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第112話 勇者としての責務

「それで……君たちはこんなところで何をしていたんだい?」

「それは……」

「人が来た気配を感じて隠れる……単刀直入に言うけど、僕たちは君たちを疑っているんだ。なにかよからぬ事を企んでるんじゃないか……ってね」


ロイドは剣の鞘に手をかけ、先程までのニコニコ顔とは打って変わって鋭い表情と圧をこちらに向ける。


…………正直に言うべきだろうか?

勇者とはいえ、まだ俺たちはロイドのことをよく知らない。

信用に足る人物か分からない。

そのような人物にシガーのことを話してもいいのか?


それに冒険者ギルドで分かったが、ロイドたちがここまで来た理由は原初の種(オリジン)……海獣のシガーだ。


どうするべきだろうか……?


「答えられないのかい?」

「うっ……」

「めんどうくせぇな、お前の優しさには呆れしか感じない」

「なっ!?」


このだるそうな声は…………!


俺は声のした方向に顔を向ける。


「なぁ、エル・シュライン」

「シガー!? なんで出てきたんだ!?」

「嘘でしょ!? いつの間に!?」


俺が顔を向けた先には、地べたに座り込んだシガーが居た。


メアリスがブローチを触って慌てふためいている。


「まさか……君は……」

「エル、お前は優しすぎる。さっさとあたしを売っちまえばこいつに疑われることもねぇだろ」

「それは……」

「こいつは一度お前の目を見て敵じゃないと判断している。あたしが出てきたところで特に疑われもしねぇだろ。こいつは一度言ったことを曲げるような人間には見えねぇしな。どうせエルを試すためにカマかけたんだろ」


シガーはギロリとロイドを睨む。


「あはは……全部お見通しだね。海獣さん」

「ここに来てある程度人間を見てきたからな。てめぇみたいのを見るのは二回目だが」


シガーは俺の方を向きながらそう言う。


「……とりあえず、話を聞かせてもらってもいいかな?」

『……聞け、エルよ! ここは…………』



--------------------



「ふむ、なるほどね……」

「てか、それって結構すごくない?」

「なくなくないじゃなくなってなくなくない?」

「なくなくないのが良かったりしなくなくなくなくなかったりしちゃう?」

「なくなくない方が絶対良くなくなくなくなくなくなくなく……」

「流石にうるさいっしょ!?」


俺たちはロイドたちにこう説明した。

とある情報屋から原初の種、シガーが狙われていることを聞き、マリエスタにやってきたこと。

そして、マリエスタギルドでのロイドと職員の会話を聞いて、シャイレーツ海の砂浜でシガーを探した。

結果的にシガーを見つけ、そこでシガーの身体異常を治すためについてきてもらっている。


クティのことはアナからの指示で伏せておいた。

どうやらロイドは『魔眼』という生まれ持った特殊スキルがあるらしく、簡単な嘘が見抜かれてしまう可能性があるらしい。

なのでクティの関連する部分は省略してロイドに説明した。


「それじゃあシガーはエルたちについていくのかい?」

「あぁ。あたしはエルなら信じられる」

「シガー……」


シガーは安らかな笑顔でそう言った。

そんな優しい表情は今初めて見たので、とても嬉しい。


「ところで……治す算段はあるのかい? 話を聞く限り先天性のものだと思うんだけど……」

「正直なところ……ないな」

「そうなのかい…………本当は僕たちも協力したいんだけど、これ以上勝手に動いたら上に叱られてしまうからね……」

「そんな、勇者に協力してもらうなんて……魔王を討伐する旅を邪魔することなんてできない」

「…………そうだね。でも、もし僕たちに協力を頼みたかったら遠慮なく言ってくれ。困っているシガーを放っておけない」


そう言うロイドの表情はすごく悔しそうだ。

目の届くところに居る困っている人は放っておけないような性格なのだろう。

俺と同じだ。

本当は全て助けたいのに、勇者という使命が邪魔をする。

だが、その使命はロイドにしか果たせないものなのだ。


数え切れない程の人たちの命や想いを背負っていながら、そのような想いを持っているなんて…………

俺は一瞬でロイドに憧れの感情を抱いた。


「君たちを信用してこれを預ける。受け取ってくれ」


ロイドは勾玉のようなものを俺に手渡す。


「これは……?」

「僕たちと連絡をとるためのものさ。一種の魔道具だね。まぁ、厳密には魔道具ではないんだけど……」

「そんなもの、俺たちが貰ってもいいのか?」

「うん。君たちのことを完全に信用した、というわけではないけど……僕の目が君たちのことを善と判断したからね。そもそも悪用されて困るものでもないしね」

「そうか……ありがとう」

「それに、シガーの動向が気になる。流石に原初の種と一緒にいる冒険者を放っておくことはできないんだ。いわば、監視かな? 包み隠さず言ってしまうけど……敵になったら厄介だからね」


ロイドは良くも悪くも正直なところがある。

完全に信用したわけではないと心の内を正直に話し、魔道具も俺たちの監視のために渡したとまで言ってしまう。

そしていざとなれば敵対するという宣言さえも。


この魔道具がどの程度俺たちのことを視ることができるのか…………


最悪、全員の正体が割れてしまう。

しかしここで魔道具をロイドに返すと言ってしまえばやましいことがあると言っているのと同じだ。

かといって魔道具の効果がどの程度なのかまで聞いても怪しい。

また、頭を悩ませる要因が増えてしまったな。

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