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第20話 VSアンドリュー・2

「アンドリュー! もう……」

「メアリス」

「ザック、止めないで。私はもう限界よ。人間は脆い、弱い、簡単に死ぬ。あんなに血を出したらもう……!」


私はさっきから心臓が鳴って止まない、もしもあの二人が死んでしまったら……そう考えるだけで心臓が絞られているような気分になる。

そんな私の肩を、ザックは上から抑える。


「ザック、第一普通の人間がアンドリューに勝てると思ってるわけ?」

「思わないね」

「なら……」

「メアリスは普通の人間に僕たちの未来を任せるのかい?」

「それは力の話じゃ……!」

「少なくとも僕はアンドリューに勝てないようじゃついていく価値はないと思うけど。庇護をお願いする立場である僕たちがこんなことを言う権利がないことは分かっているけどね。だからといってそれを飲み込んで彼らについていくのに是と言うこともできないよ」

「それでも、二人がこのまま死ぬのは……!」

「やっぱりカレットの言う通り、目が鈍ってるね。なんでメアリスはあの二人が負ける前提で話してるの?」

「はぁ!? だって、ザックだってさっき普通の人間じゃアンドリューに勝てないって……」

「確かに僕はそう言ったけど……彼らが普通の人間だと言った覚えはないよ。特に、あのちっちゃい子。なんだか、お父さんに似た波動を感じるんだよねー……あはは」


ザックは珍しく目を見開き、この戦いを凝視している。

あの怠惰なザックが興味を示すほどのなにかが……エルにはある。

そのなにかが、お父さんと似た波動ってことなのかしらね。

本当は、今すぐ割って入りたい。

二人の身体からは真っ赤な血が跳んで、眉を顰めて苦しい顔をしている。

それでも二人の目は死んでいない、むしろその奥には絶対に勝つという執念が燃えている。

ここで私が戦いを終わらせたら、家族を背負ったアンドリューの想いも、私たちを助けると決意した二人の想いも、全部無駄になってしまう。

それが頭では分かっているから、私は胸の前で両手を強く結んだ。



◇◇◇◇◇



「「はぁ、はぁ……」」


硝子の弾幕をなんとか凌ぎ切った俺たちだが、身体は裂傷だらけで、出血も酷く……肩で息をしている。

致命とまではいかないが、少し頭がくらくらする。


「はぁ……どうだ、降参する気になったか?」

「はぁ……ようやく準備運動が終わった頃だよ、なぁ、アクス」

「あぁ……やっと身体があったまってきたぜ」

「減らず口め……」


アンドリュー側も、先ほどの攻撃はかなりの力を使うようで……その顔には疲労の色が見える。

そして右肩には囂々と燃え続けるアクスの投げナイフ。

硝子程度、溶かせない魔法剣ではないのだが……アンドリューの身体は溶かしきれない。

だが……きっとそこに勝ち筋がある。


……カレットは言った。

手足の一本や二本は切ってもらっても構わないと。

なら……──────


「アクス……一発逆転の作戦がある」

「ほーう、そいつは興味深いな。聞かせてくれ」



--------------------



「───ってやるのはどうだ?」

「はは、最高だぜエル。中々にインテリな作戦じゃねぇか」

「そこにいくまではごり押しだけどな」

「おい、作戦会議は終わったのか?」


声のする方をぱっと見ると、アンドリューが腕を組んで人差し指をパタパタさせ、爪先で地面を叩いている。


「待ってくれたのか?」

「ふん、体力の回復を待っていただけだ」

「はは、そうか。ありがとな」

「いいからさっさとかかってこい」


アンドリューは硝子の剣の切っ先を俺たちに向け、人差し指をクイクイして挑発してくる。


「その挑発、買ってやるよ!」


アクスが地面がひび割れるほど思い切り踏み抜き、一瞬でアンドリューに肉薄する。


「なっ、速い!?」

「能ある鷹は爪を隠すってな! 獄炎剣・解放!」


アクスが力ある言葉を紡げば大剣から一気に炎が噴き出し、バチバチと火の粉が弾ける。

その様は誇張抜きに、噴火最中の火山。

アクスはその大剣を直上から振り上げる。

アンドリューは決死の覚悟で後ろに跳んでそれを躱す。

だが、アクスの攻撃はそこで終わらない。


「燕返しって言うんだっけかぁ!?」


アクスの腕が膨らむほど隆起、大剣が地面に着く前に逆袈裟に跳ね上がる!


「まずい!!」


アンドリューは即座に硝子の壁を三枚出現させながらバックステップを踏む。

ただの硝子ではない、アンドリューが魔力で作り出した高強度の硝子だ。

そのはずなのに、大剣は一枚目の硝子を紙を切るかの如く楽々突破する。

二枚目の壁も同様、減速すらしない。


「っぐ……」


しかし、三枚目の壁を切る際僅かに減速してしまった。

その理由は硝子の壁を破壊した時に飛び散る硝子の破片。

アクスの拳には針山のように硝子の破片が突き刺さっていた。

痛みで動きが鈍ったのだ。


「っつ!」


その僅かな減速で、腹から胸まで切り裂くはずだった斬撃はアンドリューの左肩を掠めるに終わった。

しかしその斬撃の威力は凄まじく、斬撃痕から炎が噴き出し、アンドリューの肩は熱で真っ赤に染まる。


「人間……!」


アンドリューの顔に血管らしきものが浮かび上がり、髪の毛が空に引っ張られる。

アクスはそれに対し笑顔を浮かべ、鼻で笑ってやる。


「へっ、そんな怖い顔したら綺麗な顔が台無しだぜ?」

「黙れ! お前は厄介だ、ここで……」

「吹雪の剣……」

「!?」


俺はアンドリューの背後で青白い短剣を振り被る。

狙いは……左肩。


「解放っ!!」


アンドリューは振り返るのも間に合わず、肩に銀閃が走る。



ビキイィィィッ──────



「な……にっ……!?」


すると面白いようにあっさりとアンドリューの左腕が切断された。

硝子は急激な温度の変化に弱い、それはアンドリューの身体も変わらないようだな。


俺は続けて右肩を狙って振りかぶる。

アンドリューは左腕を切られた動揺と痛みで反応することができない。


「これで……終わりだぁっ!!!」


俺の絶対零度の斬撃が降る。

それは先と同じくあっさりと肩を通過して……切断された後のアンドリューの両腕からは白い蒸気がモクモクと立ち昇っていた。


「はい、両者そこまで! 勝者、アクスとエル!」


カレットが元気に俺たちの勝利を宣言し、作品たちから大きな歓声が上がる。

それを聞いた俺は力が抜けて、片手を支えに地面にへたり込んだ。

その時、アクスとばちっと目が合い……笑顔でお互いグーサイン。

なにはともあれ……俺たちの勝ちだ。

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