第117話 鎖を守る者
「希望の鎖という魔道具なら…………シガーを助けられるかもしれない」
「希望の鎖……それならシガーを助けられるかもしれないんだ!! よーし、じゃあ早速行こう!!」
「め、メアリス、図書館では静かにしないと……」
「コラ! そこのお嬢ちゃん、図書館では静かになさい! おばちゃんに追い出されたくなかったらね!!」
「ご、ごめんなさい……」
鬼のような形相をした管理人さんがメアリスを叱責した。
これにはメアリスも恐怖を覚えたのか少し涙目になっている。
「え、えーっと……ここじゃあ話しにくいだろうし、一度宿に帰ろう。ここだと騒ぎになってシガーも出て来れないしな」
みんなはコクリと頷いて返事をしてくれた。
おばちゃんが相当怖いのだろう。
その後、俺たちはほとんどの音を出さずに図書館を去った。
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「ふぅ……なんとか魔王から逃れられたね」
「うん。あれは強敵だった。」
「ただのおばちゃんやで!?」
「わたしたちが行ってもバチボコにやられるだけ……あとはみんなに任せよう」
「みんなって誰や!?」
宿に帰って早々、謎の漫才が始まる。
仲が良いのはいいことだ。
「お前、親父みたいな目線でこいつらのこと見てるんだな」
「シガー、そんなことないと思うぞ? たしかに俺たちは仲間だが…………」
「ほえー……素敵だね。家族かぁー。わたしも会いたいなぁ」
クティの家族か……どんな鳥なのだろうか…………ん?
今、すごくシガーが苦い顔をしたように見えた。
「…………それで、なにか良い情報は見つかったか?」
そのことについて考える間もなく、シガーから問いが投げかけられる。
「あぁ……確率は低いかもしれないが……シガーを助けられる可能性がある魔道具の情報を手に入れた」
「そうか。わざわざここまでしてくれて感謝しかない。ありがとう」
シガーが座ったまま頭を下げる。
「俺たちがやりたくてやってることだ、お礼はいらないよ。それで……その魔道具は…………」
俺はみんなに希望の鎖について説明した。
元は虚無の鎖という、力を吸い尽くす魔道具だったこと。
無限の力を持つと言われる勇者の力がそれを上回り、希望の鎖という強力な魔道具になったこと。
そしてそんな無限の力を持つ魔道具ならば…………シガーを助けられる可能性もある、ということ。
余談ではあるが、回復系の魔道具の書物も漁るには漁った。
だが、先天異常を治すことのできるようなものは記述されていなかった。
そんな絶望的な状況の中、可能性が無限大の希望の鎖についての本が見つかった。
諦めるつもりはないが、今のところもうこれに賭けるしかない。
「シャイレーツ海にあるなら、元のエルの目的もついでに達成できるんじゃない?」
「場所の記憶を見る魔道具……シャイレーツ海にあるとシャーロットも言っていたな。希望の鎖を手に入れた後にいただくとするか」
場所の記憶を見る魔道具…………これで、俺の故郷になにがあったのかの手がかりを得ることができるかもしれないのだ。
「…………それにしても、船長か」
「うん? シガー、知ってるのか?」
「知っているというか……シャイレーツ海には変わり者の船長がいるんだよ。あたしに船員になれってしつこく言ってくるうざい男だ」
「人間なのに原初の種を見てその反応かいな。強引に連れていくようなことはしないんやね」
「いや……そいつは人間じゃない、元人間の、幽霊だ」
これには全員が目を丸くして驚く。
なるほど……半不死身の幽霊なら勇者に任せられた初代勇者に託された、シャイレーツ海を守るという使命を果たすことが可能だ。
「……ということは。その船長に会えば。希望の鎖に辿り着ける?」
「そっか! あの日記の通りならその船長は希望の鎖を託されているはずだね! やったねクティ、シガー!」
「あぁ……希望が見えてきたな」
「これでシガーの足もきゅわわわんできちゃうね!」
皆がワイワイとはしゃぐ。
シガーを助けるという目標に大きく近づいたんだ、そりゃはしゃぐよな。
「よし……それじゃあ、シガーを助けるために船長に会いに行くぞー!」
「「「『合点承知之助!』」」」
「のすけのすけ!」
「なんだよそれ……」




