第3話 キャンディ
◇……視点変化
◆……過去、回想
------……場面変化、時間飛ばし
「かぁ~。負けちまったかぁぁ」
「カラスじゃないんだからそんなにかぁかぁ言わないでくれよ」
「んだと!? カラスはかわいいだろうが!」
「それは別に関係ないんだけど!?」
俺とアクスはいつもの通りのんきにふざけながら家路につく。
そんな平穏が続けばよかったのだけど。
「いやぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」
「「っ!?」」
突然、少女の悲鳴が響く。
「森の方からだなっ!?」
「多分そうだ! 行かないと! アクス!」
「ったりめぇだ!!」
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「見つけたっ!!」
俺は魔物に襲われている少女を発見した。
あれは確か……フレアバードだ。
俺は短剣を腰から取り……
「氷刃!」
そう力ある言葉を紡ぐ。
続けて短剣を振ると氷の刃が出現し、フレアバードに向かって飛んでいく。
フレアバードは体を傾けることによって避け、こちらに突貫してきた。
「エル、俺がそいつをやるからそこの嬢ちゃんを助けてやれ!」
「了解! そっちは頼んだ!」
俺はフレアバードの突進を避け、少女に向かって全速力で走る。
「クエーッ!」
フレアバードはエルに向かって炎を吐き出す。
「やらせねぇよっ!」
アクスは大剣を盾のように構え、炎を受け止めた。
流れるようにナイフを投げれば、フレアバードの腹部に突き刺さる。
すると、フレアバードの吐き出した炎はみるみるうちに消えていく。
魔法の炎なので、勢いが弱まればすぐに消えるのだ。
「クエェ!!」
フレアバードはその痛みに苦しみながらも再度炎を吐き出す。
先程よりも高火力だ。
「避けると火事になりそうだな……」
ここは森なので避ければ火事は必至。
なので先程と同じように大剣で炎を受け止める。
「さっさとやられろっ!!」
アクスは大剣を盾のように構えたまま素早く走り出し、あっという間にフレアバードに肉薄する。
「爆裂剣!」
アクスはフレアバードに向かって大剣を振り上げる。
フレアバードは後ろに下がりかすり傷で済ませたものの………
──────パァン!!
瞬間、フレアバードの身体が爆発。
フレアバードは墜落し、魔石と化す。
「ふう、ひと仕事終えたぜ」
アクスは魔石を拾い、エルの方に目を向ける。
「大丈夫か? 立てるか?」
「あ、ありがとう……」
エルは少女の手を取り、身体を起こす。
よく見れば、良家の令嬢みたいだ。
ウェーブのかかったブロンドの髪は女神を思わせる輝きで、明るい緑色のワンピースには薔薇柄がデザインされていて、その完成されたような美に思わず息を吞んでしまう。
こちらを覗き込む青色の瞳は、どこまでも沈んでいけそうな海が広がっている。
正直言ってこの美しさは異常だ。
現実にこんな美しいものが存在していてもいいのか。
そう思えるほどに少女の美しさには現実感がなかった。
「エル、よくやった」
「いや、俺はこの子を起こしただけだよ」
「何言ってんだ。俺よりも素早く魔物を見つけ、その嬢ちゃんから引き離したじゃないか。よくやったな」
「おわっ」
アクスは俺の頭をワシャワシャと豪快に撫でた。
すこし荒っぽいが、それがアクスらしくもあり、心地よい。
……っと、今はこんなことをしている場合じゃない。
そう思った俺は気を取り直してコホンと咳払いしてから少女に話しかける。
「……ところで、君、1人で森に入るなんて危ないぞ? 今回はたまたま俺たちが居たから良かったけど……」
「ご、ごめんなさい。それと、ありがとう」
少女はぺこりと頭を下げる。
やはり貴族の令嬢なのかもしれない。
社交界のお嬢様と遜色ない丁寧な佇まいで、背筋がピンと伸びた綺麗な姿勢だ。
「家はどこだ? 俺たちが送り届けてやろうか?」
「え、えっと……私、家、ないのよね……」
「はぁ? どういうことだよ。家出か?」
「違う……本当に家がないの……」
「あ~……?」
少女は人差し指同士をちょんちょんとぶつけ、ただただ気まずそうにしている。
それでいて青色の双眸はアクスを見上げ続ける。
それを見たアクスは頭をワシャワシャと掻き、やれやれといった様子でため息を溢す。
「しょうがねぇな、一旦俺たちの家くるか?」
「え!? ほんとに?」
少女は手を合わせ、子どものように顔をキラキラと輝かせる。
──────ぐぅーーっ
その時、間の抜けた音が響く。
「あう……」
少女はお腹が空いているのか、大きな音を鳴らす。
少女は両手を内股になった足に挟み込み、湯気が出そうなくらい赤くなる。
「あ~……腹減ってんのか。今食べられるものは……ねぇな。エル、なんかあるか?」
「えっと……ちょっと待って……」
俺はポケットに手を突っ込み、なにかないか探る。
するとひとつ、なにかが指に触れた。
「お、これでいいかな?」
俺はポケットから小さな袋を取り出す。
キャンディだ。
「それって……キャンディ……?」
「そうだ」
少女にキャンディを手渡すと、新種の生物を見つめたときの科学者のように大はしゃぎになり、キャンディをいろんな角度から見る。
「わぁ……これが……キャンディ…………!」
少女は恍惚とした表情でキャンディの袋を見つめ続けるとやがて満足したのか、ようやく袋を開封する。
「いただきます」
少女はキャンディを口に放り込み、口の中で転がしてみる。
──────カラン、カツン、カラン。
不規則なリズムで、歯にキャンディが当たる音が聞こえる。
(転がす度に甘い唾液が口の中に広がって、フルーツの香りが鼻の辺りを飛び回っているみたい……これがキャンディ……幸せの味なんだ……)
キャンディを口に入れた少女は、突然プルプルと震えながらぽろぽろと雫を零す。
俺はそれを見てあわあわと慌ててしまう。
「あ、あれ? もしかして辛いやつだったかな……だ、大丈夫か? 吐いちゃっても大丈夫だぞ?」
それを聞いた少女は正気か?と言いたげな目でこちらを見つめながらずいっと俺の方に出る。
「吐くなんてとんでもにゃい! キャンディって、ほんなに甘くておいひいのね!!」
キャンディを舐めながらだからか、呂律が回っていない。
「随分と表情が豊かな嬢ちゃんだな。……ところで嬢ちゃん、名前は?」
「わらひ……? 私はメアリス。メアリス・ローザよ。よろしくね。」
メアリスは令嬢のようにスカートをつまみ、礼儀正しく礼をした。
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