第110話 勇者来襲
「みんな、隠れた方がええで。人間が来よった。それも、かなりの大物や。警戒のために張り巡らせといたうちの糸にひっかかったわ」
メディアスのその言葉に全員の緊張感が高まる。
「ベルの魔法で姿を消す。全員物陰に隠れて待機。」
「シガーは俺が運ぶ。いいか?」
「あぁ、頼んだ」
シガーは意外とすんなりと俺に運ばせることを受け入れた。
砂浜にはほとんど障害物はないが、唯一ある大きな岩の後ろに回る。
「ライネル。」
ベルは俺たちに幻影魔法をかける。
その魔法が発動した瞬間自分はおろか、腕にいるシガーの姿さえも見えなくなる。
流石ベルの魔法だ。
……って、あれは…………!?
「うーん、最初に掴んだ情報ではここ辺りに原初の種がいるはずなんだけど」
「情報が錯綜しすぎてよく分からなかったよなー」
「それなー。でもほっとくわけにはいかないしー」
「神の僕として困っている原初の種を放っておくわけにはいきません、頑張って探しましょう」
「困ってるとは限らなくなくなくない?」
勇者様御一行…………
「……ねぇねぇ、あれって勇者パーティってやつだよね?」
「……そうだな、原初の種を探しに来たんだろう」
ここに原初の種がいると踏んでの行動だろうか?
あの錯綜した情報の中からそれを判断したのだとしたら……かなりの切れ者ということになる。
「…………」
「……ロイド、近くに……」
「うん、分かってるよ」
勇者様が鞘に収まった剣を抜く。
それに呼応するように他のメンバーも各々の武器を取り出して構える。
「おーーい!! 近くに誰かいるんだろうー!? 隠れて僕らを見るのはやめて、姿を見せてくれないかー!!」
…………もしかして……
「……信じられない。ベルの幻影魔法が見破られた。」
「なっ……」
「ちょちょちょ、てことは今うちらあいつらに敵って見られてるってことかいな!?」
「それに、恐らく狙いはシガーだ。悪いようにはしないだろうが……原初の種と共にいる俺たちを怪しく思うことはほぼ間違いない」
「そんな……」
俺たちが話し合っていると、勇者様がまた大きな声を上げる。
「出てこないってことは、君たちを敵として見て良いってことかい!? 敵意がないことを示してくれれば僕らも武器を降ろす!! 無意味な争いはしたくないから出てきてくれ!!」
「うちら、自分で言うのもなんだけど超絶強いよー? 敵に回したらやばかったりしちゃうよー?」
勇者様を敵に回すのはまずい、まずすぎる。
世界を敵に回すのと同等だ。
だが、シガーを抱えたままでは…………
…………いや、メアリスなら……
「ど、どどどどどないするんや!?」
「…………ベルは羽を隠して、メディアスの後ろの脚も隠してくれ」
「了解。」
「メアリスはシガーを預かってくれるか?」
「ブローチに入ってもらう?」
「あぁ、頼む」
流石メアリスだ、俺の考えを即座に読み取ってくれた。
テキパキと動く俺たちにシガーは戸惑いの顔で俺たちを見つめる。
「ブローチに……なんだ、さっきから何言ってんだお前ら」
「時間がないから……とりあえず今はメアリスのブローチに触れてみてくれ」
「シガー、エルたちなら大丈夫。きっと変なことは起こらないよ」
「……分かった」
シガーがメアリスのブローチに触れると、吸い込まれるように消えていった。
「うそぉ!? シュルルルルって……」
「クティ、いきなりですまない。後でちゃんと説明する。ベル、幻影魔法を解除してくれ」
「了解。解除。」
ベルがパチンと指を鳴らすと幻影魔法が解除され、俺たちの姿が露わになる。
それを確認して俺たちは岩場の影から出た。
「……出てきてくれてありがとう。って、君はギルドに居た……」




