第18話 合格?
アクスは周りの冒険者の目を気にせずに劣等種ドラゴンを背負い受付に持っていく。
俺たちも後ろからついていく。
「こいつを鑑定してくれるか?」
「えーっと……これは劣等種ドラゴンですよね……?」
「あぁ、そうだ。依頼達成の報告をしたいから鑑定を頼めるか?」
「は、はい、分かりました。少々お待ちください。…………うーん、あの方はさっき依頼を受けたばかりだったような……」
受付嬢はブツブツとなにか言いながらワゴンに劣等種ドラゴンを乗せて裏に消えていった。
「それにしても、どうやってこんなに早く劣等種ドラゴンを見つけて倒したんだよ? なんかすごい風穴空いてたし……最低でもあと一時間はかかると思ったんだが……」
「メアリスがほぼやったんだよね……」
「私にかかればあの程度楽勝だよ!」
「劣等種ドラゴンが楽勝か! はは! 俺たちはとんでもないやつを助けちまったなぁエル」
「本当にその通りだな……」
「ちょっと、女の子に向かってとんでもないやつだなんて失礼じゃない?」
そんな感じで談笑していると、受付嬢の人が帰ってきた。
「確認できました、確かに本物の劣等種ドラゴンですね。こちら、報酬の銀貨五十枚になります」
「おう、確かに受け取ったぜ。それじゃあお前ら、一旦帰るぞ」
「うん」
「はーい」
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「さて、まずは合格おめでとう。」
「あんまり実感がないな……」
「誰がなんと言おうと、合格は合格だ。冒険者になる許可を出そう」
俺はあまり素直に喜べない。
だって、発見から討伐までほぼメアリスがやってくれたんだから。
本当にこれで合格でいいのだろうか?
「エル、合格だよ? もっと喜ばないの?」
「いや……冒険者になれるのは嬉しいんだけど、俺、なんにもしてないだろ? メアリスのおかげで……」
「そんなことないよ!」
メアリスが即答し、俺の手を掴む。
「そもそも、私のおかげおかげって……その私っていうのは誰が助けたの? エルとアクスでしょ?」
「でも俺一人だったら……」
「あーもう! なんでそんなにネガティブな方に持っていくの。そもそも、一人で出来ることなんて限られてるんだよ! 私を助けようとがんばっているエルの姿は、すっごくすっごおぉぉぉくかっこよかったよ」
「……」
「試験の時も、私に油断しないことの大切さを教えてくれた。ほら、私って強いでしょ? ろくに戦闘もしてこなかったのに、すごく油断してた。今回は大丈夫でも、いつか足をすくわれてたはず」
「……ありがとう、メアリス」
「お礼を言うのは私! ありがとう、エル」
嬉しくて少し涙が零れてしまいそうだ。
なんだか見られるのが恥ずかしくて、少し顔を下に向ける。
すると、メアリスも頭を下げて俺の頭にコツンとぶつける。
「えへへ、まねっこ。元気でた?」
「はは、バレバレか。悲しくて泣いたわけじゃないよ。でも、ありがとう。元気出たよ」
「それならよかった!」
そう言うとメアリスは俺に向かって笑いかけ、俺の手を掴んでいる片方の手を突然ポケットに突っ込み、赤い石を取り出した。
「それは手紙にあった……何か分かったのか?」
「うん、これは契約の魔石」
「契約の魔石だと!? そんなレアアイテムが……って、メアリスちゃんまさか……」
「うん、私は決めたんだ」
「そうか……俺は良いと思うぞ」
「?」
俺は二人がなんの話をしているのかよく分からない。
契約の魔石ってなんだ?
それを訪ねようとするのだけど……
「エル」
「な、なんだ?」
「私は、エルが好き」
「!!!?」
そ、それは……どういう……
心臓が跳ねているかのように落ち着かない。
きっと今の俺の顔は燃え盛る炎よりも熱く真っ赤だ。
「だから……私のご主人様になって?」
「ご、ご主人様って……」
本気なのか? と聞く前にメアリスは赤い魔石を握る手に力を込める。
「これからもよろしくね、優しくてあったかい人間さん」
メアリスは赤い魔石を砕いた。
「うっ……!?」
砕かれた魔石はとんでもない光を放ち、世界を白に染める。
やがてその光がなくなり、おそるおそる目を開ける。
すると……
「……?」
周りを見渡しても特に変化はない。
「あっ!? そういえばエルに確認してなかった!? どうしよう……契約なんてしたくなかった、なんて言われたら……」
「大丈夫だ、エルならそんな事言わないって」
「ちょ、ちょっと待って。何が起こったんだ?」
突然メアリスから衝撃の告白があって、魔石から光が放たれて……もう訳が分からない。
「エルはメアリスと契約したんだよ」
「契約?」
「言い方は悪いが、要するにメアリスを使役したってことだ」
「し、使役?」
「あぁ。ビーストテイマーっているだろ? 動物と契約して力を借りる職業だ」
「それは知ってるけど……」
「それと同じようなもんだ。あ、メアリスちゃんを獣扱いしてるわけじゃねぇからな?」
「もしそうだったらアクスはとんだ変態さんだね」
「そうじゃなかったから俺は健全だな」
「ふふ、それはどうかな?」
「俺は変態じゃねぇ!」
メアリスとアクスの漫才は置いておいて……メアリスと契約した、というのは理解した。
ご主人様というのも、契約したからなのだと理解した。
「契約したらなにかあるのか?」
「一定以上の力を持った者と契約すれば能力が得られるはずだ」
「私と契約してどんな力を得たのかは私も分からないよ」
「なるほどな」
ふむ……どんな力を得たのかすごく気になる。
そこらへんは冒険者をやりながら探っていこう。
「さぁ、今日はお祝いだ! エルの冒険者記念だ!」
「やったー! 美味しいお菓子たくさんだー!」
「俺よりはしゃいでるじゃないか」
俺よりもはしゃぐ二人を見て、自然と笑みが溢れてしまう。
俺も……すごく嬉しい。
ようやく、念願の冒険者になれるのだ。
ここから、俺の新しい人生が始まる。
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