第20話 初めての1歩
うわぁ……典型的な面倒くさいやつに絡まれてしまった……。
「……メアリス、攻撃したらだめだぞ」
「……えー……分かった」
少し不満があったようだが、納得してくれた。
メアリスの力はできるだけ見られたくない。
「おい、さっきからなに無視してんだよ!」
「おー、わりぃわりぃ。受付に行きたいからどいてくれねぇか?」
「なら、その女を置いてけよ」
なんでそうなるんだ……? 支離滅裂すぎてため息が出てしまいそうだ。
「おい、なんなんだ。メアリスに手を出すな」
「なぁなぁ嬢ちゃん、こんなガキとおっさんなんかといないで俺と来いよ」
まるで俺のことは見えていないかのようにずいっとメアリスの方に近づく。
「……はぁ」
「あ? なにため息ついてんだ?」
「さっきから聞いてれば失礼なことばっかり。あなたみたいなクズについていくわけないでしょ」
「てめ、ざけんな!」
男がメアリスに掴みかかろうと腕を伸ばしてきた。
俺はその腕を鷲掴みにして止める。
「メアリスに手を出すな」
「生意気なガキだな!」
男は俺の手を振り払おうとするが、俺は離さない。
メアリスに手を出そうとしてただで済ませるわけには……
「離せっ! ガキがっ!!」
「エル、その辺にしとけ。出発前にトラブってどうする」
「あっ……そうだった」
俺は手を離し、男を解放する。
そんな男をアクスが睨みつけ、圧を発する。
「これ以上暴れるようならこのままギルドに突き出すぞ。それが嫌ならさっさと帰れ」
「ぐっ、くっ……覚えてろよ!」
その圧でアクスに敵わないことを理解したのか小物らしいセリフを吐いて退散した。
「エル、ああいう時は手を出したらダメだ。メアリスちゃんのことで怒るのは分かるが、手を出したら冒険者の資格剥奪の可能性もある。気をつけろよ」
「うん……反省するよ」
「まぁまぁ、そんなに怒らないであげて! そもそも最初、エルが私を止めてなかったら……ね?」
そのね? がどれだけ怖いことか。
一体なにをするつもりだったのだろう……
「それに、私のために怒ってくれたエルはすっごくかっこよかったよ! 私を守ってくれてありがと、エル!」
「う、うん、どういたしまして……。」
メアリスの純粋な笑顔に思わずドキッとしてしまった。
契約時のこともあってちょっと意識してしまう……
「エルにもそういう時期が来たかぁ……感慨深いぜ。それはそうと、これからは気をつけろよ? メアリスちゃんに免じてこれ以上は言わねぇが……」
「ありがとう、アクス。肝に銘じるよ」
俺はアクスの忠告を心に刻み、受付に進む。
「すいません、冒険者登録をしたいんですけど……」
「冒険者登録ですね。ではこちらの紙に生年月日とサインをお願いします」
「はい、分かりました─────これでいいですか?」
俺は渡されたペンを走らせ、記入を完了した。
「はい……はい、確認できました。冒険者は死と隣り合わせの職業となりますが、随分お若いですね。大丈夫ですか?」
「はい、問題ありません」
「ではこちらが冒険者カードになります、失くしたら大変なので肌身離さず持っていてくださいね」
「ありがとうございます」
……遂に、念願の冒険者……!
最初のランクは……F。
冒険者のランクはF→E→D→C→B→A→Sとなっている。
スタートは当然一番下から。
いずれは世界に数人しかいないというSランクに到達したいものだ。
「ただいま、登録できたよ」
「おう、お疲れ。ここからエルの冒険者人生の始まりだな! 応援してるぞ!」
「その応援に答えられるようがんばるよ!」
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「それじゃあ、またな。俺からの願いは一つだけだ。死ぬなよ」
「あぁ、もちろん」
「私がエルを守るから、アクスは安心して!」
「ははっ、そりゃ頼もしいな。だが、エルもメアリスちゃんのことを守ってやるんだぞ。漢なんだからな?」
「当然だね。……アクス、またね」
「おう、またな」
……これでアクスとはもう一生会えない、という訳では無いのだけれど……すごく寂しい。
「アクスっ……」
俺は両親を早々に亡くしてしまったので、俺にとってアクスは親のようなものだ。
そんなアクスと一時的とはいえ別れるというのは、とても辛いことだ。
俺はアクスに抱きつき、涙を流す。
「ったく、いつまでも甘えん坊なやつだな」
アクスは俺を抱きしめ返し、そっと俺の頭に手を置く。
「……帰りたくなったらいつでも帰ってきていいからな」
「……うん」
「寂しいかもしれないが、いつまでもそうやって泣いてかわいい女の子を待たすわけにはいかないだろう?」
そう言いながらアクスはメアリスの方に視線を向ける。
「ふふ、私はもうちょっと見てたいけどね。アクスが泣くのをすっごく我慢してるのが面白いし」
「おおぅ……結構小悪魔みてぇなところあるんだな」
俺はそんなアクスの顔が気になり、上を見上げる。
「ははっ」
「おまっ、なに笑ってんだよ! 俺だって必死なんだぞ! 親は笑って見送るのが役目とか言うだろ!?」
「でも、アクスもう泣いてるよねー」
「るせっ」
アクスはくすくすと笑うメアリスから目を逸らし、涙をこぼす。
「俺だって寂しいが、冒険者になって広い世界を見るってのはエルの願いだ。俺はその願いを叶えてやりたい。だから、行け」
「ありがとう、アクス。いってきます」
「おう……いってらっしゃい」
俺はアクスに手を振り、アクスは俺に手を振る。
これが俺の、冒険者としての初めての一歩だった。
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