第19話 VSアンドリュー・1
「先手必勝って言葉があるよなぁ!」
アンドリューが勢いよく地面を蹴る。
その速さは少しぼやけて見えるほどだ。
武器は持っていない。
拳が武器なのだろうか?
それならまだ間合いに余裕が……
「なにボケっとしてんだ?」
アンドリューは俺に拳を振り下ろす。
しかし振りが早すぎる、体勢も奇妙だ。
そのまま行けば拳は虚空を通り過ぎるだけ……
ん?
なにかやばい、俺の生存本能が警鐘を鳴らす。
それに従い、俺は額を守るように短剣を横にする。
「うっ!?」
突然、短剣を持つ手にとてつもない衝撃が走る。
なんだ、何が起きた?
メアリスが言っていた、全員それぞれ持っている特殊能力というやつだろうか。
俺はその正体を探るため、目を凝らしてアンドリューを観察してみる。
「これは……硝子の剣か!」
「初見で防ぐとはな」
アンドリューの手には、透明な剣が握られていたのだ。
視認しにくい硝子の武器、厄介だな。
アンドリューの特殊能力は、おそらくこの硝子。
アンドリューは俺の短剣を力で無理やり弾き、また剣を振り被る。
「しまっ……」
「おら、一人これで終わりか!」
「おいおい、俺を忘れるなよな」
しかしその時には既に、アクスが大剣を振り上げていた。
アンドリューは舌打ちしながらサイドへステップを踏み、それを躱す。
「氷刃・残留!」
間髪入れずに俺は短剣に氷の魔力を付与し、突きを仕掛ける。
アンドリューは辛うじて硝子の剣を自身と短剣の間に差し込んで防いだ。
「調子に乗るな!」
そうアンドリューが叫ぶと、身体が光り輝き始め、地面が揺れる。
下からの攻撃か?
俺は冷静に後ろに下がって足元に注意を向ける。
「あ゛あ゛ぁぁぁ!!」
アンドリューがまた雄叫びを上げ、その瞬間に地面から巨大で鋭利な硝子の柱がアクスと俺の足元に飛び出す。
俺とアクスはバックステップでそれを躱すが、それで終わりではなかった。
「まだまだぁ!」
また俺たちの足元に硝子の柱が飛び出す。
また、また……俺たちが避ける度に追尾するように足元から硝子の柱が飛び出す。
とはいえその度に勢いと大きさは落ちていき……
「いつまでも好き勝手させねぇよ?」
カウンターの余裕が生まれる。
アクスはナイフを掌に火の玉を出現させ、その手でナイフを三本持つ。
本来ならナイフが熱されるだけで終わり……だが、アクスは魔法剣士だ。
刀身が徐々に朱くなり、火の魔力を帯びる。
「ここだな」
アクスは僅かにタイミングをずらし、三本ナイフを投擲する。
アンドリューはそれにギリギリで反応し、分厚い硝子の壁を出現させる。
投げナイフでは当然分厚い壁を貫くことはできない、アンドリューはそう考えたのだろう。
しかし一本目のナイフが硝子の壁に刺さったと同時、全体に罅が広がる。
次に二本目が刺さる、すると硝子の壁が綺麗に砕け散った。
「なぁ!?」
アンドリューの顔は驚きに歪み、数舜反応が遅れる。
そのため彼は三本目のナイフを避けられなかった。
「ぐっ!?」
僅かに身体をずらしたが右肩に朱色のナイフが突き刺さり、ゴウッと炎が上がる。
「どうだ、こいつが魔法剣の威力だぜ?」
「調子に……乗るなぁっ!!」
アンドリューの髪がぶわっと浮き上がり、それに呼応するように先ほどの硝子の柱から煙が上がり、赤みを帯びていく。
それを見たアクスの額からはたらりと汗が流れる。
「こいつは……まずい!」
アクスがそう叫んだ次の瞬間、硝子の柱が砕け散り、その破片が宙に浮かぶ。
「これで終わりにしてやる!」
その破片は意思を持っているように飛び回り、俺たちに真っ直ぐ向かってくる。
「氷刃・連打!」
俺は短剣に残った氷の魔力を刃として飛ばす。
短剣を振る度に氷の刃が発射され、硝子の破片が相殺されるが……明らかに手数が足りない、硝子が多すぎる!
鋭利な硝子の破片は俺たちの身体に赤い線を残していき、熱が走る。
「業火の剣・残留!」
アクスは大剣に炎の魔力を付与、盾のように構えて俺と背中合わせに立つ。
それでも防ぎきることはできず、鎧の隙間から鮮血が飛ぶ。
このままではジリ貧だ……どうする?
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