表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/133

第118話 クティとシガーの想い

「はぁ……久しぶりに動いて疲れた」


図書館で情報を見つけ、宿でその情報共有した後はエルたちが冒険の準備と言って食べ物とかを買い込んでいた。

途中資金調達のためにメアリスのブローチから魔石を出して換金したみたいだ。

あんなデタラメな魔道具、見たことねぇ。


「そもそも、人間の街だって初めて見たしな」


足が動かないあたしは当然海の外から出たことはない。

出たくても出れない。

あたしは海が嫌いだった。

弱肉強食で弱いやつが死んでいくこの海が許せない。


あたしは原初の種(オリジン)の海獣として生まれ、本来強者側に属されるはずだった存在。


だが、神はあたしに全てを与えてはくれなかった。


別に弱者になったからどうこうとか、そんなことを言うつもりはない。

めんどうくせぇしな。


でも……もしあたしが強者だったらと考えたことがないわけじゃない。

あたしが強ければ、クティも助けられたかもしれねぇし、母さんだって父さんだって…………


「……くそが。めんどうくせぇ…………」


あたしは後悔が嫌いだ。

めんどうくせぇからな。


だとしても、あたしは後悔し続ける。

その後悔を糧にして、大切な人を守るために。

クティはもちろん、あたしを助けてくれたエル、メアリス、ベル、メディアス。

こいつらに恩返しするためには強くならなくちゃいけない。

守らなくちゃいけない。


弱者であるあたしを助けてくれる強者たち。

今思えば、船長もそんな気持ちであたしを船員とやらにしようとしていたのかもな。


「……あー、あれこれ考えるのはめんどうくせぇ」


そう思ってあたしは目を閉じようとした。

けど、それは叶わなかった。



◇◇◇◇◇



「うーん、寝れないなー。図書館で思い出したことが気になる」


図書館でエルに頭を撫でられた時、誰かを思い出した。

ごわわわわぁって記憶が溢れた気がする。


わたしにとって、すごく大事な人。

いや、人なのかな?


わたしはどこで生まれたのか、誰から生まれたのか、自分はなんなのか…………家族は居たのか。

全部ぜーんぶ知らない。


「いつもみたいにキュピンって思い出せたらいいのに」


あの時思い出した人はわたしの家族なのかな。

友達なのかな。

それともなんでもないただの他人?


……考えても分からない。

めんどうくせぇ。


「……ぷぷ」


わたしはシガーを思い出して思わず笑いが零れる。

そういえば、最初に会った時のシガーは面白かったなぁ。


どうやって会ったんだっけ?

うーんと、うーんと…………うーん、ずわぁって感じで思い出せないなぁ。

シガーと会った思い出は大切なはずなのに。

わたし、そんな大切なこととかいっぱい忘れて…………最低なやつ?


…………こんな最低なわたしをシガーは嫌ってないかな。

エルたちを連れてきた時だって、わたしが勝手に…………


「……うん?」


シガーの声が頭に流れてくる。

もしかしてまだ起きてるのかな?

なんか悲しそうな感じ。

青色の感情。

悩んでるのかな?


このわたしがずばぁっと!

その悩みを解決してしんぜよう!!



◇◇◇◇◇



「バァ! シガー、なんか悩んでるよね? よねよね?」

「うるせぇな、静かにしろ。あいつらが起きるだろ」

「あ、めんごめんご」

「ったく、めんどうくせぇな……」


せっかく寝ようと思っていたのに。

本当にこいつはめんどうくせぇ。


「だって、悩んでるシガーをほっとけないもん。わたしたちともともだーちでしょ?」

「ったく、相変わらずお人好しだなお前は。困ってるやつなんかほっとけばいいんだよ。弱者を助けられるのは余裕がある強者だけ。それ以外が助けようとしても中途半端な結果に終わるんだ」

「なら、強者になればいいんだよ! わたしはシガーのために、エルたちのために強くなるんだ!」

「強者になる……そうだな、そこには同意する。今まであたしは生き残るために強くなってきた。なら次は助けるために強くなる」

「うんうん! いいことだねー。でも、シガーの言ってることはちょっと間違ってると思うよ?」


クティはあたしを見つめて微笑む。


「どこが間違ってるんだ、言ってみろ」

「ぷぷぷ、それは自分で気づかないとだめでーす。ぶっぶー」

「なんだよそれ、めんどうくせぇな」


本当にめんどうくせぇ。

こいつみたいに心を読む力があったらいいのにな。

もし心を読めたら、今すぐ答えを知ることが出来るのに。


「シガー、それは不正っていうんだよ?」

「心を読むな。簡単なら簡単なほど得だろ。海で生きていた時もそうだった。簡単に餌を取れる時は労力もかからず、時間もかからない。敵を迎撃する余力を残せる」

「あーもう、シガーは現実主義だなー。頭カチコチ野郎じゃん」

「うるせぇ。実現しないことを考えてもしょうがねぇんだ」


……考えてもしょうがないと、分かっているのにな。


「あー! 今心読み損ねた! 教えて! 何考えてたか教えて! ぎゅぴんして! てるみー!」

「めんどうくせぇ、黙れ」


なにもかも全部、めんどうだ。

でも、やらなきゃいけないことだけはやるんだ。

それが、母さんと父さんの教えだから。

あたしは必ず、クティを助ける。

エルたちに恩返しする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ