第120話 VSシーサーペント・1
「正直なところ、こちらから動いて見つける算段はないな。ギルドにも、図書館にも、希望の鎖に関する情報は勇者日記以外になかった。あんな怪しい書物に書いてあることなんて、普通に考えて信用できない」
「そうだね。だからベルは心配している。」
「でも、勇者日記に書いてあることに関しては真実だと思うぞ」
「それはなぜ?」
「番人の話があっただろう? 片方のトレドラ、というのは分からないが、カイン船長とやらは実際にシガーが会話までしたことがあるわけだし、幽霊という特殊な境遇にあることまで分かっている。希望の鎖はまだしも、船長で幽霊、こんな特殊な存在の情報が出回らないなんて普通は考えられない。シガーの正しい情報を掴んでいたシャーロットでさえその船長については言及していなかったんだ。つまり……」
「相当な情報秘匿能力を持っている。」
「そうだ。本当に勇者の関係者であったなら、ましてや財宝の防衛を任されるくらいなのだからその能力の高さにも納得がいくだろう?」
「なるほど。そう考えると確かに情報の確度は高そう。それについては分かった。じゃあその問題の鎖はどうやって見つける?」
「船長を探すんだ。さっき言った通り船長を見つけるのは難しいだろうが、こんな船目立つに決まっているし、シガーもいる。だからきっと向こうから接触を図ってくると思うんだ。さすがに希望的観測が過ぎるだろうか」
「……いや。勇者日記にはこう書いてあった。『 君が優しい心を持っていれば、必ず辿り着ける。』と。エルなら問題ない。」
なんだかこそばゆい納得のされ方だが、ベルが賛同してくれてよかった。
しかし自分で言っておいてなんだが、こちらからなにかアクションを起こせないだろうか。
流石になにもせず待っているのは……
「おい、魔物の群れだ。シーサーペント六体が接近中」
「シーサーペントか……索敵ありがとうシガー」
「礼の前に作戦考えろ」
相変わらず口が悪いな……
シーサーペント、Bランクの魔物で高い物理攻撃力と強力な水魔法を扱うかなり強い魔物だ。
海の魔物ということもあり、人間にとっては厄介な魔物だ。
「ん~……シガー、シーサーペントを一瞬だけでも打ち上げられないか?」
「めんどうだができる」
「俺、メアリス、ベル、アナ、メディアス、シガーで戦えるのはちょうど六人だ。一人一体で綺麗に倒せないかなぁと」
「異論ない。合図で打ち上げるからそっちは頼むぞ」
「あぁ、任せろ。みんなもそれでいいか?」
「「「合点承知の助~」」」
「わたしは応援役ーぱふぱふー」
緩いし合点承知の助だし……
まぁいいか。
「……来る」
シガーがそういった直後。
「「グオオオオォォォォン!!!」」
辺りの空気を切り裂くような恐ろしい雄たけびとともに、シーサーペントが二体、顔を出した。
「ばかが、所詮魔物だな」
シガーはシーサーペントに向けて手を翳し、数えきれないほどの水の槍を射出する。
海にいるシガーに制限などない。
10、20、50、100……数えるのも億劫なくらいの槍がシーサーペントを襲う。
『ふおぉ……これもう口悪娘だけで充分なのではないか?』
「口悪娘って……シーサーペントは結構丈夫な魔物だし何回か貫かれたくらいじゃ死なないぞ」
「そもそも。あれは攻撃目的じゃない。」
『む? それはどういう……』
アナの疑問の答えはすぐに出た。
シガーの水の槍はシーサーペントに向かっていくものの、直撃することはない。
なのでシーサーペントは迎撃態勢をとることなくシガーに接近する。
しかし水の槍はいつの間にかシーサーペントを囲い込み……
「形を成せ」
たくさんの水の槍は崩れ落ち、シーサーペントを囲い込む水球となる。
そしてシガーはそこに向かって魔力の衝撃波を飛ばす。
するとシーサーペントごと水球が打ち上がった。
「今だ、やれ」
「ベルたちに。」
『任せるのだ!』
ベルとアナが予め構築しておいた魔法陣をシーサーペントに向ける。
「『アイシクルストーム・チェイン・アイスミスト!』」
アナとベルの氷連鎖魔法が発動した。
絶対零度と読んで差し支えないそれは瞬く間に水球を凍らせ、シーサーペントは身動きひとつとれなくなる。
「アナ。」
『分かっているのだ!』
アナがベルの頭を蹴って跳ぶ。
『バラバラになるのだ!』
アナの小さな手が雷光の如く光り輝き、それが凍った水球に触れると……
──────ガシャァァァァン
『ふはは! 粉々なのだ!』
流石は我らがエース、いいスタートを切ってくれたな。
「「「グオォォォオォォオン!」」」




