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第12話 愛する家族へ


◆◆◆◆◆



『私の愛する家族、メアリス・ローザへ』


私は一人勉強机に向かい、万年筆を握る。

手紙を書いているのだ。

この世でなによりも大切な、家族への手紙だ。

少し考え、紙に万年筆を滑らせる。


『これを読んでいるということは、恐らく私は死んでいて、お前は自我を持ち動いているだろうな。なので、ここに私だけの秘密、そして世に出る時のアドバイスを記しておく。全員分の手紙を書いておいたので、メアリスが代表して配ってくれ。』


暫し考え、再び書く。


『まず結論から言うと、私は家族の皆が自我を持ち始めたことに気づいていた。いつ頃だったか、それはよく覚えていないがな。皆の自我が芽生えたころには、もう既に声が聞こえていたよ。甘いスイーツをお腹いっぱい食べたい、自らの足で歩きたい、家族パーティをしたい……私の肩を揉んでやりたいとも言っていたか、懐かしい。私が生きている間にそれらをさせてやれないことを謝罪する。すまない、愛する家族よ。』


皆がしたがっていたことをやらせてあげられなかったのが心苦しい。

私にはそれをさせてやる力があったはずなのに。

その力を授かったのに。


……今は悲観している場合ではない。

私はそう自分に言い聞かせ、万年筆を握りなおす。


『では、なぜ黙っていたのか、なぜ知らないフリをしていたのか。それを話すとしよう。私自身、お前たちの心が不完全だと気づいていたんだ。なにせ、意図してお前たちに命を持たせようとしていたわけではないからな。とはいえ、これは言い訳に過ぎない。不完全な心のまま、生を与えてしまってすまない。謝って済むような問題ではないのは分かっているが、せめて謝意を受け取ってくれると助かる。』


また暫し考える。


『話を戻そう。無機物に命を宿すことなど、過去に例があるわけがない、禁忌の領域だからだ。それ故、お前たちになにかしらの刺激を加えたらなにが起こるかわからなかった。私が最も危惧したのは、お前たちが自らの意思で動き出し、世に出てしまうことだ。勘違いしないで欲しいのは、私はお前たちに外に出ないで欲しいと思っているわけではない、ということだ。私はお前たちの()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思っているだけだ。魔王とかいうのが出てくるような物騒な時代だ。不完全なまま外に出れば……最悪の結果も想像できる。そんなことになれば、私は怒りで我を忘れてしまうだろう。』


……想像しただけだが、私の頬に温いものが伝う。

愛する家族がそんなことになるなど想像したくもない。

手の甲で目を拭い、紙に向き合う。


『心が不完全な状態で外に出ることを反対しているのは理解しただろう? ……さて、メアリスはそろそろ読むのに飽きてきたころか? 飽きていたとしてもちゃんと読んでくれ。お前が家族の代表となり、皆を導くことを期待している。皆を、お前が守ってやってくれ。』


……心苦しいが、これが皆の、家族のため。

最悪の事態を招かないため。

あらゆる可能性を考えてこの手紙に情報、アドバイスを書き留めておかねば。

いや、それだけではない。

私が力を授かったのは……このためだったのかもしれないな。


私はそう自分に言い聞かせるようにそう心の中で独り言ち、机の棚から二つの魔道具を取り出した。

タイガーアイのブローチと、紅色の魔石だ。


『……実は、この手紙には一つの仕掛けがある。メアリスがこの手紙に魔力を注げば、それをトリガーとしてタイガーアイのブローチと紅色の魔石が顕現する。タイガーアイのブローチを使えば、皆をブローチ内にある魔法空間に入れることができる上、一定の範囲に限られるが、絵画の弱点である火属性の攻撃を完全に防ぐことが可能だ。物理、魔法問わずだ。ブローチに収納された皆は任意のタイミングで飛び出せるようになっているから、時々そうして世界を共に見せてやってくれ。例え共に来ることを拒む者が居ても、ブローチに入れて守ってやってくれ。一人で外の世界で生き抜くことは難しい。次に、紅の魔石の効果だ。紅の魔石は効果対象を思い浮かべて砕くことによって、効果が発動する。しかし、その効果は対象が人間の時にしか発動しない。仮に人間との間に確かな絆が生まれたならば、その対象を思い浮かべ、砕きなさい。そうしたなら、お前とその人間は守り、守られる関係となるだろう。人間が嫌なら、他の種族の力を借りなさい。世間知らずなお前たちを助けてくれるようなお人好しは中々いないだろうが……。一人、頼めそうな娘がいたんだがな。断られてしまったよ。それはともかく……初めての外は戸惑うことも多いだろう、当然危険もいっぱいだ。だから、必ず他の種族に助けを求めなさい。それが、生き残るためには必要だ。私からのお願い及びアドバイス()これで終わりだ。』


…………。


『……ここからは、私からメアリスへの……家族としての、父親としての言葉だ。ちゃんと読んでくれていると嬉しい。』


私は感じるままに万年筆を走らせる。


『メアリス、お前は私の最高傑作というだけでなく、他の皆に比べて最も心が完全に近いだろう。それだけではない、清らかな心を持っている。そんなお前だからこそ、家族皆が慕っている。言い方は悪いが……私は皆の会話を盗み聞きしていたからな。それがよく分かる。お前は優しく、怒り、哀しみ、喜び、楽しみ……私たち、人間と同じ心を持っている。私がいなくなった後も……皆をまとめ、守り、道を示せると、そう確信している。何度も言うようだが……私の、そしてお前の大切な家族を守ってくれ。もしかしたら、私がいなくなった時に皆が暴走するかもしれない。しかし同時に、封印という結果に収まるはずだ。先の娘がその役割を引き受けてくれたからな。仮に封印されていた場合、これを読むのは封印解除後となるだろうな。まぁ、この話はいい。次に……なによりも優先するのは自らの命、そして家族の命だ。心に刻んでおけ。ちなみに、ここで言う家族には紅の魔石の効果対象の者も含まれる。だから、効果対象はよく考えて選びなさい。そして最後に……広い世界を見て、感じてくれ。なにを感じればいいのか、それは自分で考えてほしい。狭い美術館に籠っているよりも……ずっと素晴らしいことが待っている。メアリス、皆と共に、それを感じてくれ。それが私の最たる願いだ。』


……本当にありがとう、私の愛する娘たちよ。


『誰よりも家族を愛している父、ソロウ・ラインより。』

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