第19話 お祝い そして念願の……
「んくっ、んくっ……ぷはぁ!! エル、よくやったなぁ!」
「ちょっとアクス、飲みすぎじゃない?」
「今日くらいいいだろー? 堅いこと言うなよなぁ」
「まぁ今日くらいいいか! 飲もう!」
「お、エルも分かってんじゃねぇか! おら、飲むぞぉ!」
「あぁ、これも美味しい、これもいいね!──────」
俺たちは思う存分楽しんだ。
お酒を飲んで、美味しいものもたくさん食べた。
最高の時間だ。
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「んん……よく寝たな」
俺は昨日の楽しい時間を思い出しながらベッドを出る。
ふと横を見てみると、アクスがいない。
「普段ならいつも俺が先なんだけどな……アクスにしては早起きだ」
そんな感想を一人で述べ、扉を開ける。
キッチンの方を見ると、アクスが料理を作っていた。
「お、おはようエル。よく眠れたか?」
「うん、すごく。昨日は最高だったね」
「おう! 楽しすぎてどうにかなりそうだったな!」
「ところで、珍しく料理を作ってるみたいだけど……どうしたの?」
「あぁ、今日はエルの旅立ちの日だからな。朝ごはんくらい作らせてくれよ」
アクスは見事にフライパンを操り、具材がぴょんぴょん跳ねて混ぜられている。
まるでプロの料理人だ。
「メアリスを起こしてきてくれるか?」
「分かった」
俺はノックしてから自分の部屋の扉を開け、中に入る。
ベッドの方へ歩いていくと、メアリスは……いない?
「あれ? いないはずないんだけど……どこにいったんだ?」
「ばぁ!」
「うわっ!?」
後ろからメアリスが飛び込んでくる。
ドアの裏に隠れていたようだ。
そのまま抵抗できずにベッドに倒れ込んだ。
「くすくす、驚いた?」
「驚いたよ、全く……朝ごはんの時間だから早く行こう」
「えー、もうちょっとこのままがよかったなぁ」
メアリスは少し寂しそうな顔をして渋々俺の身体から降りた。
俺はメアリスが降りたのを確認し、ベッドから起き上がる。
「一緒に行こ!」
メアリスは俺の手を引っ張って扉に手をかける。
勢いよく扉が閉まり、バタン、という音が鳴り響く。
「メアリス、そんなに急がなくてもごはんは逃げないぞ?」
「いいの! 早く行こ!」
メアリスは俺の手を掴んだまま席につき、俺も隣りの席についた。
そこで満足したのか、メアリスは手を離す。
「お前ら朝から元気だな、いいことだ! さぁ食え!」
机の上に出されたのは、お皿にこんもりと盛られた黄金色のご飯。
刻んだ野菜や卵が入っているようで、とても色鮮やかだ。
「それじゃあ、手を合わせて……」
「「「いただきます!!」」」
食べ物に感謝の言葉を述べ、スプーンを手に取る。
黄金色のご飯にスプーンを突き立て、掬う。
それを口に運び、喰らう。
「これは……!」
モチモチのご飯に、シャッキシャキの野菜。
それに加えてふわふわの卵が歯を優しく撫でる。
それぞれがお互いを引き立て合い、最高のハーモニーを奏でる。
噛み締める度に幸せが溢れだす、至高の一皿だ。
そんな至高の一皿を、無心で喰らい続ける。
「私、甘いもの以外はあんまりだけど……これは美味しい!」
メアリスもハマったようで、パクパクとどんどん食べ進めていく。
「ははっ、いい食いっぷりだな! その調子なら安心して送り出せるぜ。最初はどこに行くつもりなんだ?」
「そうだな……」
一度食べる手を止めて今後の予定について話し始める。
「まずはここイレニアのギルドで冒険者登録をしてからスペリラに行ってみようと思う」
「いいんじゃないか? 冒険者カードはどこのギルドも共通だしな。それにしても、スペリラか」
「そのシュペリラっていうとこりょはどんにゃところにゃひょ?」
「メアリス……食べてから喋ってくれ」
「わかっひゃ」
本当に分かっているのだろうか……なんだかデジャブを感じる。
「スペリラは魔法が発達した街で、あらゆる所に魔法に関係する仕掛けや施設があるんだ。その魔法の力で街を守っているんだ」
「なんで魔法が発達してるの?」
「近くに魔法の森と呼ばれる森があって、そこでは魔石や薬の材料となる植物がたくさんあったから、そこに魔法使いがたくさん集まったんだ。その魔法使いたちが作った街だから魔法が発達しているらしい。大昔に魔法使いととある種族が協力して作った魔法障壁があって、難攻不落の街とも呼ばれているんだ」
「へぇ、面白そう! その魔法使いに会ってみたいなぁ!」
メアリスは楽しみにしているのか、足をフラフラと揺らしている。
俺もすごく楽しみだ。
「俺もエルたちが持って帰ってくる土産話が楽しみだ。ところでエル、スペリラには何日かけて着く予定なんだ?」
「徒歩だから……三日くらいかな」
「そうか、野営の時は気をつけろよ。後は携帯食糧持ってっとけ」
「うん、ちゃんと確認してから出発するから、大丈夫」
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「これでいいかな……」
旅立ちに必要な物をまとめたバックパックの中身を隅々まで確認する。
荷物はメアリスのブローチに収納させてくれるので、それに甘えて多めに入れた。
「エルー、早く行こうよー。」
「後ちょっとだけ待って……よし、これで大丈夫だ。」
俺はバックパックを閉じ、メアリスの方へ持っていく。
「かなり大きいんだけど、入れられるか?」
「あのドラゴンに比べたらこんなのキャンディだよ、大丈夫大丈夫。」
メアリスが触れると、バックパックはブローチに吸い込まれていった。
「お? 出発か?」
「うん、準備ができたからね」
「イレニアから出るまではついていくぞ、一応長いお別れになるからな」
「ありがとう、そうしてくれると嬉しい」
俺たちは扉を開けて外に出る。
冒険者ギルドは街の中心にあるので大通りに沿っていくのが一番早い。
「……ねぇ、なんか人の目がすごい気になるんだけど」
「俺は一応劣等種ドラゴンを討伐した冒険者ってことになってるからな。倒したのはお前ら二人だが……」
「……これから活動する上で目立つのは避けられないかもね」
ただ劣等種ドラゴンを倒した冒険者だ、すごい! と言われるだけならいいんだけど……俺たちは傍から見たら完全に子どもだ。
俺は十六歳、メアリスは見た目十~十四歳といったところ。
そんな俺たちが高難度の依頼をこなしたとすれば当然目立つ。
もしメアリスが絵だということがバレたら大変なことが起きるかもしれない。
「……俺が守らないとな」
俺は拳をぎゅっと握りしめ、メアリスを絶対に守り抜くことを誓った。
そんな決意をしていると、冒険者ギルドが見えてきた。
「おー、昨日ぶり!」
「ここで冒険者登録をすれば、エルもやっと冒険者だな」
「遂に……か」
ギルドの扉を開け、受付に向かっていると……
「おいおい、随分かわいらしいガキだなぁ? ここはお前みたいなやつが来るところじゃないんだよ」
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