第114話 希望と涙
「うっし、ほんじゃあ始めるで。準備はええか?」
「あぁ」
俺たちは一度シガーの診察をするために一度マリエスタの宿をとった。
ベルの魔法で扉が開くこともないので、完全なるプライベート空間だ。
メディアスの脚も、ベルの羽も、見られたら正体がバレてしまうからな。
「ベルもサポートする。前みたいに良くないものが入ってる可能性もある。」
「せやね、正直あれは二度とやりたくあらへんわ」
メディアスは深呼吸をして一度肩の力を抜き、背中の脚を展開する。
「おお……ずばばばって出てきた……かっこいい……」
メディアスは少し顔を赤らめながらシガーの口に糸を挿入していき、喉から体内に侵入する。
両手の指十本、背中の脚六本、合計十六本の糸がシガーの体内を駆け回る。
「うえ……気持ちわりぃ…………」
「すまんな、ちょいとだけ我慢してや」
「それとも。魔法で寝る?」
「……いや、いい。めんどうくせぇし」
シガーはそう言って目を閉じる。
「キツかったら無理せんで言ってや。こっから長いで」
「分かった」
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それからしばらく経ち、ベルとメディアスは苦い表情を浮かべる。
「────…………完全に先天的なものらしいな。呪いとかの痕跡は見つからへん」
「うん。ベルにも見つからなかった。解呪だけで済ませられればまだ楽だったけど。」
「そんな……! それじゃあシガーは……!」
「大丈夫や。治す方法がないわけやない。ただその道はごっつ厳しいもんになるがな」
「……うん。多分メディアスとは違うけど。ベルも治す方法思いついた。」
二人の言葉を聞いてクティの顔が輝く。
「おお、二通りも助け方があるってことだね! 大丈夫だよシガー、クティ! 私たちが絶対になんとかしてみせる!」
『そうなのだ! 誇り高き神獣であるわがはいも約束してやるのだ!』
「みんなの言う通り、俺たちに任せてくれ」
どんなに厳しいものであろうと、俺たちはやりたいことをやるだけだ。
シガーを助けたいと思ったから助ける。
みんな、その想いを胸に抱いているからこその発言だ。
「お前ら……ありがとう」
「わたしも! 出来ることはなんでもやるよ!」
「あぁ、その時はよろしく頼む。それで……二人の解決案を聞かせてくれるか?」
「ほんじゃうちの案から挙げさせてもらうで。端的に言ってしまえば、特別な薬を作る。これや」
特別な薬……毒蜘蛛種で薬のエキスパートのメディアスがそう言うくらいなのだから、シガーの身体異常が治せてもおかしくはない。
「どうやって作ればいいの?」
「せやね……ある程度の材料はうちが持っとるか、メアリスのブローチに入っとる魔物の素材を使えば揃っとるはずや」
「なら……!」
「ただ、ここからが問題や。今そんな薬が作れるならもうやっとる。シガーを治療するための薬にはある特別な材料が足りないんよ」
「それってなに?」
「神の涙っちゅーごっつレアな代物や」
神の涙……
「神の涙……聞いたことある。どんな病も根本から治し。死以外の状態からなら元気百億パーセントになれる。そんな言い伝えがあった。気がする。」
「おー! これがあればシガーが助けられるね! やったー!」
「メアリス、残念ながらそう簡単にいくもんやないんや。さっき言った通り、神の涙はごっつレアな素材。おとぎ話にもなるくらいの伝説級な素材なんや」
『大事なことだから二回言ったのだ』
神の涙……確か俺も聞いたことがある。
お母さんが読んでくれた物語に出てきたはずだ。
その物語では…………どうやって神の涙を入手したんだろう…………
頭の中を必死に掻き回すが、てんで思い出せない。
今思い出さなくていつ思い出すんだ…………!
「……そういえば。アナは知らないの? 神の涙って言うくらいなら。神獣のアナは知ってそうだけど。」
『……心当たりがないわけではないのだ。だが、現時点でそこに行くことは不可能なのだ』
「方法があるの!? 教えて!! わたしにどっかんばちこり教えて!!」
クティが凄まじい形相でアナに詰め寄る。
思わずアナは後ずさりしてしまうが、クティの真剣な眼差しを見て話すことを決めた。
『……天界なのだ。神の涙は文字通り、神様の涙なのだ。この神の涙というのは神の子……つまりは天使族のみが作り出すことのできるものなのだ』
「天使族か……」
原初の種の一種、天使族。
彼らは神の子と呼ばれ、天界の秩序を守り、神の意思を実行するため行動していると言われている。
「天使族……確かに今会うことは不可能に近い。」
「なんで会えないの?」
メアリスが首を傾けてベルの方を向く。
「天使族は天界にしか居ない。地上に降りてくることはほぼ有り得ない。天界に行く手段を持っているのは限られた者だけ。」
「限られた者……たとえば?」
「もちろん天使族。神様に認められた者と。あとは……勇者。」
……ここで出るか、勇者。
「じゃあロイドに頼めばいいってことだね! それなら行けるよ!」
「いや。恐らくロイドはまだ天界には行けない。勇者が天界に行くことができるタイミングは一回しかない。」
「そのタイミングって?」
「初代勇者から代々引き継がれてきた伝説の剣。それを受け取りに行く時だけ。」
「ほんなら今貰い行けばいいんやないの?」
「それは無理。勇者がその剣に相応しい力を身につけた時。初めて天界側からのコンタクトが来る。」
初めて聞く話だな…………。
ロイドはこのことを知っているのだろうか?
……それにしても、ベルは色んなことを知っているな。
精霊族の里で習うことなのかもしれない。




