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第111話 交錯する思惑

「エル・シュラインといいます。無礼な真似をして申し訳ありません、勇者様」


俺は頭を深々と下げる。

頭を下げる俺を見て勇者様たちは慌てる。


「そんな、頭を上げてくれ。僕たちは頭を下げられるような上等な存在じゃない」

「そうだぜ、ロイドっちの言う通り。気楽にやってほしいっしょ」

「ですが……」

「君たちに敵意がないことは目を見て分かった、それだけで充分だよ。僕はロイド・サンチェスっていうんだ、よろしく!」

「……よろしくお願いします」

「敬語はなしで!」

「それは……」

「なしで!」


勇者様……ロイド様は至極当然のことを言っているような顔をしている。

…………そんなにニコニコされたら断るに断れないな。


「よ、よろしく」

「声が小さいもう一回!」

「よろしく!! ロイド!!」


俺の大声でのよろしくを聞いてロイドさ……ロイドは満足げに頷く。


「合格だ!! これからよろしく、エル! 君たちも自己紹介して欲しいんだけど、いいかな?」

「それならおれらから自己紹介した方がいいだろ」

「じゃあうちから自己紹介っちゃうわー」


独特な言葉使いなポニーテールの女性が前に出る。

そして手に杖を出現させてポーズをとる。


「うちの名前はキャンディ・メイジャってんだよねー。気軽にキャンちゃんとかメイちゃんとか呼んでくれちゃっておっけー! この勇者パーティでは魔法使いやってなくなくなかったりするよ!」

「キャンディ、初対面の方々にまでそのような言葉使いを……」

「そんなこといいからいいから! 次はアリスの番だよ!」

「全く……コホン」


白い服に身を包んだ女性はキャンディに呆れる様子を見せながらも、姿勢を正してこちらをまっすぐと見つめる。


(わたくし)の名前はアリス・ベネット。人々を苦しめる魔王を討伐するため、僧侶としてロイドたちとともに旅をしています」


僧侶、神官と言われる職業だ。

女性の場合はシスターと呼ばれることもある。

神に信仰を捧げることによって神聖魔術を授かり、その神聖魔術を使って人々を癒す職業らしいな。


「んじゃ、最後はおれっちだな!」


身軽そうな服装の男が縦に回転しながら前に出る。

ものすごい身体能力だ。


「おれっちの名前はジャック・ロバーツ! 元冒険者だったんだけど、ロイドっちに誘われて勇者パーティに入ったんだよねー。こんなだけど、一応色んな武器使えるオールラウンダー的なのやってるんだぜ? すごいっしょ?」

「ふふん、色んな武器を使うことなら私も負けないんだから!」


ここでなぜかメアリスが対抗心を燃やし、ジャックと同じようにバク転をしてドヤ顔を見せる。


「おお、嬢ちゃん見かけに反してすごいっしょ!」

「それほどでもあるよー! あ、私の名前はメアリス・ローザ! 趣味は外道をボコ……」

「はいはいー! とんでもないこと言い出す前にストップや!」


メディアスはメアリスを遮るように前に滑り込む。

メディアス、ナイスストップだ。


「うちの名前はメディアス・アデニウム! このパーティでは毒を利用した戦い方をするでー、これからよろしゅーな!」

「よろしゅー! ぷはっ、ウケるんですけど!」

「そんな失礼なこと言われたらうちの毒が暴れてしまいそうやわー、あぁ、ドロドロに溶けていくなんてかわいそうやなぁ」

「ちょっと、それ怖くなくなくない? スライムみたいになっちゃうんですけど」


そんな言葉とは裏腹にキャンディはヘラヘラと笑う。

そんな様子を見たジャックはキラキラとした目でキャンディを見つめる。

だが、そんなキラキラな目は本人の失言のせいで長くは続かない。


「おお、キャンディもついにペチャパイそつぎょぐはぁっ!?」


ジャックにキャンディの鉄拳が降り注いだ。


「ジャック、次言ったらアンタがドロドロに溶けてなくなるよ? それでよかったりしちゃうよね?」

「うちも手伝うで。女のデリケートな部分に触れる男は滅菌消毒や」

「え、いやまっ……アリス助け」

「大人しく裁きを受けなさい」

「そ、そんなぁ!? え、ちょ、無言でよってくるのはやめ…………あ、あ……」


キャンディに殴られ、尻もちを着いたジャックは拳をポキポキ鳴らしながら迫る二人から遠ざかろうとする。

しかし、それは無駄な抵抗で…………


「───な、なにをするだーーー!!!!!」

「ベルの名前はベル・フローレス。この変なリスと鳥を操るビーストテイマー。」

「キュイ!」

「ぴ、ぴよー!」

「ビーストテイマーなのか、よろしく頼むよ。ベル君」

「うん。よろしく。」

「なんで何事もなかったように握手できるんだ!?」


二人は何事もなかったかのように普通に握手する。

この二人には横で起こっている事が見えていないのだろうか……?


横で起こっていることのせいでベルのファインプレーの凄さが薄れてしまっている。

だが、その裏ではレベルの高い読み合いが行われていた。


(ベル、隠しているとはいえただならぬ魔力だ。握手をしなければ魔力を隠していることに気づかなかったな。ものすごい魔力制御の技術だ。僕の魔眼を持ってしても見抜けなかった。魔力を隠している理由はなんだろうか? ベルがテイムしているというこの二匹も気になるな。通常の獣からは決して感じられない力を感じる。僕たちの敵になるか……見極めた方がよさそうだね。こんな魔力の持ち主をパーティに入れているエルも気になるところだね)


(ロイド。陽気でマイペースな男に見えて。とんでもない力を持ってる。それに加えて魔眼持ち? おそらくベルの魔力に気づいているけど。多分心を読む魔法を使ったらバレる。魔眼持ちならアナのことも看破されてるだろうし。人間の中心的存在であるロイドにベルたちの正体がバレたらまずい。母上に怒られる。)


(ふむ、この勇者とやらは悪いヤツでは無さそうなのだ。エルと同じ、綺麗な心の持ち主なのだ。こやつならば仮にわがはいたちの正体がバレても問題なかろうなのだ。ただ…………なにか不気味さを感じるのだ。用心するに越したことはないのだ)


(ちょっとちょっと! このバリバリバリッて感じのオーラすっごいよ! あの方みたい! とと、はしゃいでる場合じゃないや。わたしがシガーを守るんだ。もしかしたら悪いやつかもしれないし、目をキランキランさせておかなくちゃ!)


四人の交錯する想い、そして疑い。

果たして何が正解で、間違いなのか。

それともそもそもそのようなものは存在しないのか。

勇者ロイドとエルのパーティ頭脳派、ベルの戦い。

どちらが上をいくのだろうか?

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