第16話 反対だ
「……みんな、手紙を読み終えたかしら?」
みんな、読み終えたことは分かっている。
それでも聞いてしまった。
私の心臓がまだ、ドクドク鳴って止まらないから。
私が……私がこれからの人間とみんなの運命を決める……絶対に……失敗できない……
ガタガタと、音が聞こえるくらい身体が震える。
それでも……私がやらないといけない。
お父さんに、家族のみんなを託されたんだ。
ザックもカレットも、背中を押してくれたんだ。
いい加減覚悟を決めて、私。
「すぅ……ふぅ……」
息を吸って、吐いて、胸元のブローチを握りしめる。
力を貸して、お父さん……
……よし。
「みんな、手紙はどうだった?」
何十年も、何百年も前にいなくなってしまった大好きなお父さんからの手紙。
みんな、頬に涙の跡がある。
「……私は自分の手紙しか見ていないんだけど、どれも人間に関することが書いてあったんじゃないかしら?」
みんな一様に顔を見合わせる。
「私の手紙にはね……」
お父さんは私たちが自我を持っていたのを知ってたこと。
私たちの会話が聞こえていたこと。
私たちの『心』が不完全だからと、身を案じて気づかないフリをしていてくれたこと。
家族みんなが広い世界を見ることを望んでいること。
私がみんなの代表となり、導くことを任されたこと。
外に出るために魔道具を用意してくれていたこと。
他の種族の力を借りることを勧めてくれたこと。
そして……
「私は……ここに手紙を持ってくるために、みんなを救うために、最悪の結果を避けるために……ある者と協力をしたの」
私はついにそれを家族に告げる。
「それは……二人の人間」
ここでみんながざわつき始める。
ただ、最初に人間の話をした時と比べれば、批判的な意見は少ないみたい。
「実は私はさっきまで外に出ていて……魔物に殺されそうになっていたの。その二人の人間はそんな私を助けてくれた。暖かいご飯をくれた。私が人間でないことを知りながら、私の心に寄り添ってくれた。その二人がいてくれたから、こうしてみんなに手紙を渡すことができた。だから……」
だから……
「私はその二人の人間と一緒に世界を見たい。家族の運命を、一緒に背負ってもらいたい。……反対意見はあるかしら?」
二人が承諾してくれるかは分からない。
けど、私はもう知ってしまったの。
エルと、アクスと、二人といることがどれだけ楽しいかを。
頼りになるかを。
二人が、どんなに魅力的な人間かを。
だから私は……こんなわがままを二人にぶつける。
こういうところが末っ子っぽいのかしらね。
広い美術館が、静寂で包まれる。
反対する子は……いない?
それなら……!
「反対だ」
そんな私の淡い希望は、静寂は一人の家族によって破られた。
誰なのか。
「アンドリュー……」
そう、アンドリュー。
「俺は父さんの手紙を読んで、無闇やたらに人間を殺すことは間違ってること、人間にも色々なやつがいることは、理解した。メアリスを助けたという人間にも感謝している。だが……」
アンドリューは静かにこちらに歩み寄ってくる。
その両目で私のことをしっかりと見つめる。
私もじっと見つめ返す。
「憎しみが晴れた訳じゃない。人間を信用した訳でもない」
「……」
「悪いが、そのメアリスに協力した人間を見ずに俺たちの未来を預けることはできねぇ」
アンドリューの言うことは最もだ。
彼のいう通り、思考を放棄して人間を信用することは間違っている。
それは、私も散々身をもって……
……エルとアクスを疑うという行為は、家族みんなを心配するという気持ちからくるもの。
この中でただ一人、アンドリューだけが反対意見を口にしたけれど……もしかしたら、言い出せないだけで不満を持っている子がいたかもしれない。
きっとアンドリューはそこまで考えて反対と言ってくれた。
「アンドリューは、みんなを危険に晒すのが嫌なのよね」
「べ、別にそんなんじゃ……」
「いいえ、そうに決まってる」
アンドリューはなによりもみんなのことを、家族のことを一番に考えている。
自分のことよりも、家族のこと。
家族のためなら悪役だって喜んで買って出る、自分の身が傷つくことを厭わない。
それがアンドリューという男だと、私は知っている。
だからこそ、私は彼の気持ちを汲み取らなければならない。
家族の代表として。
けど……私がいくら二人の良さを伝えても、所詮人伝。
彼を納得させるには、これしかない。
「あなたの気持ちは分かった。なら……直接会って決めましょう」
ごめんなさい、二人とも。
また面倒をかけることになるみたい。
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