第108話 VSシガー・4
シガーが足元に槍を突き刺す。
すると、水の柱が地中から出現し、シガーを持ち上げる。
「卑怯かとも思ったが、生憎と負けられないんだよ」
「なんのことかよく分かんないけど、串刺しパーティだよー!」
どんな物騒なパーティだよ!
と、それはともかく……刃が届かない位置に行かれてしまった。
一度引くべきか?
いや、今流れを掴んでいるのはこちらだ。
ここは無理にでも流れを維持するべきだな。
「アイシクルストーム・チェイン・テンペストアッパー!」
「アークライト・チェイン・ダークインフェクション。」
ベルもそう考えたのか、連鎖魔法を素早く唱える。
二つの連鎖魔法、これをさっきのように受け流すことは負傷したシガーには至難なはず!
これに加えてメアリスのフォーク、臨機応変に動けるメディアスがフリーである。
ここで仕留める!
「おいおい、そんなに焦るなよ」
そう言い、シガーの手から大量の水が放たれる。
この砂浜を覆い尽くすほど凄まじい量だ。
「水には氷みたいに相手を凍らせる力はねぇ。炎みたいに派手に相手を燃やし尽くす力もねぇ。だがなぁ、水にはどんな形にでもなれる自由さがあるんだよ」
そう言いながらシガーはまだ水を生み出す。
なんだ?
なにが狙いなんだ?
「なんだかまだ終わらなそうだから、これあげる! ドロウ!」
メアリスがパレットナイフを大量に生み出してフォークに続かせ、その場から離脱する。
もうその時には二つの連鎖魔法と大量のフォーク、パレットナイフがシガーの眼前に迫っていた。
「…………きた」
シガーがそう呟やいた瞬間…………
「な、なんだあれ……」
俺たちの前に水の龍が現れる。
「やれ」
シガーがそう言うと、水の龍は俺とベル二人の連鎖魔法を防ぐだけに留まらず、フォークもパレットナイフも全て防ぎきってしまった。
なんだ今のは!?
超級魔法か?
いや、超級魔法を無詠唱で行使するなんて有り得ない。
だがそれ以外に今の攻撃全てを防ぎ切る手段があるのか?
「……なるほど。これはまずい。」
『うむ。これはわがはいも本気にならざるを得ないのだ』
「な、なんや? 何が起こったんや?」
「俺もよく分からないんだが……教えてくれるか?」
ベルとアナは気づいているらしく、苦い表情を浮かべている。
相変わらずベルは真顔であるが。
「シガーは海を操っている。自分の生み出した水と海を同化させることによって海に自身の魔力回路を……」
「も、もうちょっと簡単に頼む……」
「シガーは海にある無尽蔵の水を操れる。ベルたちの攻撃は全てそれによって破壊された。」
「端的に絶望させてくれてありがとう! 勝てる気しなくない!?」
「…………いや、勝てる。まだあの作戦は生きてるからな」
「そっか! 確かに!」
俺はその作戦の重要人物に顔を向けた。
その人物は緊張する様子も見せながらも力強く首を振る。
「海を操ろうと、俺たちの覚悟は揺るぎない! 絶対にシガーを助けるぞ!」
「「「合点承知之助!!!」」」
『フハハハハハハハ!! ついにわがはいの出番なのだ!! ゆくのだベル!!』
「油断しないでよ。守護者形態。起動。」
その力ある言葉が発せられると同時にアナの身体が神の光で輝く。
「なんだあれは……よく分からねぇが、めんどうくせぇことに違いねぇ。さっさと潰させてもらう。くらえ!」
シガーは海の水を操って俺たちの周りに水の渦を作り出す。
魔力で水を生成する必要のなくなったシガーには詠唱など不要だった。
飲み込まれたら……終わりだ。
しかし、我らがエースはそんな逆境を跳ね除ける力を持っている。
「フハハハ!! わがはい見・参!! なのだぁぁぁぁぁ!!」
ピンク色の鎧の姿となったアナがベルの後ろでがっちり構える。
「そのようなもの、わがはいたちには効かないのだ! 吹き飛ぶがいい! ボルテックスハート!」
アナの胸から青とピンクのハートが渦のように際限なく放たれる。
ハートはシガーの作り出す渦を止め……いや、押し返していく。
「なっ、嘘だろ……!? ちぃっ!」
シガーはそれを見て焦ったのか、水を渦の形から俺たち全員を囲む球体の形に変化させる。
「串刺しになって死ね!」
分厚い水球から水の槍が際限なく撃ち下ろされる。
「貴様、暴力的なのだ! わがはいのように愛に満ち溢れた攻撃をするべきなのだ!」
「うるせぇ! てめぇは厄介だ、ここで死ね!」
「フハハハ!! ちょいとわがはいたちの力を舐めすぎでは無いか? わがはいは一人では無いのだぞ?」
「なにを……うぐっ…………!?」
突然シガーを空中に持ち上げていた水の柱が崩れ、同時に俺たちに向かってきていた水の槍も、水球も崩れ去ってしまった。
「何が起こって…………」




