第15話 アクスの頼み
俺は女の子と同じ部屋に二人きりはまずいと思ったので、アクスのベッドで二人で寝ることにした。
「はは、懐かしいな。昔はこうやって二人で寝たよなぁ」
「確かに懐かしいな。あの時はどうやってアクスの役に立とうかと必死だったよ」
「俺は別にそんなのどっちでも良かったんだけどな……」
アクスは苦笑しながら答える。
「大きくなったな、ほんとに」
アクスが俺の頭を撫でる。
普段のように荒々しいものではなく、優しく、親が子どもに向ける慈愛の表情で撫でる。
どこかくすぐったいようで、心地よい。
遠い昔の母さん、父さんを思い出す。
「……明日、三人で話すことがある。俺と、お前と、メアリスだ」
「俺だけじゃなくてメアリスも?」
「あぁ。すごく大事な話だ。だから、今日はゆっくり休め」
「分かった。それじゃあおやすみ、アクス」
「おう、おやすみ。また明日な」
そう言い、アクスはランプの火を消した。
--------------------
「ん……」
目が覚めると、横になにかものが……
「……すぅ……」
なんだ、アクスか。
仏のように静かに寝ている。
普段は豪快で元気なアクスだが、意外に寝る時は静かだ。
こちらをむいてすうすうと寝息をたてている。
俺はアクスを起こさないようベッドから降り、キッチンに向かう。
「……メアリス、嫌いなものとかあるかな……」
メアリスが好きな食べ物は甘いもの。
それは昨日でなんとなくわかった。
甘くて朝ごはんで食べられるもの……卵焼きだな。
そうと決まれば、俺はフライパンと卵を用意。
炎の魔石を専用の道具で砕き、火を発生させた。
魔石に込められた魔力が続く限り、炎が消えることは無い。
さっき魔石を砕いた道具についているメーターのようなもので火加減が変えられる。
これで魔石を砕くことによって、魔石の魔力をコントロールすることができるのだ。
と、説明は置いておこう。
卵をキッチンの角でトントンと叩く。
その後に二本の親指でヒビの入った部分をこじ開けるように……
「よし、ちゃんと割れたな」
三人分だから……あと二個割ろう。
卵焼きだけではないしたくさん作りすぎてもあれだ。
卵を二つ割ったら、深めのお皿に入ったものをかき混ぜていく。
そこに塩や砂糖を適量。
フライパンに油を入れた後に、かき混ぜたものをフライパンに流し込む!
卵焼きなので一気に全て、というわけではないが。
じゅわぁっと気持ちのいい音がなる。
すぐに火が通ってしまうので、スピード勝負だ。
焼けてきたな……と思ったらすぐに掴み、くるっと巻く。
「……よし」
汚い形になること無く、ちゃんと巻くことに成功した。
これを後二回。
--------------------
その後何事もなく卵焼きが完成した。
適当に野菜を切ってお皿に盛り付ける。
「そろそろメアリスとアクスを起こしにいくか」
「私ならもういるよ!」
「うわ!?」
そこにはいつからいたのか、メアリスがそこに居た。
ナイフとフォークを持って準備万端だ。
俺……フォークもナイフもまだ出してないはずなんだが……。
「さぁ、早くアクスを起こして食べよ!」
「そうだな、冷める前に行こう」
俺はメアリスと共にアクスの部屋に向かう。
扉をガチャりと開けるとメアリスが勢いよくベッドに飛び込み、アクスにダイブ。
馬乗りとなったメアリスはアクスの顔をぺちぺちと叩く。
「起ーきーてー!」
「もう起きてるぞ……随分とダイナミックな起こし方じゃねぇか」
「アクスが遅いのが悪い!」
「むぅ……なんも言い返せねぇな……。さぁ、起きるからどけ」
「は~い」
メアリスは素直にベッドから飛び降りた。
アクスは身体をゆっくりと起こし、ベッドを降りる。
「ほら、アクス、冷めちゃうから早くいこう」
「おう、いつもありがとうな」
--------------------
「それじゃあ、手を合わせて……」
「「「いただきます!!」」」
大きな声で、いただきます。
これが基本だ。
「ん! 美味しい!」
メアリスは自分のフォークとナイフで卵焼きを切り分け、口に放り込んでいた。
美術館で『食』を経験したことのない彼女には新鮮だろう。
「食べるって、幸せだね!」
「だろ? これからたくさん食べれるぞ」
「わーい! エルのごはんがたくさん食べられるなんて、最高だね!」
「あはは、最高なんて言われたら照れるな」
そんな感じで談笑しながら朝ごはんを食べ進める。
「二人とも、食後に大事な話があるからちっと心の準備をしといてもらっていいか?」
「あぁ、俺は大丈夫だ」
「わらひも大じゅうぶよ」
「メアリス、食べてから喋る」
「ふぁーい」
メアリスは卵焼きを口に入れたまま返事をする。
本当に分かっているのか……?
--------------------
「二人とも、例の大事な話だ」
食後しばらくして、そうアクスが呼びかける。
特になにもしていなかったのですぐにメアリスと席に着いた。
「話ってなに?」
「そうだな……まずは、エルからだ」
「俺から?」
……もしかして、冒険者に関する話だろうか。
俺は冒険者となって広い世界を見ることに憧れてきた。
たくさんの人と触れ合い、助けることを夢見てきた。
……破壊された村について、調べたかった。
しかし、冒険者は死と隣り合わせの危険な職業。
それ故にアクスは反対していたのだ。
反対していたが、訓練はつけてくれていた。
どこかに俺を冒険者にさせてあげたいという気持ちもあったのかもしれない。
「なんとなく分かると思うが……冒険者の話だ」
やっぱり。
「もしかして、冒険者になっていいのか?」
「あぁ、いいぞ」
「やっぱりだめだよなぁ…………え? もしかして……聞き間違い…………? いや、アクス。いいぞって言ったか?」
「あぁ、ただし、俺の試験に合格したらな。」
「試験?」
「それは後で話す。その話に入る前に、メアリスちゃんだ。」
あまりにもあっさりと告げられすぎてぽかんとしてしまう。
ものすごく嬉しいのだが、衝撃の方が勝ってしまった。
アクスはメアリスの方に視線を向ける。
「メアリスちゃんに、お願いがあるんだが……」
「なに? アクスのお願いなら、なんでも聞くよ」
「そうか、それはよかった。なら、遠慮なくお願いするぞ。エルと冒険者をやってくれないか?」
『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。
毎日投稿してますので、是非また次の日に見に来てください!




