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第18話 もう一人の代表

漂う煙と魔力に途切れが見え始め、徐々に視界が晴れてきた。

徐々に晴れる視界に映るのは、手を合わせ、キラキラと目を輝かせたメアリス……そして……沢山の影。

美術館から出てくるということは……作品たちだろう。

そのモチーフは人型だけでなく、動物や植物、食べ物、……異形と、多岐にわたる。

メアリスの言っていた通り、彼らから感じる力は並大抵ではない、虎に睨まれているかのようだ。

そんな状況でもしなきゃいけないことがある。


「おまたせ、メアリス」

「よくがんばったな」


ここまで頑張ってくれたメアリスを労うことだ。


「それはどっちも……私のセリフだよ」


メアリスの目からは今にも涙が溢れ出しそうだ。

……が、首を振ってそれをすぐに引っ込め、俺たちをまっすぐと見つめる。

なんだ? まだ何か残っているのか?

未だ晴れない煙と魔力から一人出てきたのはそんな時だった。


「お前らが……メアリスを助けたって人間か?」


俺よりも数歳年上くらいの青年がこちらにゆっくりと歩み寄ってきた。

上から下にいくにつれ薄くなる橙のグラデーションが美しい、思わず見惚れてしまう。


「おい、質問に答えろ」


そんな俺に腹を立てたのか、がなった声でそう言ってきた。


「ご、ごめん。君が綺麗だったからつい……」

「はぁ……?」


少年は一瞬首を傾げて眉を顰めるが、すぐに胸を張って腕を腰に回す。


「当たり前だ。この身体を創ったのは宇宙最高の芸術家、ソロウ・ラインなんだからな」

「自分で言うなよ……と言いたいところなんだがな。実際この目で見たら納得せざるを得ない」

「ふん……人間にしては見る目があるようだな。だが!」


少年は俺たちを指し、大声でこう宣言した。


「俺は人間なんて信じない、信じたくない。だが、お前たちは実際にメアリスの命を助け、俺たちを美術館から解放してくれた。その点は素直に感謝してやる」

「アンドリュー、言葉には気をつけなさい。度が過ぎるようなら……」

「まぁまぁメアリス。ここはアンドリューの好きにやらせてあげようよ」


アンドリューと呼ばれた青年を諫めようとするメアリスを止めようと、後ろからぬるりと猫背の男が出てくる。

メアリスはキッとした目のまま男に振り返る。


「ザック、どういうつもり?」

「彼はいわば、メアリスと同じく代表なんだよ。人間に対して不信感を持つ家族のみんなのね。ここでメアリスが無闇にアンドリューを抑えたら逆に、人間との蟠りが消えないまま彼らについていくということになる。そうなったらどうなると思う? いずれその蟠りは僕たちの間にも広がり……家族が二分するという結果を招きかねない。反人間派と、人間派の二派閥にね。そうなるリスクを孕んでいても、メアリスはアンドリューを止めるのかい?」

「……はぁ、そこまで考えたことならいいわ。ただ……エルとアクスが命の危機に曝された時には……」

「分かっているよ。僕としても恩人が死ぬことは望ましくないからね、あはは」

「それが約束できるならいいわ。アンドリュー、そのまま続けて構わないわ」


アンドリューはメアリスのその言葉に頷きで反応し、再び俺たちに視線を向ける。


「俺は……人間に従う気はない。だが、父さんは家族を守るためには他種族を頼るべきだと、そう手紙に書いていた。……完全な心のためには()()の手を借りるのが最善だとも」

「そんなことが……」

「俺の一番大切なものは……家族だ。家族を守るためなら、幸せにするためならなんだってする。そこで……メアリスはその方法としてお前ら二人に自分たちを導いてもらうことを俺たちに提案した。前提としてお前らにその覚悟があるのか?」

「ある」


即答した。

それを聞いたアンドリューは小さく笑ったかと思えば、彼を中心に爆発が起きたように闘気が溢れ出す。


「なら……その覚悟が本物かどうかを試してやる。俺と勝負しろ」

「はぁ!? アンドリューなにを……」

「いいぜ、その勝負乗った」

「アクス!?」

「あぁ、燃えるじゃないか」

「エルまで……」

「こうなったらもう止められないね、メアリス」

「カレット……無理よ、普通の人間がアンドリューに勝てるわけがない。命を捨てるも同然よ」

「うーん、本体に戻ったばかりで目が鈍ってるのかな。私はあの二人、勝てると思うけど」


カレットと呼ばれた少女はそう言いながらメアリスの前に出る。


「ねぇねぇ、人間さんとアンドリュー。私たちはあなたたちの殺し合いは望んでないの。だからどちらかが戦闘の続行が不可能だと私が判断したら、そこで強制終了。いいよね?」

「別にいい、俺が勝つからな」

「へぇ、言うじゃねぇか。俺もそれでいいぜ」

「俺も問題ない」


俺たちの返事を聞くとカレットは満足気に頷き、俺たちとアンドリューの間に立つ。

そしてそういえば、といった感じで俺たちに目を向ける。


「私たちは丈夫だから、手足の一本や二本は切ってもらって構わないよ! とれてもくっつくし!」


いきなりそんなことを言われても飲み込めないが……きっと彼女の言葉には「そのくらいの覚悟でいかなきゃ勝てないよ」、そういう意味も込められているのだろうな。


「戦いの前に名前を名乗れ。俺は硝子の彫刻、アンドリューだ」

「冒険者、アクス・マーティンだ」

「その弟子、エル・シュライン」


────一陣の、風が吹いた。


「始め!」

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