみたいだ」
「え? もしかして口説いてる?」
「えっ、ち、違っ」
「あはは、からかっただけだってば」
カレットは子どものように無邪気に笑う。
カレットはメアリス以上に明るくて、こちらまで元気になってしまう。
「……ねぇ、エルさん」
「エルでいいよ」
「そう? ……じゃあ、エル」
カレットはこちらの目を覗き込むようにこちらに向き直り、頭を下げた。
「ありがとう」
「あ、頭を上げてくれ。なんでお礼を言うんだ?」
「エルは人間なのに、人間とは違う種族……いや、もはや種族と呼んでいいのかすら分からない私たちを受け入れてくれた」
「……」
「人間から見れば、私たち作品は魔導人形に近い。でもそれとも若干違って、私たちは人間にとって完全に異形の者。人間は新たなもの、自分と異なるものに怯え、また好奇心を示す。それが悪いものに変化するか、良いものに変化するかは分からない」
「……そうだな」
「でも、エルは人間ではないメアリスに人間と同じように接してくれてる。異なるものを受け入れるというのはとても難しいことなのに、エルはすんなりと受け入れてくれた。助けてくれた。だからありがとうを言ったの」
「俺はメアリスが困っていたから助けただけで……当たり前のことをしただけだよ」
俺は本当に特別なことはしてない。
目の前に困っている人がいたから助けた、ただそれだけだ。
「その当たり前ができる人間がほぼいないから、それが出来るエルにメアリスは心を開いたんだと思うよ」
「もしそうだとしたら嬉しいな。これからもメアリスと仲良くしていきたいし……一緒に冒険したい。メアリスにとってはこの森だって珍しいものなんだ。メアリスと一緒に広い世界を見てみたい」
俺もメアリスも、この世界にあるものをほとんど見たことがない。
だから新しいものを発見した喜び、なにかを成し遂げた時の達成感。
他にももっとたくさんのことをメアリスと共有したい。
「ふふ……やっぱりエルに着いてきてよかった!」
「? それはどういう……」
「そのままの意味だよー! さて、そろそろ出発したら? 私はねぼすけメアリスを起こしてくるから」
「そうだな、もうかなり明るいし……頼んでもいいか?」
「合点承知之助!」
カレットがなにやらよく分からないことを言ってテントに入っていった。
合点承知は分かるけど……まぁ、今はそんなことはいいか。
「さて……準備するか」
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